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小日向さんはハゲてても可愛い  作者: 海の字
小日向さん視点
7/8

7.木洩日くんノート

 木洩日じぞうは学校をサボりやがった。

 午前10時の訪問だ。

 なんてやつだ!


「このうえなく安心した。本当に体調が悪かったんだね」


 彼はスポーツドリンクやゼリー飲料がたらふく入ったコンビニ袋を手渡してきた。


 その安心は、『僕に会いたくなかったから、ズル休みした訳じゃないんだな』という意味合いが見え隠れ。


 へーんだ。5%くらいはそれもある。


 昨日は疲れすぎて、帰ったら寝込んでしまった。

 朝起きたらなんだか身体が怠くて、微熱があった。


 別に驚かない、ときたまあるんだ。


 知恵熱じゃないけれど、心が大変ザワザワした次の日なんかは、こうして体調を崩しがち。


 マスクと冷えピタ姿の私を見て。

「じゃ、またね」

 彼は帰路に着く、なんて呆気なく。


 何で? 何ですぐ帰れるの? ムカつく。

 好きとかいうなら、少しくらい名残惜しそうにしろよ。学校よりもお見舞いの方が優先順位高いのなら、瞬間を大切にしてよ。


 わけわかんない。


 でも、真に私の体調を気遣ってくれているんだなってことは、分かってしまうから。


「……入って」


「なぜ?」


「家に親いないから!」


 言っちゃった。


「すごい。人生で一度は言ってみたいセリフを言えちゃった人の顔している」


 私の家はとても狭い。オンボロアパートのワンルーム。トイレは共同で、お風呂が無いから銭湯を使わなければいけない感じの。ギシギシと床が愉快な。


 入ってきた人は大抵驚く。


「え、一人暮らしなの?」


 家具や調度品は最低限しかなく、シングルベッドが部屋の大半を占めている。


 私は小学三年生のころから一人暮らしだ。

 兄弟は五人いて、全員もれなく両親に愛されているのに、私だけが家から追い出されてしまった。


 両親は二人ともモデルの仕事をしている。兄弟たちは皆美しく。つまりルッキズムの奴隷だ。


 私の頭を見ていたら気が滅入るらしい。だから追い出された。

 別にいい。私からしても、家族と過ごすのはあまりにコンプレックスが刺激されてしまうから。

 互助関係が成立しているのだ。


 はい、そうです。

 私の家族は普通じゃない。こんな奴の両親だから、ちゃあんと猛毒です。


 ともすれば問題は深刻で、『テーマ』にすらなりかねない。


 求めていません。

 私にとっては今の境遇こそが普通で。

 悩んだりも、そりゃああるけれど。

 木洩日じぞう。今は君の方がよほどの懸念事項だ。


「私はネグレクトをされています。だから一人暮らしです。おわり」


「両親は二人とも不倫をしていて、最近離婚しました。ストレスでハゲちゃいました。おわり」


 二人のバックボーンは早々に終わらせた。

 私たちの関係性において、何ら重要で無いから。


「本題に移ろう。小日向さんはなぜ僕を家に招き入れてくれたの?」


「どうして学校サボってまで来てくれたの? 放課後でもべつに良かったじゃん」


 二人して黙る。

 質問の答えは、きっとどちらも同じ意味を持つから。


 あとでじゃダメだ、明日じゃダメなんだ。


 コレは今処理しておかなければ、どんどん膨らんで、手がつけられなくなってしまう類の感情だから。


 私たちにとって、一日はあまりにも長く、残酷なまでに誠実だ。


「好きだから」「好きって言わないで」


 二人の声が重なる。唇を硬く結んで、木洩日くんはおし黙ってくれた。


「その言葉を聞くと、胸が苦しくなる。痛くて、気分が悪くなる」


 どうして私を好いてくれるのか知らない。君がどんな人なのか。これぽちも見当つかない。


 一方的に押し付けられる好意は、刃物ほど鋭利だ。


「だからもう、言わないでほしい」


 今、どんな気持ちなのだろう。

 彼の顔は見れなかった。深呼吸して、なけなしの勇気を振り絞って。


「まだ、言わないでほしい」

「まだ?」


 小さく頷く。恥ずかしすぎて死にそうになる。


「好き? とかは、もっとお互いのことを、よく知ってからの方が、いいと思う。だからその、過度な好意とか、いきすぎたアピールとか。ごめんなさい。控えてほしい、です」


 私にしては、ちゃんと自分の気持ちを伝えられた方に思う。

 一晩ずっと、ぐるぐる、ぐるぐる、考えていた言葉だもん。


「……分かった。僕はあまりに自分の好意を優先しすぎていたみたいだね。君の気持ちを疎かにしてしまった。ひとりよがりだった。気をつけます」


 そんなことないよって言えるほど、私は性格が良くないから。無視して──。

「これ、用意しました」


 一冊のノートを差し出す。

 表紙には『木洩日くんノート』と書いている。

 彼を知るために用意した白紙だ。


「二人のノートが、お互いいっぱいになったら、あらためて君の気持ちを聞かせてほしい」


 私という人間の浅ましさを知って、それでもなお『好きだ』と言ってくれるのなら。


 今度こそ私は、向き合わなければならない。


 これが私にできる、最上級の譲歩、最大限の歩み寄り。


「……嬉しい。僕はまだ、たくさんを知れる」


 何だよそれ。ほんと、わけわかんないやつ。


 1ページ目。

『ひとりよがり。独善的。個人主義者。キザなやつ。不思議。意味わかんない。もじゃもじゃ頭。浮世離れ。心底ムカつく』


 でも。


『私のことを見つけてくれた』

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