3.好きバレ
小日向エンマは天津飯で登校してきた。
第三の目が開眼していた。
天丼!?
この一年に懸けすぎでしょ!
身体張りすぎてて僕怖いよ!
あと、ワンピース姿似合うね。
それならまぁ、先生には怒られないだろう。
僕は怒るよ、みんなに君の素敵が見つかってしまうじゃないか。
「木洩日くん、おはよう、ございます」
「小日向さん、おはよう」
今朝はなんだか予感があった。
なーんて言えれば乙な表現。
実は内心わかっていた。彼女が一番乗りで学校に来るだろうってことは。
校則を読み込むくらい生真面目な人が、同じ過ちを続けて繰り返すとは思えない。
彼女は頑張れる子だ。
十中八九、早めに学校へ来るだろうと予想していた。
にしても早いなぁ〜、まだ始業まで一時間もあるよ。嬉しい。たくさんお話しできそう。とても嬉しい。
「木洩日くんはいつもこんなに早いの?」
「小日向さんに会いたかったから」
「……?」
……言葉選びをミスってしまったかもしれない。
探偵ごっこが好きだ。予想が当たって、つい嬉しくなってしまったのだ、僕の悪癖である。
小日向さんは鳩豆顔でポカンとしている。
あーあ、好きバレしちゃったな。
「昨日は面白かったよ」
「昨日? クリリンのことか?」
「……」
「クリリンのことか───────っ!!!!!」
「うるさい! 原文ママで叫ばないで。まったく、豊中市民であってもお笑い戦闘民族の血は濃いようだね」
「スーパーサイヤ人になっても、この頭じゃ金髪にはなれないけれど」
「ツッコミ辛いボケをしないでおくれ」
彼女は短くため息を吐いて、椅子の上に三角座り。膝に顔を埋めている、ちっちゃくて可愛い。
「ムカつくの。『昨日は』ってなによ。暗に今日はすごくないって伝えないでよ」
懐からウェットティッシュを取り出し、おでこを拭いてあげる。
すんなり消せた。油性から水性になっていたから。
「僕、女性芸人が容姿イジリされるの好きじゃない。不憫に思えてしまうから」
「はー。君はアレだね。関西人の風上にも置けないね。お笑いを語る資格がない。君みたいなやつが一番失礼で、一番女性芸人を見下しているんだよ。彼女たちは命をかけて身体張っている。つまり視聴者は真摯に向き合うべきなんだ。甘んじて爆笑しなきゃ。……シンプル男尊女卑だし。素人が変な意味合いを後から付け足さないで」
あ、まじでキレているやつじゃん。めちゃ早口!
「あ、ご、ごめんなさい。言い過ぎ、ました」
内省も早い。そう言うところが好き。
「お笑い好きなんだね」
静かにこくんと頷く。赤面している。
一般論で言えば、けして優れた外見ではない小日向さん。けれど僕は、彼女をとても可愛らしく思う。
そう思える自分の感性が嬉しい。
と同時に、やっぱり僕って性格悪いなぁって思う。
「小日向さんは芸人じゃない。普通の女の子がそこまで頑張る必要はないと思うな」
「普通? 普通じゃないよ。みんなが言うの。私、頭おかしいんだって」
「おかしいくらいのほうが、こんな世界だと真っ当に人間だと思う」
「意味わかんない。賢いからって、賢いふりしないで。……木洩日くんに私のなにがわかるの? 小学生のころ、とてもイジメられました。惨めな思いはもう嫌。次こそは気に入られようと、必死で頑張っています。以上です。ご清聴ありがとうございました。ねぇ、私を笑ってよ!」
「笑わないよ」
ニット帽を脱ぐ。
お店にあった、一番小日向さんに似合いそうな帽子。昨日の恋があまりにもホカホカで、熱に浮かされ買っちゃいました。ネコの耳がついているやつ。
僕はもう、自分を晒すのをためらわない。
君から、たくさんの勇気を見せてもらったから。
次は僕が頑張る番だ。
昨日の後悔を脱いで、今日のキラキラを被せる。
「あげる」
「あったかい。ありがと……」
あったかいのも。ありがとうも。
全部僕のセリフなんだ。
醜いこの頭を見ても、君は何も言ってこなかった。
小日向さんの方が深刻であるという前提のもと、僕たちは同じ悩みを共有している。
でも、そんなことはなんら重要じゃなくて。
必死に選んだであろうことが丸わかりな帽子を、遠慮せず受け取ってくれたことが、心底嬉しい。
「木洩日くんの方が面白かったの、ムカつく」
男が猫耳はキツいよね……。
「口悪くてごめんなさい。私、いいやつじゃないの。素の私は、こんなもんだよ」
「皆まで言わなくていいよ。僕が君を好きだっていうことを知って。悪者演じて、距離を取ろうとしてくれているんだよね。でも、僕としてはちゃんとフッてほしいな」
「……え?」
「ん?」
「え、え、え!?」
おっとこれは……。
「今なんて??」
「僕は小日向さんが好きです。一目惚れでした」
「え。へ、へーー」
汗だ。
状況をまとめよう。
どうやら僕は自身の推理を過信しすぎていて。
彼女は普通に、ちょっとだけ性格が悪いらしい。
どんだけ天津飯スベッたのが気に食わなかったんだ!
やらかしたー!!!!




