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「珍しいじゃないか、遊里が遅刻するなんて」


 昼休み、俺が一人弁当をつついていると、やたら楽しそうで上機嫌な和人が、机をくっつけて俺の前に陣取った。


「朝ちょっとゴタゴタしててな、そういうお前はやけに機嫌がよさそうだな」

「そんなにわかりやすいか?」

「にやけてる、というか、緩んでるってレベルで顔が締まってないぞ」


 なんとなくというか、十中八九その原因には心当たりがあるのだが、できれば、俺の予想が外れてくれているとうれしい。


「実は昨日、とても素敵な女性に出会ってしまってな」

「そうか……そいつはよかったな」


 深く重いため息が漏れそうになるのを必死に堪えて、できるだけ平然と言葉を返す。やっぱりそれか、そうなってしまうのか。何かの間違いでもっと素晴らしいことが和人に起きていて、昨日のことなんてすっかり忘れていてくれればよかったのに。

 当然そんな都合のいいことが起きるわけもなく、和人は俺の目の前で弁当の包みを解いている。

 しかし、これはこれでいい。作戦に支障はない。


「これが本当にすばらしい女性でな、流れるような黒髪に、透き通るような白い肌、憂いを帯びた瞳に、女性らしい細い体躯。制服があれほど似合う姿を見た事がない。その割りに運動神経がよくて、少し中性的な声も印象的だった」


 一応目の前にまったく同じ条件の同一人物がいるんだが、普通気づけるわけもなく。褒められるのは嬉しいけれども、早いところ我が友には正気に戻ってもらいたい。


「すばらしい、という割には外見的な要素ばかりなんだな。案外見てくれだけで性格は最悪かもしれないぞ」


 自分で私の事を蔑むのは心が痛いけれど、背に腹は変えられない。ここは高地の出番が来る前に、多少なりとも株を下げておきたい。


「まだ名字くらいしか知らないしな、実際のところ、どういう人物なのかはわからん。健全な体にこそ健全な魂が宿るというし、きっと性格も素晴らしいに違いない」

「さすがにそのこじつけはどうかと思うぞ」

「もし万が一彼女が下種で心無い悪逆非道の限りを尽くすような性格だったとしても、オレの一生をかけて更生させてみせる!」


 だめだ、俺が思っていた以上に和人の心は私に奪われてしまっている。もしかしたら、高地の付け入る隙もないくらいに。だからといって諦めるわけにはいかないし、そもそも、この問題を解決しないことには私の行動が和人にまで制限されかねない。最低でも振るところまで絶対にしておかないと。下手したらあまりのショックにこいつ死ぬかもしれないけど。


「よくもまぁ名字しか知らないような相手にそこまで入れ込めるな」

 俺のそんな突っ込みに、和人は弁当をつつく箸をとめると、うむと、頷いて、悩むように顎に手を当てる。

「俺もそう思って少し調べてみたんだがな。この学校に長月という名字の生徒は僅かに四人しかいなかった。そしてその四人供、午前の間にあってきたが、俺の求める長月さんはいなかった。彼女、彼らに姉妹がいないかと聞いてもみたが、該当者はいなかった」

「よく調べたなそんなに」

「これでもそれなりに人脈はあるからな。その後、もしやと思って名前での該当者がいないかとも探ってみたが、やはり見つからなかった。どうしても気になって職員室の生徒名簿を貸してもらって調べてみたが、やはり該当はなかった」

「いやまて、そんな個人情報の塊、一生徒に貸してもらえるものなのか?」

「俺が悪用などするわけがないからな」


 いや、どう考えてもこれは悪用だろう!?

 というか高地の時もそうだったけどこの学校の教師どもの優等生への信頼度高すぎじゃないか?

