寿限無……改め
(枕)
昔も今も、親ってのは我が子の名付けに思い悩むものでございます。
昔はとにかく無病息災、長生きを願って「寿限無」なんて長い名前をありがたがってつけたもんでございますが、現代は少々勝手が違いまして……やれ姓名判断だ、画数がどうだと、手元の小さな箱とにらめっこ。
文字の意味より数字の良し悪し。本末転倒な親御さんが増えたようでございまして。
(本編)
父親:「和尚様! 和尚様! 生まれました、男の子でございます! つきましては名付けのご相談に参りました。とにかく長生きで、強運で、大金持ちになるような目出度い名前を授けていただきたく……」
和尚:「おお、それは誠におめでたい。よしよし、それなら長寿と繁栄に縁のある良い言葉を授けよう。……『寿限無』はどうじゃ? 寿命に限りがない、実に目出度い名じゃろ」
父親:「じゅげむ……(懐からスマホを取り出し、画面をポチポチと叩く)……あー、和尚様。それダメですわ」
和尚:「なに? なぜじゃ」
父親:「これ『地格』が12画で凶なんですよ。思春期に挫折しやすくて、おまけに中年以降に胃腸を壊すってサイトに書いてあります。ボツで」
和尚:「むむ……胃腸までわかるのか……。では『雲来松』はどうじゃ。雲の上の松のように、青々と高く長く生きる」
父親:(ポチポチ)「あー、それだと『人格』と『天格』が相剋しちゃってますね。上司運が最悪です。会社で出世できません。ボツボツ」
和尚:「……では『長助』は? 長く助かる、素朴だが良い名じゃぞ」
父親:(ポチポチ)「総格15画で吉……まあ悪くはないですけどねぇ。なんというか、もっとこう、パーフェクトなやつが無いですかね。どこをどう切っても大吉みたいな……あ! ありました! 和尚様、ありましたよ完璧なのが!」
和尚:「ほう! どんな名じゃ?」
父親:「これです!(スマホの画面を誇らしげに見せる)」
和尚:「どれどれ……ん? なんじゃこの漢字は……『屁』に『長』に『出』……? 『屁・長・出』……?」
父親:「はい! 『へながでる』と読みます!」
和尚:「へ、へながでる……!?」
父親:「見てください和尚様! 天格、人格、地格、外格、総格のすべてが『天下無双の超大吉数』! 陰陽のバランスも完璧、五行も大流動の水生木! 300年に一度出るか出ないかの、最強無欠のスーパーラッキーネームです!」
和尚:(額に青筋を立てて)「バカ者めが!! 屁が長く出ると書いて何が最強じゃ! お前は我が子に『スーッと長く出る放屁……』みたいな人生を歩ませる気か!」
父親:「でも和尚様! 画数で見たら大金持ちになって健康長寿、世界を制するって……!」
和尚:「ええい黙れ! 画数だのサイトの占いだのに惑わされて、漢字の意味を忘れるとは本末転倒じゃ! 名付けというのはな、親から子へ贈る『最初の祈り』なんじゃぞ! 屁が長々と出続けることに、一体どんな祈りが込められておるのだ!」
父親:「……あ。」
和尚:「なんじゃ、反省したか」
父親:「違います和尚様。子どもにつけるから『祈り』とかややこしい話になるんです。僕が改名すればいいんですよ! 僕が『屁長出』になれば、今すぐ大金持ちの強運男になれるじゃないですか!」
和尚:「な……なんだと!?」
父親:「よーし、そうと決まれば今から役所に行って『今日から僕は屁長出です』って手続きしてきます! 和尚様、素晴らしいヒントをありがとうございました!」
和尚:「あ! おい! 待て! 戻ってこい『屁長出』!!」
(サゲ)
画数ばかりに気を取られて、肝心の中身をすっぽかす。
誠に、臭い話でございます。




