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小日向さんはハゲてても可愛い  作者: 海の字
小日向さん視点
5/8

5.私は私のことが嫌い

 私、小日向エンマの人生において。

 『好き』って言葉は初めてだった。

 お互い、会ったばかりなのに。


 どうして私なんか。

 何の取り柄もない、愚図で、間抜けな私なんか……。


 そもそも、君はいったいだあれ?

 茶化しているの? 

 憐んでいるの?


 面白がって、告白を受けたら、『ドッキリでした』ってやつやりたいの?


 でも、そんなことをするような人には見えなかったんだ。


 良くも悪くも表情が希薄で、なのに姿勢はピンと立てて。真面目そうな人。


 木洩日じぞう。君は何者なのか。


 昨夜は思考がずっとグルグルで、ひとつも寝れやしなかった。そのせいでまたしても遅刻した。

 あー、最悪!


 好きなんて言葉、頂いたことないから。

 どう返事をすればいいのかわからない。

 嬉しさよりも、不信感の方が万倍だ。

 だから返事を先延ばしにした。それがいけなかった。


 木洩日じぞうは、一夜にしてとんでもないものを用意してきた。


 小日向さんノート。

 ぶったまげた。


 ──その推理が、ほとんど的を射ていなかったから。


『確信的パジャマについて』

 

 私は本当に寝坊しただけだ。

 心配性が祟って、前日に校則を読み耽ってしまった。

 焦るあまり着替えを忘れ、飛び出して。ある程度到着の算段がつくと、冷静になりふと気づく。


 私パジャマじゃん! と。

 初日から怒られるのは嫌だ、でも着替えに帰っている猶予はない。


 言い訳を考えた。


 たまたまというか、それのせいというか。

 校則を精読していたから、どうにか屁理屈をこねることができた。別にパジャマでもいいでしょ! って開き直ることにしたのだ。


 君は否定してくれたけれど、そうだよ、その通りなんだ。

 私は感性がぶっ飛んでいるから、パジャマを恥ずかしがれなかった。


『戦略的逃避行について』


 足、遅いだけ!


 単純に私の運動神経及び体力が絶望的なだけ!

 ハゲを見られたのが恥ずかしすぎて、あとからじわじわ現実感がわいてきて。訳わからんくなって、逃げ出した。


 タカシ君の気持ちを考えられるほどの余裕がなかった。私はそんなに性格が良くないからね。無神経なやつですよ!


 ムカつく。


『打算的トキメキについて』


 違う、違うんだ。

 ごめんだけれど、私は君のことなんて見ていなかった。

 自分のことに必死で、周りのことなんて何一つ考慮していなかった。

 

 君の特徴に気づいたのは、単に帽子を貸してもらうとき、ハゲがチラッと見えてしまっただけなんだ。


 私は人一倍、他者の髪型を気にしているから。


 さやかさんのツインテール、もうちょっと巻いた方が可愛いのに。

 ゆいちゃんのハーフアップ、似合っているな。

 橘さんのおさげ、髪型で真面目ぶっているくせ、リボンはひらひらのオシャレなやつ使っている。


 いいな。いいな。羨ましいな。


 私は人の髪型をいの一番に見てしまう。

 だから一等早く、君のハゲに気づけた。


 でも、それはみんなだって同じでしょ? 


 みんな、私の頭ばかりを見ているもの。

 頭ばかり見て、私のことは見ていない。

 だれも目を合わせてくれない。


 私はみんなと同じ視点でものを見ているだけだ。

 みんなに合わせているだけ。  

 悪くない。

 

 なのにね、木洩日くん。

 どうしてか君だけは、私のことを見ていたんだ。

 あのとき、恥ずかしがる私と、目が合ったんだ。


 私が見つけたんじゃない。

 君が見つけてくれたから、君の存在が浮き彫りになったんだよ。


 でもどうして? どうして私を見てくれるの?


 ちっともわからない。

 推理はどれも見当違いなのに。 


 水性ペンだったのは偶然手に取ったからだし。

 ドラゴンボールは普通に好きな作品だからだし。


 なのにどうして、『笑われるより笑わせたい』っていう、今まで言語化できていなかった私の『祈り』を。君は見つけてくれたの?


 私でさえ無自覚だった、必死の抵抗。

 正体をなぜ見抜けた。


 それだけが気がかりで、放課後、こうして君と話しをしている。


 伝えたいことはたくさんあった。

 考えて、考えて、考えた先にこぼした言葉は一つだけ。


「きもちわるい」


 何も知らないくせに、知った風に目を輝かせる君が。

 こんなにも思ってくれているのに、受け止めきれない自分が。


 ムカつくんだ。あのクラスで君だけが、私の醜態を笑ってくれなかった。


 全部ひっくるめて、胃がひくついて気持ち悪い。


 心底、性格が悪いな。

 私は、私のことが嫌いだ。

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