 ていうか個人情報がガバガバ過ぎる。そのうち重大な情報流出して何人か首が飛ぶんじゃないだろうか、冗談抜きで。

 そして我が親友も自分の思い人を探すために躊躇いなくそんな個人情報の塊に手を出せるあたりなかなかにクレイジーだ。


「あぁ、長月さん、あなたはいったい何者なのか。俺の心をこれほどまでに掻き乱す、美しさに、その謎の多さ。もしかして、もしかすると、何らかの事情で学校に通うために偽名まで使う必要があるというのだろうか。例えば、どこかの良家の妾の子なのだが、正妻との子ができず、そのまま跡取りとして引き取られたのはいいものの、正妻からは執拗な嫌がらせをうけ、名字を変えることも許されず、虐げられているのではないだろうか」


 どういうぶっ飛んだ発想なんだそれは。いやまぁたしかに、薄幸ながらに、がんばっている女の子を助けたいというのは、男なら誰もが思い描くストーリーなのかもしれないけど、少なくとも私に関してはそのような設定など一切なく、まったく持って普通な少女であると声を大にしていいたい、言えないけど。

 ともかく、こいつが私にベタ惚れなのは嫌というほどよーくわかった。ならば、ここから、作戦の第一段階に移るための準備をしよう。


「そんなこと、現実にあるわけないだろ。ていうか、そんな相手とどうやって出会ったんだお前は?」

「それがな、高地に呼び出された時に偶然な」

「なら、高地ならなにか知ってるんじゃないのか?」


 というか、こいつならもう既に声をかけていてもおかしくない気がしていたんだが。


「本人に直接関わりがある相手に聞くというのはなんだか気恥ずかしくないか? こちらの情報もあちらに渡るわけだし、なにより、告白の現場も見られているから、多少は気まずさもある」


 情報が渡るどころか、お前は今その相手の目の前でその相手の個人情報まで調べ上げようとしていた事をべらべらと語っているんだけどね?

 しかし、以外と奥手なところがあるんだなこいつも。こういうことには場慣れしてると思ったんだが。


「他に手がかりがないんなら、直接聞いてみるしかないだろ?」

「うむ……たしかにその通りだな。放課後にでも声をかけて見る事にする」


 よし、と、心の中でぐっと拳を握る。これで第一関門はクリアだ。後で和人が声をかけてくることを高地に教えておかなければならない。やつが緊張しすぎてまたまともに会話にならないなんて事になったらせっかくの頑張りが水の泡になってしまう。

 弁当を食べ終えた俺は早速高地に連絡してやるべく、携帯がポケットに入っているのを確認すると席を立つ。


「珍しいな、昼の間はいつも教室にいるのに」

「これ以上お前ののろけ話を聞いてられないんだよ」

「それは悪い事をしたな。次は気をつけるさ」


 軽く笑って流す和人を残して俺はさっさと教室を出た。普段教室で携帯なんていじらないからこそこそとやってると逆に目立ってしまうだろう、しかも同じ教室内にいるやっはり普段から携帯なんぞいじらない高地まで携帯をいじってたら、察しがいい人間ならなにか気づいてしまうかもしれないからな。

 俺は一人になれる場所を探して適当にぶらぶらと校内を移動し始めた。




「どうだったのよ、結果は」


 幸せそうな顔をしている高地にコーヒーとお茶請けのクッキーを出してやりながら、言葉を投げかける。


「聞きたい? 聞きたいの? どうしようかなぁ」


 放課後我が家にやってきた時から高地はこの調子で非常に舞い上がっているあたり、作戦はきっとうまくいったのだろう。それはわかるけど、今朝のあの様子からこのはしゃぎ用、なんというか、理不尽なものを感じてしまう。最初からそうだけどさ。


「浮かれるのはいいですけど、報告してもらわないことにはこれ以上作戦の進捗は望めませんよ」


 一人ソファの方に腰掛けてテレビを眺めていた鈴が冷静に突っ込みを入れる。頼もしい我が妹分はいつもどおり私が帰宅したときには既に家にいて寛いでいた。相変わらずどのような移動手段をもちいているのかは謎である。


