食事と水とマーテル
おはようございます。はじめまして。
章タイトルと中身が合わない様な気がするので、副題とともにいい案が出次第変更しようと思います。
よろしくお願いします
アルファポリス重複投稿
室内に届けられた食事は予想外に豪勢なもので、目を輝かせてはしゃぐマーテルを尻目に、俺は自分の顔色が青くなっていくのを感じていた。
「フーベルさん……」
「なんじゃ?」
「俺……実は……」
「支払いの事なら心配無用じゃぞ。ここは、わしの奢りじゃから遠慮なく食べてくだされよ」
そ……そうか、支払わなくてもいいのか。
俺はあまりにもホッとしすぎて、ご馳走を前に自分の食欲が失せてしまっている事に気が付いた。
「ほれっ……早く食わんか。せっかくの馳走が冷めてしまうではないか」
まごつく俺に、爺さんは手近な料理を取り分け強引に手渡してきた。
「何を遠慮しておるのじゃ。さっさっとせんと、わしがみんな平らげてしまうぞ」
マーテルはそう言いながら、自身の身体より数十倍の大きさのチキンにかぶりつこうとしている。
お前の辞書には『遠慮』という文字が存在せんのか。
爺さんが注いでくれた水を受け取りながら俺はそんな事を思っていた。
「満足されましたかな?」
「うむ……わしは今大変満足しておる」
マーテルは足を投げ出す格好で、満ち足りた表情をして腹をさすっている。
「それはよかった、よかった」
食事が終わり、マーテルと爺さんの会話を聞きながら俺は思った。
こいつら、どんな胃袋してんだよ……と。
特にマーテル……お前はいろいろとおかしい。
「なんじゃ……じろじろと……わしの顔になんぞ付いておるのか?」
「口元にソースがべったりとな……」
「な……そういう事は早く言わんか!馬鹿者が!」
マーテルは次の瞬間、顔を真っ赤にし口元を抑えてフキンを探しまわり始める。
「フーベルさん、どこに行くんですか?」
水が入っていたガラス製の容器を片手に、爺さんがいきなり席を立った。
「ん?水が切れてもうたからの。1階に下りてもらってこようと思っての」
水をもらいに行ってくる?
あぁ……そうか、道具が使えないんだったか。
「ヒロ!ソースなんぞ、どこにも付いとらんではないか!」
やっと気付いたか……。
「フーベルさん。水なら俺がそこで汲んできますよ」
騒ぐマーテルを無視して、俺は爺さんに声を掛ける。
「おっ……そうか、そうじゃったな」
そう言って頭を掻いている爺さんから俺はガラス製の容器を受け取ると、水を汲むべく室内の流しへと足を向けた。
数ある道具の中で流しほど便利な物はないと俺は思っている。
何故なら、いちいち水を汲みに井戸を往復する必要がないからだ。
水が出る仕組みは俺にはわからんが、なるほどと思わせる無駄のない形状をしていると思う。
木製の木の筒が壁から突き出し途中で直角に曲がっていて、折れ曲がった筒の先には穴があいており、そこから水がお椀型の形状をした受け手へと流れ落ちていく。
受け手は、木の筒の先から流れ落ちた水があちこちに跳ね散らないような工夫がされていた。
俺は容器の口を筒の先に近づけるような形で置くと、魔力を込めるために筒の根元付近の壁に埋め込まれている木製の板に軽く右手を添えようとした。
「マーテル……」
俺の顔のすぐそばを、何かが走っていくのが見えて俺はため息を吐いた。
「おまえってやつは……」
いつの間に肩に乗っていたんだ。
腕伝いに必死の形相で手の平目掛けて駆け降りていくマーテルに、俺はただ……ただ呆れるしかなかった。
「おい!そんな勢いで走ると……」
危ないぞ――俺が言葉を言い切るのと同時に、マーテルが案の定足を滑らせ流し台へと落下してしまう。
「あっ……」
注意が一瞬マーテルに反れてしまったせいで、俺は水量調節に失敗してしまった。
「ぬぉ~!」
次の瞬間……マーテルの口から、奇妙な叫び声がもれた。
止める間もなかった。
瓶の口から盛大に溢れた水がマーテルの全身をくまなく水びたしにしていくのを、俺はただ……見届ける事しかできなかった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
マーテルを絡めた道具や背景、この世界の世界観の説明はそろそろ終わりになります。
次回更新9日5時
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