宿にて
おはようございます。初めまして。
この章から、最初の旅の目的100万ガルドの奪還から勇者らしい物へと移っていきます。
自分で決めているというよりは、状況に流されてという状態が続きます。
少しずつ、自分で意識しないうちに自分の心境が変化していく過程を描いているつもりです。
よろしくお願いします。
アルファポリス重複投稿
「少々……狭苦しいかもしれんが……好きな所へ掛けておくれ」
少々……狭い?これが?
爺さんに連れられ入った宿の一室はとても広く、立派な装飾と調度品の数々が俺達の事を出迎えた。
「のぅ……ヒロ……わしには、この部屋が広くて立派に見えるんじゃが……お主にはどう見えとる?」
マーテルも同じ疑問をもったらしい。
「いや……実際広いし……かなりいい部屋だと思うよ。それに……」
「それに?」
「この部屋に入る前に、1階の受け付けを通っただろ」
「うむ……通ったな」
「あそこで、あの爺さん……3人分の食事を直接部屋に届けるように言ってたのを覚えてるか?」
「そういえば……そんなやりとりをしとったのぅ。しかし……それがどうかしたのか?」
「普通……そういう対応は宿はしないんだよ」
「ほほぉ……それで?」
「1階の奥の方で、人がたくさん居た事には気付いていたか?」
「うむ……確かに、1階奥に人がたくさん居たのぅ」
こいつ……落ち着きがない割に、結構周りを見てるな……。
「そこが食堂なんだよ。自分で注文して、受け取って、最後食器も自分で返す。これが、宿における食事なんだよ」
「なるほどのぅ……直接宿の者に食事を運ばせ後片付けもさせるというのは、相当珍しい事なんじゃな」
「珍しいというか……かなりの上客の扱いだよね……これって」
この爺さん何者だよ……身なりとかを見る限り、凄そうには全然見えんのだが。
「何をしとるんじゃ。早う座らんか」
中々座ろうとしない俺達(正確には俺)に爺さんが手招きしながら催促してくる。
「えっと……その……なんか部屋が暗いなぁと……」
俺はこそこそ爺さんの事を詮索していた事を、咄嗟に誤魔化そうとそう言ったのだが。
「おぉ……それは気が利かんですまない。すぐに明るくするでな……少し待っとれ」
爺さんはそう言うと使い古された革のカバンから、これまた使い古された銀の燭台を取り出し、ロウソクを立てはじめた。
「ちょっ……ちょっと待った!」
これにはさすがに俺も驚いて声をあげてしまった。
厩みたいな所で寝泊まりするならいざしらず、田舎とはいえ王都にある宿のそれも上等な部屋でロウソクで明かりをとろうなど、考えられない事だったからだ。
俺の住んでる村でも、ロウソクを使って明かりをとっている家など見た事も聞いた事もない。
「突然大声をあげて、いったいどうしたんじゃ?」
「いやいや……照明器具付いてるでしょ?それを使いましょうよ……」
「『照明器具』とは、お主ら人間の道具の事かの?」
「そうです。それを使えば一瞬で明るくなるじゃないですか」
「すまんが……それは無理というものじゃよ……わしらは人間の道具とは相性が悪いのじゃ」
そうなのか……普段人間以外の種族と接する機会がなくて、他の種族が道具を使えないなんて全然知らなかった……。
「えっと……じゃあ……俺が明かりを点けてもいいですか?」
「おっ……そうじゃったお主人間じゃったの」
爺さんはそう言って豪快に笑うと、
「では、そうしてくれ……わしもその方が助かるわい」
爺さんはそう言いながら、俺に明かりを点けるよう促してきた。
「なんじゃ……ヒロお主、これから道具を使うのか!?」
こいつは……本当に道具に興味津々だな。
「使うって言うか……照明の回路に魔力を送るだけだよ」
「回路に魔力を流すのか?」
「だから……そうだって言ってるだろ」
「わ……わしも見たいのじゃ!いいじゃろ?ヒロ」
目をキラキラさせながらマーテルは俺の顔へとにじり寄ってくる。
「いいよ!見ていいから!とにかく近いって!マーテル!」
俺はマーテルから発せられる香りに、また頭をくらつかせるはめになってしまうのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
しばらくは、道具の説明を兼ねた世界観、背景の開示になると思います。
次回更新8日5時
よろしくお願いします。