「わかってるわ。そういうあんたこそそんな寛いでやる気あるの?」

「仕事の能率とやる気の有無はイコールで結べるものでもないと思いますが。心配しなくともやるべきことはきちんと理解していますよ」


 馬鹿にするような鈴の口調に高地がギリっと歯軋りをする。

 どうにもこの二人、相性が悪い気がする。というよりは、高地が一方的に噛み付いていて、それを鈴が適当にあしらっているだけの気もするけど。どっちにしろ、喧嘩をしていても話が進まない。


「で、結局、どういう風に落ち着いたの?」


 二人の間に割って入るようにしながら高地に聞く。高地もこのまま睨み合っていても拉致があかないと思ったのか、おとなしく引いて、説明を始める。


「放課後吉池君にちょっといいかって声をかけられて、長月の友達かどうか確認されたから、うん、って答えたら、長月さんに俺のことを紹介してくれないかって頭下げられた。あぁ、なんだろ、ここだけ思い出したら腹が立ってきた……」

「愚痴は後で聞くから、続けて」


 理不尽に腹を立てるやつに話の先を促させる。


「そこからは緊張してたから曖昧だけど、事前にあんたたちに言われてたとおり、紹介するついでに、よかったら相談乗ろうかって言ってみた……そしたら、そしたらさ、吉池君、わたしの手を両手で握って『おお、助かるよ高地! いいクラスメイトを持てて俺は感激だ!』って、言ってくれたの」


 真っ赤な頬を両手で押さえながら身をくねらせてへらへらと笑う高地はものすごく幸せそうだ。和人の手の感触を思い出しているのか、両手に頬擦りまでしている。

 テンションをあげるのはいいけれど、和人の口ぶりからしてあんな呼び出しがあった後だと言うのにまったくそういう相手としては見られていないのは、なんだか哀れでかわいそうだ。本人は有頂天で気にした様子がないのは救いなのか否か。


「で、そのあと、とりあえずアドレス交換して、今日の夜あたり、軽くメールするかもって」

「告白の時はあれだけ緊張してたのに、随分進歩したわね」

「朝からイメトレを繰り返した成果よ。なんなら今からわたしのこの偉業を祝うためにあんたがすき焼きでもしてくれていいのよ!」


 確かに偉業並みの進歩かもしれないけどなぜ私が高地のためにすき焼きなぞ作らなければならないのか。我が家の家計は言うほど余裕がないのだ。主に私のために支出が多いせいだけれど。


「浮かれている暇などないでしょう、あなたは実際相談されたとき、どう返せばいいかわかっているのですか?」

「そんなの、とにかくイメージの悪い方向に誘導していけばいいんでしょ」

「友人のことをこき下ろすような人を好きになる人が果たしているでしょうか? 確かに瑠璃姉さんの悪評だけを流して評価を下げることは簡単ですが、その後、告白を成功させることが本題でしょう? ならばやはり応答はある程度考え、それとなくイメージを悪くしていくのがいいでしょう」

「めんどくさそう」


 嫌そうな顔でばっさりと切り捨てる高地。気持ちはわからないでもないけど、確かに高地のマイナスイメージまでついてしまっては元も子もない。


「めんどくさくてもこれは必要なことです。まず長月瑠璃の設定をはっきりさせること、二つ目は言うまでもないですが二人を会わせようとしてはいけません、これは後のちの作戦に響きます、もちろんアドレス等の連絡手段を教えるのもだめです、必ずあなたを通してやり取りをするように。

 その過程で、長月瑠璃は消極的に、吉池さんを避けているようにみせながら、あなたは逆にそれをフォローするように発言してください。それであなたの株が上がるはずです。

 このあなたの株をあげる、という行動がもっとも大事なことです。たしかに多少なりとも瑠璃姉さんへの好感度を下げておくことは必要ですが、どのみち、吉池さんは姉さんに振られることは確定しているのです。そこよりも、あなたの良いイメージを植えつけておくのが、最良の選択と思います」

「長いわよ! もっと端的に言えないの!?」


 理不尽な高地の怒りにわざわざ説明する気はないのか、淡々とした説明を終えた鈴は話すことはもうない、とばかりにテレビの方へ向きなおってお茶請けを無感情に食べ始めている。

