8.多分告白より嬉しい
『いきすぎたアピールは控えてほしい』
触れると火傷しそうな恋を、無添加の熱を突きつけたのだ。当然の反応だと思う。
彼女は僕のキラキラに蓋をした、表現にネガティブな意図はない。
湯たんぽだって、布を巻いてからでないと楽しくなれない。おなじおなじ。
ようやく抱きしめられる温度になって、『あー、僕、ほんとにダメだな』と思う。
彼女にとって心地の良い距離感とか、温度感を考慮しようとせず、自分の気持ちばかりを先行させて。
焚き火にかざした手をどけると、指先が煤けて見えた。
でも、嬉しかったんだ。
手のひらに残った余熱をギュッと握りしめ、手放す気にはなれないくらいホカホカで。
『好きとかはお互いのことをよく知ってからの方がいいと思う』
彼女が僕たちの物語に『続き』をくれた。それがたまらなく愛おしい。ので——。
僕は髪の毛をすべて剃り落とした。
「意味がわからない!」
第一声叫ばれた。
坊主である。
帽子は脱いだ。ハゲが目立つが、むしろ全員見ればいい。その分彼女へ向く視線が減るってものだ。
断髪に深い意味はなくて、自戒だろうか。
ようは意識を切り替えるためのイメチェンなのです。
「ほんまもんのお地蔵様じゃん!」
小日向さんのツッコミにクラスメイトがくすくすと笑った。ウケて若干嬉しそうな小日向さん。
とはいえ僕たちの会話に誰も入ってこようとはしない。昨日のお揃いニットが原因だろう。
『見守ってあげようね』的な生暖かい空気感が流れている。それに彼女は気づいているのかな。
「……どうして髪の毛切ったの。もじゃもじゃ、似合っていたのに」
あは、この子は僕の対処に手一杯だ。
にしてもまぁこそばゆいことを言ってくれる。
人一倍言葉を慎重に選んでいるくせ、製造元が愉快な工場だから、愉快な製品しか卸されてこないのだ。
一方こちらもコミュ障ですので、本来であれば、『君が好きだから』みたいな発言を恥ずかしげもなくしていただろう。
でももう、成長したもん。
「……」
「黙って優しく微笑まないでよ。ほんとにお地蔵様みたいで、不気味だよ」
「ひとつ、確認しておきたいのだけれど。僕たちは互いのことをもっと知りたいと画策している。その認識は間違っていないよね?」
無言の返答。
ジト目で睨まないで。見つめてしまうよ?
「僕はその関係性を『友達』と呼称しているわけだが」
「と、友達?」
首肯する。
彼女が困っている。そうか、やはり僕の懸念は正しかったのか。
僕たちはまだ、友達にすらなれていなかったのだ。
「良ければお友達になりませんか?」
友好の手を差し出す。握り返してはくれない。
でも大丈夫、僕は待つと決めたもん。
彼女は苦しそうにおしだまる、しばしの沈黙だ。
「……」
沈黙。
「……」
沈黙。
「……」
沈黙。
「小日向さん?」
結局待てなかった。情けない男だ。
「……私、友達とか、できたことありません」
「うん」
「だから、友達という言葉に、めっぽう、よわいのです」
「うん」
「それ、本気で言っているんですか?」
「うん」
呆気に取られた顔している。かわい。
「きょうび友達になろうって打診するのも珍しい話だけれど」
冗談なんか言うものか。僕はいつだって君に本気だ。
「僕は小日向さんと、友達になりたいです」
「よろしく。お願いします、木洩日くん」
早かった。逃げる子猫を捕まえるくらい早かった。
触れてもいいのかなと、どこまでも慎重になっていたくせ。いざ離れるそぶりを見せると、遮二無二手を伸ばしてしまう。そんな感じの握手だった。
「私は、友達同士で隠し事をしたくありません」
「うん」
「だから、正直に伝えてほしい」
「うん」
「私、嘘とか、裏腹とか、建前とか、よくわからないから。君の言葉を、信じる他ないから」
「うん」
「本当は私のことが嫌いなのに。嫌いじゃないって君が取り繕うなら、私は信じることしかできないんだ」
「うん」
「私、喜んでもいいの?」
腰が抜けた。椅子がなきゃ尻餅ついてた。あまりにもトキメキがすぎる。
あぁ——。
僕が、僕が、僕が嬉しい。
僕が嬉しいんだよ。
落ち着け僕!
「君が、喜んでくれた、のなら。僕も大変、喜ばしい。だって僕たち。友達だ、もん」
マズったな。前髪がないと、泳ぐ視線を隠せないのか。小日向さんを注視できない。
「……照れてるの? 棒読みじゃなきゃ、私今、死んでたよ。ありがと」
実は僕にとっても初めて友達だったりする。
でもそんなこと、どうでも良いい。
この友好はトロフィーになりえない。
感慨すら突き抜けた痛快であり。
こりゃ、しばらく立ち上がれないよ。




