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ノームの能力

 おはようございます。はじめまして。


 それでは、引き続きよろしくお願いします。

 「いい加減……機嫌を直せ……な、ヒロ」

 「ヒロ殿……マーテル殿はそなたをからかおうとして、そういう事をしたわけではないのじゃよ」


 俺のいない間に……何かあったのか?このふたり。

 俺がふたりの関係を聞こうと、口を開きかけた時だった。


 部屋に掛けられた木製の時計から規則正しいリズムで音が鳴りはじめた。

 もう……そんな時間なのか。音のした数から、今が14時だという事が理解できる。


 俺は時計に目をやりながら思った。

 普段何気に使っている道具について、俺はあまり深く考えたりした事は今までなかった。

 この時計でもそうだが、細かい事は何ひとつ知らない。

 回路に魔力を流す……ただそれだけで、道具は回路に刻まれた通りの動作をこなしてくれるからだ。


 使うたびに1回、1回流さないといけないものから、この時計のように一度魔力を流せば数年間は勝手に動き続ける物までさまざまにある。

 回路って実際なんなんだろうな?そう考えると、マーテルの見せたあの反応の方が普通なのではと思えてしまう。


 「ヒロ~」

 視線を声の方へ向けると、マーテルが甘えた声を出して指先にまとわりついているのが見えた。


 おそらく……俺が拗ねてそっぽを向いたと勘違いしたのだろう。

 それはともかく、お前……まだ、その格好のままなのかよ。

 俺は心底呆れてしまう。

 俺が便所へ行くのに部屋を出てから、1時間近く経つだろうか。


 もう身体も衣服も乾いているはずなのだが……おそらく何かに夢中になっていて、そこまで気がいかなかったのだろう。

 では……こいつは何に夢中になっていたのか?


 「フーベルさん」

 「ん?何かなヒロ殿」

 「マーテルとは知り合いなのですか?」

 「……」

 知り合いなのか……答えがすぐに返ってこなかった事で、俺はそう確信する。


 「ナッナ二ヲイッテオルノジャ」

 「声が裏返ってるぞ」

 分かりやすい奴だ。あからさまに目を泳がせるマーテルに俺は苦笑してしまう。


 「マーテル……」

 「なっなんじゃ……わっわしはお主に、なっなにも……かっ隠してなんかないぞ」

 ほほぉ……何かを隠しているのか。


 「もう……それはいいよ。お前にも事情ってもんがあるのだろうし」

 「ずいぶんともの分かりが良いではないか」


 だから……なんでそんなにお前は偉そうなんだよ。


 「まぁまぁ……ヒロ殿。疲れたじゃろ……茶でも飲んでひと息つきなされ」

 いつの間にか、俺の目の前に先ほど飲んだものと同じだろうお茶が置かれていた。


 「ありがとうございますフーベルさん」

 熱い……カップからは湯気が立ちのぼり、いい香りが漂っている。


 「どうじゃ?」

 「美味しいです」

 「そうか、それは良かった」

 爺さんは嬉しそうに微笑む。


 「ところで、フーベルさんにふたつ聞きたい事があるんですが?」

 「うむ、なんでも聞いてくだされ」

 では、遠慮なく。


 「水をどうやって沸かしてるんですか?」

 さっきはあまり気にすることなくスルーしたが、室内にある火元と言えばロウソクぐらいなものだ。


 しかし、ロウソクは除外していいだろう……湯を沸かすには火力不足すぎる。

 それ以外で湯を沸かせそうなものは、俺の見える範囲ではないように思えた。


 「なんじゃ、そんな事か」

 爺さんはそう言って懐から布製の小袋を取り出すと、口を縛っているひもを緩め中から赤く丸い実のような物を取り出した。


 「ハティオという」

 「ハティオ?」

 初めて聞く言葉だ。


 「こうやって使うのじゃ」

 爺さんはそう言いながら新しいカップを用意すると、そこに水を注いでいき……ハティオをその中に入れた。


 「終わりじゃ」

 「えっ?終わり?それだけ?」

 「……持ってみなされ」

 俺は爺さんに促されカップに手を伸ばし……。


 「うぉっ!?」

 あ……熱い。


 「お湯だ……」

 「わしらノームは、手先の器用さと植物の知識に長けておる」  

 「これは、何かの実なんですか?」

 「幾つかの植物を調合調整したものじゃ」

 「す……すごい」

 植物ってすげぇ――俺は心からそう思った。


 「そうじゃろう。フーベルの凄さがわかったか!」

 いきなり、マーテルが俺と爺さんとの会話に割り込んできた。

 なぜ……お前が威張る。

 が……ここでこいつに構ってしまうと、話がいつまでも前に進まない。


 「ハティオに関しては、もう良いかの?」

 「はい……ありがとうございますフーベルさん」

 俺は構ってくれオーラを出しまくっているマーテルを無視する。


 「では……もうひとつの質問に答えるとしようかの」

 そう言うと爺さんは、ソファーに腰を掛け直した。


 「フ……フーベルの凄さがわかったか!」

 先程よりも強い口調で、俺の手を揺さぶりながらマーテルが叫んでいる。


 「ふたつめの質問……フーベルさん……あなたはいったい俺に何をさせるつもりなんですか?」

 「なんで……そう思うのじゃ?」

 俺なら見ず知らずの他人に、なんの理由もなく食事をおごったりはしない。


 「そう思わない方がおかしいと思いますが……」

 爺さんは急に真面目な顔つきになって押し黙ってしまった。

 怒らせてしまったか――俺がそう思った次の瞬間だった。


 「いやはや!わしは、この年まで生きていてよかったと今日ほど思えた日はないわい」


 なんなんだよ……いったい。

 いきなり豪快に笑いだした爺さんに、俺はどう接していいかわからなくなってしまった。


 「いやはや……ヒロ殿。そなたと居ると、あのお方と居る様な錯覚を覚えてしまいますわい」

 「あのお方って……」

 「フーベル!フーベルのすごさが~~!!」

 わざとだとしか思えない絶妙なタイミングで、マーテルが喚きはじめた。


 「フーベルさん……」

 「なんじゃ?」

 「少し待ってもらってもいいですか?」

 「あぁ……わしの方は全然かまわんが」


 落ちついて会話をするためにも、先にこいつを片付けなければなるまい――俺はわめくマーテルを見ながらそう考える。


 「マーテル……ちょっといいか?」

 「お……おう、なんぞわしに言いたい事でもあるのか?」

 目をキラキラさせるな……。


 「あぁ……俺はお前にどうしても……今伝えておきたい事があるんだ……」

 「そっ……そうか、まぁ……そこまで言うなら聞いてやらんでもない」

 「ありがとう……」


 マーテル……覚悟!


 「おまえは、いつまで……服を着ずにその格好のままでいるんだ」

 「えっ……」


 マーテルは一瞬時が止まったように動きを止め、それからのろのろと自分の体に目を向けた。


 「おっおのれ~ヒロ!」

 次の瞬間、マーテルは顔を真っ赤にさせながら叫ぶと、信じられない早さで自分の干していた衣服をかき抱いた。

 勝った……俺は心の中でガッツポーズを決める。


 「こっ……これで勝ったと思うな!ヒロ~」

 俺の心を読んだかのような捨て台詞を吐くと、マーテルは脱兎のごとく駆けてタブレットの中へと吸い込まれるように消えていった。

 最後までお付き合いただきありがとうございました。


 次回更新10日5時になります。


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