 しかたがないので、私が私なりに解釈したように説明をいれる。


「とりあえず、和人の欲しがりそうな私の情報を揃えておく。あとは、私と和人の接触を避ける過程で、何かしら私に責任を負わせつつ、高地はフォローを入れて自分の評価を上げる、ってところかしら」

「なるほどね、それくらいなら容易いわ」

「だといいけど、私の設定って言い方はあれだけど、まぁあとで纏めてメールで送ってあげるわ」

「あんたの性癖暴露とか正直見たくもないんだけど、ま、作戦のためには仕方ないわね」


 あながち間違いじゃないかもしれないけれど、もう少し言い方を考えて欲しい。こんなでも一応女の子なんだからそういうのはちゃんとオブラートに包むべきだと私は思う。

 まぁ突っ込むだけど無駄だろうし、何も言わないでおくけど。




「それで、いつまでいるつもりなのよあなた」


 日もすっかり暮れた十九時を過ぎたころ、私はそろそろ夕飯の準備でもと思っていたのだが、なぜかまだ高地が私の部屋にいる。というか、鈴の横でソファに寝転がってテレビを見ている。


「だってさ、あんたそろそろ帰らないとまずいんじゃないの?」


 しかもそんな見当違いのことを鈴に向かって喋っている。当然のように鈴はそんな高地の言葉をスルーしてバラエティ番組に集中している。いつから我が家はこんな珍空間になってしまったのか。


「高地、あなたのことを言ってるのよ」

「なんでわたしなのよ、この子はいいっていうの?」


 ソファの上に飛び上がって起き上がった高地が隣の鈴を遠慮なく指差す。瞬間的にその指を無言で叩き落とす鈴。

 高地がとても和人には見せられない形相で鈴のことを睨んでいるが鈴はやはりテレビに集中したままだ。もうやだこの二人。


「鈴は暇な時は家でご飯食べていってるし、別にいいけど、家も近いし」

「わたしの家だって近いし別にいいじゃない。ご飯食べていったって」

「なんでそんなに家にいたがるのよ? 人のこと変態呼ばわりするくせに、その変態の家にいたがるとか、なにたくらんでるの。あと、鈴は食費払ってるけど、払ってないあなたのご飯を出せるほど家に余裕はないの」

「食費!? ていうかいまさらだけどそういえばあんた達どういう関係なのよ! あんた散々女に興味ないとか自分が理想とか言っといてまさか彼氏彼女だなんていわないでしょうね」

「そんなわけないでしょ。幼馴染よ」

「幼馴染っていっても高校生にもなってそんな相手の家にわざわざ遊びに言ってご飯食べにいくとか普通ないでしょ!?」


 なんでいきなり高地はヒートアップしているのだろう、と疑問に思ったものの深く考えるまでもなく普段から躁鬱激しいやつだし、またなにか変なスイッチがはいってしまったに違いない。

 しかし困ったことに、実際今言ったのが理由の大半でそれで納得してもらえないとなるとなんともいえないのだが。

 私がどう説明したものか困っていると、唐突に鈴がテレビを消す。

 自然、私達の視線はそちらへ向かう。


「補足するならばあたしは、瑠璃姉さんのお母様から瑠璃姉さんの様子を見てくるようにと頼まれています。食事やあたしの快適な生活のはその対価です」


 そういえば母がそんな感じなことを言ってたのを思い出す。まぁでも週一くらいでいいって言ってたはずなんだけれども。食費は払ってくれてるし、なにかと私が私でいるための手伝いとかしてくれてるし、悪いことはないのだけれども、逆に鈴が私に縛られている気がして申し訳ないくらいなわけで。


「へぇ……そもそもなんであんた高校生で一人暮らし?」

「父親に絶縁されたからよ」

「ふぅん……はぁ!? 何とんでもないことをさらっといってるのよ!?」


 今日の高地はいつも以上にキレッキレだなぁ……一瞬納得したように沈静化したと思ったら一瞬でいつもの剣幕に戻るこの瞬発力。芸人になったらボケでもツッコミでもそつなくこなすマルチプレイヤーになれることだろう。


