道具2
おはようございます。 はじめまして。
もはや……語る事もありません。
よろしくお願いします。
アルファポリス重複投稿
「よし……じゃあ……いくぞ」
「いつでもよいぞ!準備万端じゃ!」
う~む……さっきも似たようなやり取りがあった気がするが……。
それにしても……こいつ、わざとやっているんじゃないだろうか……。
マーテルは俺の左の手の平の上に乗って、覗きこむような体勢で右手の動きに注目している。
問題はその姿勢だ。
下から上に見上げるようにしているのだが、四つん這いで上半身だけを這わせるような姿勢のせいで、必然的に尻が突き出す格好になってしまう。
結局突き出すんかい!とは、もう絶対突っ込まないぞ。
「流すぞ」
言うが早いか一瞬で部屋全体が明るくなってしまう。
「ほほぅ……これは大したもんじゃのぅ」
爺さんの感心したような言葉を背中で聞きながら、俺は目の前で首を捻っているマーテルに声をかけた。
「……で、なんかわかったのか?」
「わ……わからん」
なんじゃそりゃ。
「あ……あれで終わりなのか?光も音もなんも出んかったぞ」
「そんなの当たり前だろ」
使用するたびに光や音が出まくるような騒がしい代物が、一般家庭に広まるわけがないだろうが。
「な……なんという事じゃ」
そう言うと、マーテルはがっくりとうなだれてしまった。
「結局、尻の振り損だったというわけだな」
「『振り損』って言うな!」
「まぁ……どういう物かというのはわかったんだから、それでいいじゃないか」
「い~や……わしは納得せんぞ」
そういうと、マーテルは考え込むような仕草をみせる。
「納得せん……って、お前な……」
こいつは子供か。
「……そうじゃ!お主、壁に穴をあけて……」
「却下」
「なんじゃ……まだ、最後まで……」
「壁に穴をあけて、その隙間から直接回路を見に行くって言いたいんだろ?」
「少しちがう……」
少しって……少しは合ってるのか。
「壁に穴をあけるまでは合っておる」
そうか……そうか……って、なんでお前はそんなに偉そうな態度をとっているんだ。
「問題はそのあとじゃ」
そう言うと、マーテルは俺に指先を突きつけてきた。
「隙間から回路へ行くじゃと……このたわけが!壁の中は暗いんじゃ、行ったところで中の様子などわかる訳がないじゃろうが」
「ふむ……確かに言われてみれば……一理あるな」
感心するような事でもないんだが。
「ふふん……わしの方が一枚上手のようじゃの」
「そうか……そうか、じゃあ『一枚上手の』マーテルさん、そろそろ答えを教えてもらってもいいですかね」
「お主……ここまで言ってわからんとは……」
心底あきれたような表情でマーテルは話を続ける。
「……暗くて様子がわからんのなら、明るい場所で見ればいいだけじゃろうが」
「マーテルさん……」
「な……なんじゃい?」
何が言いたいかは分かった。が……だ、たわけはお前だ。
「『壁に穴をあけて回路を外に引きずりだす』なんて出来るわけがないだろ」
と……いうか、どこをどうしたらその発想に辿り着くのか。
「では……わしは、わしは……」
マーテルはそう言うと、顔をうつむかせ身体を小刻みに震えさせ始める。
「わしは?」
「え~い!やっぱり納得がいかん!今すぐやれ!さぁ、やれ!やれって言ったらやるのじゃ!」
マーテルはそう言うと、その場でひっくり返って足をバタバタさせ始める。
あぁ……もう付き合ってられん。
「俺は絶対やらん!やらんと言ったらやらん!」
「なんという……なんという頑固者じゃ!」
いや……それはおまえだろ。
「わしがこんなに丁寧に頼んどるのに、お主と言う奴は……」
丁寧……なのか?俺にはそうは見えんのだが……。
「ど~しても……ダメか……?」
今度は起き上がり、目を潤ませながら哀願してくる。
「そんな、甘えた声をだしてもダメなものはダメ!」
「ど~しても?」
「ダメ!」
俺はこの時完全に油断をしていた。
マーテルの攻撃手段が『耳を捻る』だけだとなぜか思い込んでしまっていた。
だから、マーテルが乗っている俺の左手の親指に噛みつこうとしているのを、ただ……茫然と見送ってしまったのだ。
「いっ……!」
あまりの痛さに、反射的に手を振ってマーテルを振り落としそうになるのをこらえる。
「お……おまえな……」
「お主が頑固なのがわるいのじゃ!」
もう……本気で頭にきたぞ。
「あのな!壁に穴をあけて、回路を外にだすなんて……」
俺が怒鳴ったのとノックと共にドアが開いたのが、ほぼ同時のタイミングだった。
「あっ……」
開かれたドアの向こうには、3人分の食事を運んできた給仕さんの姿があった。
「お客様……」
「……はい」
「お部屋のご利用に関しましては、節度のあるご利用のほど……よろしくお願いいたします」
給仕さんの抑揚のない静かな声が、空しく室内に響くのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次回が食事になって、そこから展開が少し変わってきます。
ちょっと強引に話を変えたような感じもしないでもないです。
次回更新8日19時です。
よろしくお願いします。




