4.小日向さんノート
「こちら、小日向さんノートです」
「昨日の告白既遂を受け、もう一度君の性質を深く知る必要があると思ったんだ。僕はプロファイリングが趣味でね。えぇえぇ、分かっていますとも、自分のキモさは自分が一番。だから引かないで〜」
「では、しばらくお耳をお貸しください」
「僕は小日向さんの言動行動をつぶさに観察し、その性質に一つの結論を導き出しました」
「君は皆が思っている百倍強かで。皆が思っている百倍性格が悪い」
「当初、小日向さんはドジでおっちょこちょいで、鈍感な無垢色の女の子だと思っていた」
「でも、そういう子タイプじゃないんだよね」
「僕は人間の裏側が好き。取り繕ったペルソナを剥いだ先にある本当が、闇が。深ければ深いほど、思慮深く人間性が高いというのが僕の宗教だからね」
「引かないで……」
「家に帰って、一度僕の初恋を整理してみました。すると見る景色も変わった。今から君の素顔を暴くとしよう」
「まず第一の疑問。『確信的パジャマ』について」
「帽子を忘れ、あんなに驚いていた君がなぜ、パジャマは恥ずかしがらなかったのか。単純に感性がぶっ飛んでいるから? 本当に?」
「君は計画的にパジャマ姿を選んだんじゃないの? 証拠に、パジャマであることの正当性を、事前に校則を読んで調べていたじゃないか。パジャマだけでなく理論武装を着込んでいたじゃないか」
「パジャマで登校したらウケると思ったから」
「次の疑問は『戦略的逃避行』について」
「あの奇行はやはり不自然だ。君はタカシから赤白帽を借りて、はっきりと感謝を伝え、彼の思いやりを受け取った。なのに『恥ずかしい』からって逃げ出すのはやや不誠実だ」
「タカシが『俺が悪いのかな』と思ってしまうかも。その考えに至れないほど、君は無神経な奴じゃないと思う」
「あ、ちなみにタカシはまったくもって気にしていなかったよ。あいつ無神経だから」
「何より君の足が遅すぎた。僕にはどうも、『先生早く捕まえて〜』って言う風にみえちゃったな」
「登校初日で脱走したらウケると思ったから」
「最後の疑問は『打算的トキメキ』について」
「僕の様子を見れば、髪型になんらかのコンプレックスがあることは明白だ。証拠にニット帽を脱いだとき、君は驚かなかったね」
「昨日キャップを渡すの、ためらったから気づいてくれたの? でも、ささやかな機微に気づけちゃう人が。『教室内なのに一人だけ帽子をかぶっている異常』で察せないのは不自然だ」
「はなから僕の悩みに気づいていた。その上で帽子を脱げと促したんでしょ。僕が嫌がったら、すぐに断って」
「『人の気持ちを思いやれる子』だって、皆にアピールするチャンスだと思ったから。それとも──」
「僕がトキメクと思ったから?」
「大きくはこんなところ。あとは油性から水性ペンに変えていた学習能力とか。ドラゴンボールネタを事前に履修していた周到さとか。なにより君の個性を、懸命にお笑いへ昇華させようとした努力が垣間見えた。たくさん勉強したんだね。笑われるより、笑わせようとしたんだね。君の秘めたる知性と品格を勘繰れる点は、本当にたくさんあったよ」
「君は皆が思っている百倍強かで。皆が思っている百倍性格が悪い」
「でもね。その『裏側』は、いつだって切実で実直で。泥臭く芯が通って。『みんなと仲良くなりたい』に帰結している」
「君は皆が思っている百倍強かで。皆が思っている百倍性格が悪い。でも──」
「君は君が思っている百倍素敵だよ」
「僕は直感で一目惚れし、論理で頭脳惚れした」
ご清聴ありがとうございました。
骨抜き。クラゲ。ふわふわ。漂う。流れて、流れて、ビリビリして、痛い。好きだなぁ。
「以上、告白でした」