「別に私としては実際たいしたことでもないし」

「高校生どころか周りでも父親に絶縁された人なんて聞いたことないわよ」


 それはそうだろうけれども、実際私だって知らないし。

 とはいえ、なんというか、本当にもう自分の中ではどうとも思ってないというか、そもそも、そのほうがお互いのためになったのだと納得している部分が大半で、それほど重大なこととも思わないわけで。


「家の父ってまぁ古風な人でね、男は強くあって女を守るもの、みたいな考えを未だにもってるわけ。それが悪い、とは言わないけどね。そういう人が、自分の子供がこういう趣味を持ってると知ったら、どうなるかはまぁ、大体想像つくでしょう?」


 それでも中学卒業までは面倒ちゃんとみてくれたあたり、本当に生真面目な人だ。私の顔なんか見たくもなかっただろうに、食事はきちんと家族全員でとろうとするし、あれはあれで悪い人ではないんだけれど、互いにどうしても譲れないことがあったから、こうなってしまった、と言うだけの話に過ぎない。


「あんた思ったより苦労人だったのね……そのうえ、超ど級の馬鹿だわ。普通絶縁たたきつけられてまでそれ、続ける?」


 私の格好を指差しながら呆れたように高地が言う。


「瑠璃姉さんが超ど級の馬鹿、という点に関しては概ね同意します」


 まさか二人の意見が合致する日がこんなにも早く来るとは……私が馬鹿にされてるだけなんだけどさ。

 しかし、たとえどんなに馬鹿にされようとも、こればかりは譲れないのである。


「目の前に理想郷があるのに、躊躇する必要なんてないでしょ」


 たとえそれがいつか消える幻だとして、目の前のそれを求めないなんてこと、私にはできやしない。


「やっぱりただの変態じゃない」

「もう変態でもなんでもいいから、いい加減帰ったら?」

「わかったわよ、せっかくだからご飯食べていこうと思ったのに」


 なんてずうずうしいことを考えていたのか、一回こいつは中身を入れ替えないといつまでたっても和人とは付き合えないんじゃないだろうか。


「瑠璃姉さんのご飯がおいしいのは同意しますがこんな時間まで女の子が変態の部屋にいるのはどうかと思います」


 鈴まで変態って言い出してしまった。なんて日だろう、高地のせいで、あんなに優しかったかわいい妹分が酷いことに……。


「あんたもそれは一緒でしょうに、調子狂うわねほんと……いいわ、とりあえず、吉池君から連絡があったらたぶん電話かけるから」

「了解。もう暗いし送ってくわよ」

「変態と一緒の方がよっぽど危ないわよ。それにあんた、ご飯の準備あるでしょ」

「ですね、代わりにあたしがいきましょう」


 女の子二人じゃ結局危ないと思うんだけど、こういうところ、我ながら父の血を継いでいるのだと思うと、なんとも複雑な気持ちになる。

 しかし、鈴の方からわざわざこんなことを言い出すということは、何か考えがあるのだろう。ただの気まぐれかもしれないし、なにかしら、高地と話したいことでもあるのかもしれない。

 実際夕飯の準備を考えれば鈴がいってくれるならかなり楽になるわけで、仕方なく甘えることにする。


「心配だけど、鈴がいってくれるなら確かに、助かるわ……防犯ブザーはちゃんともっていってね」

「お任せください」

「それじゃ、長月、また明日」


 二人が出て行くのを見送ってため息を吐く。夜道を女の子二人、と言うのも不安だけど、あの二人の組み合わせ、というのも、また別の不安がこみ上げてくる。大丈夫……だとは思うけど。

 気になって仕方がなかったけれど、調理を始めれば、体はすっかりと染み付いた動きで手際よく料理を進めていく。母が鈴に頼んだのも、多少なりともこういう気持ちがあったのだろうか、そう思うと、なんとも言えない気分になる。

 引っ越してからこっち母にこちらから連絡なんてしたこともなかったけど、今度少し時間があいたら久しぶりに話してみてもいいかもしれないなんて、そう思った。

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