「萩」の三画目で待ち合わせをしたときの話
ある日、郵便受けに一通の手紙が入っていた。
『どうしても伝えたいことがあるので、7月10日の17時に「萩」の三画目に来て欲しい。』
という内容のものであった。
そこには、差出人の名前も住所も書き記されていなかった。
『「萩」の三画目か』
「萩」は僕が小学生の頃住んでいた町で、もう随分と足を運んでいなかった。
ちょうどその日は仕事も休みであったこともあり、僕は十数年ぶりに「萩」に帰ってみることにした。
駅から三画目まではバスも出ているのだが、時間に余裕もあるし、ここは「書き順」の通り一画目から順に歩いて行こうと考えた。
「萩」の一画目
二画目に行くには、少し遠回りになるが 、僕は通っていた小学校から昔すんでいた自宅までの道を辿っていった。
不思議なものでそのとき背中には、何も背負っていなかったのにもかかわらず、ランドセルの重みがふと思い出された。
「萩」の二画目
僕が住んでいたころは商店街のように道沿いに店が立ち並んでいたのだが、今は多くが住居や空き地に変わっていた。
よく通っていたミスタードーナッツも建物を残し、店を閉めていた。
『もう少し早く帰ってきていればなぁ』
店のウインドに目をやると、そこにはあのころの自分とはだいぶ変わってしまった現在の自分が映しだされていた。
「萩」の三画目
僕は時間通り「萩」の三画目に着き、手紙の差出人を待つことにした。
しかし三画目のどこで待っていればいいのか。
TSUTAYAか?それとも、交差点の先のあのパン屋か?
そもそも待ち合わせの相手を知らないのだから探しようもない。
僕は二時間近く「萩」の三画目の交差点で待っていたのだが、
ついに僕に声をかける人は現れなかった。
僕はパン屋で昔よく食べていたエビカツサンドを買い、「萩」の三画目を後にした。
「追記」
帰ってから手紙をよく見返してみると、待ち合わせ場所は「萩」の三画目ではなく、「荻」の三画目であった。