01 セッションをする前に
いよいよ、セッション準備が終わりました。
プレイヤーを募集して1週間。とんでもない結果に、私は変な汗をかいた。
「参加者が13人?」
驚愕の事実だった。普段、なんの変哲もないセッション(TRPGのプレイ単位)を募集しても、参加者が集まらないことだってあるのに、まさかの13人である。
一般的にTRPGはGM1名とPL4名がスタンダードとされているのだけど、その括りで考えてもPLが5名で2卓規模である。大入りだ。
さて、これで私は考えなければならないことが増えてしまった。誰と卓を囲むのか、である。リアル知人もいれば、オンラインで知り合った人も居るが、幸いにも今回の企画に手を挙げた13人は私が実際に会ったことのある人達だった。
初心者からベテランまで、一つのシステムを遊び倒す人も居れば、新しいシステムを好んで渡り歩く人もいるという選り好みすら出来る状態。私の頭はフル回転だ。
ぴこーん! 閃いた。
「そうだ、持ち回りでやろう。」
今考えれば、バカの所業である。複数の基本ルールを組合せ、新しいルールを整形すると言っているそばから、GMを順繰り回していこうというのである。だけど、私はそれに気づかなかった。だって、13人も集まったから。
参加希望者を"ゆかいぷ"に集め、マイクを繋ぐ。そして私は、満を持してそのキーワードを言い放った。各人は言葉に詰まったり、大爆笑したり、椅子から転げ落ちた音を鳴らしたりした。小一時間ほど意見交換を行ったところで、私は再度お願いする。
「今回、3つの基本ルールと全部の追加データを利用して、キャンペーンをやります。折角、皆が集まってくれたのだから、この中から4名以上の都合が会う日にセッションを開きます。GMは持ち回りで、全13セッションくらいかな。」
皆の言葉を待つ。すると、はーいと朗らかな声があがった。
「キャンペーンの方法は了解。楽しそうだから参加したい。だから3つのルールのどこをどうすり合わすのかだけ、決めといてくれれば文句は言わない。」
一人喋り始めたら、早いもので、気づけば全員がGMを持ちまわって遊ぶことに了承してくれていた。涙が出そうになった。彼ら彼女らと決めた、全員がGMをするに当たって守る条件は次の通り。
①今回のキャンペーンに参加する14人のPC作成にて
キャラクターの種族が被らないようにする。
②対人戦を認めるが、遊ぶ上では必ずアングルを宣言する。
③1回のセッションに参加する最大人数は
GM1名+PL8名とする。それ以上いる場合はNPCを動かそう。
④基本となるルールは―――で、追加データは各自が
既に持っているものを使うこと。無理して買わない。
etc……
決められた約束事は全部で8つあったけど、この4つが分かっていれば、困ることは少ないだろう。私は、最初のGMを務めるにあたり、細かいルールとデータの摺合せを率先して行った。
2週間後。全員で3つのルールの齟齬を徹底的に潰し切った。あとはそれぞれのGMが如何にそれを効果的に運用できるかという程度の溝だけが残ったが問題は少ないだろう。3日後の土曜日に東京都秋葉原にあるロール&チョイスのプレイスペースで、待望のスタートセッションを行うことを約束した。
◇◆◇
スタートセッションまで、あと2日。
私も含めた参加者全員の分身となるキャラクターが出揃った。皆で"どこどんとふ"に集まりダイスボット(デジタル処理でさいころを振ってくれるプログラム)を駆使して、やいのやいの言いながら作った時間はとても楽しかった。全員違う種族という縛りを入れたため、多少剣呑な雰囲気にはなったのは内緒だ。なお、最初の卓に参加するのは、青黒い肌に長耳が特徴なダークエルフ、魔力を含む鉱石が意思を持ったアンチモニー、真っ赤な一つ目のサイクロプス、額から2本の角が生えているオニの4種族4名となるらしい。なんだろね、物騒な物語になりそうだ。
スタートセッション前日。
私は、ルールの最終確認に余念が無かった。14人で作ったルールとデータは気づけば1冊の本になっていて、各GMが舞台さえ用意すれば、あらゆるイベントをさいころを転がすだけで組み合わせることができるまでになっていた。明日、どんな舞台を用意しようか。頭を捻っているうちに、すっかり夜は明けていた。
ある年、ある月、ある日。あるものはプレイスペースで、あるものはダイスボットで、そしてあるものは自室で、一斉にダイスを振った。
私たちの冒険はここから始まった。
誤字脱字など、指摘して頂けたら幸いです。