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小日向さんはハゲてても可愛い  作者: 海の字
木洩日くん視点
2/8

2. ハゲでも普通の女の子

 パジャマで学校に来れてしまえる感性。

 先生に歯向かえる担力。

 ズケズケと人の領域に踏み込む図々しさ。

 感謝を忘れない最低限の礼節。

 人の気持ちを(おもんぱか)る感受性。

 それと、ひと目見たら忘れられないビジュアル。


 ツルツル頭と、コロコロ変わるゴキゲンな表情。

 線の細い儚げな雰囲気と、無垢な幼子の溌剌(はつらつ)が同居していて、なかなかに破壊力が高い。


 あらゆる要素が恋に作用していた、そのどれもが決定的ではない。


 僕はなぜ、小日向エンマに惚れたのか。

 悶々とした思考の巡り、そんなのも今は楽しい。


 しかし世界は、僕の恋路をありがちなラブストーリーにとどめておくつもりはないらしい。


 小日向エンマが、学校からの逃走を図ったのだ。

 はやいはやい! 展開が早い!


 けれど彼女は足が遅く、校門前でお縄にかかった。

 今はクラス全員で窓に寄り、眼下の泣きべそを眺めているところ。


 まずいな、かなりドン引きの空気感が漂っている。嫌な感じだ。


 僕の通っていた小学校は排他的で。彼女のような異物は、イジメることで代謝しようとしていた。

 それは望むところでない。


「あいつ入学初日から飛ばしすぎやろー。おれなんか自己紹介で一発芸かましたろおもてたのに、絶対シラけるやつやん。反則や、面白すぎるわ。絶対友達なろ」


 タカシの能天気な言葉のおかげで、雰囲気が明らかに和んだ。


 ナイスだタカシ。

 好きだぞタカシ。


 ひっ捕らえられた彼女は、つつがなく教室へ連れ戻され、遂に自己紹介の番が回ってきた。

 初日にして先生はヘロヘロだ。心労は計り知れない。


「は、はじめまして。小日向、え、エンマと申すものです」


 何を今更恥ずかしがっているのか、言語がバグっている。その様子を皆が固唾を飲んで見守る。

 落ち着いて。頑張れ。小さな声援さえ聞こえた。


「今朝は、ごめんなさい。頭見られたの、恥ずかしくて。恥ずかしすぎて。真っ白になって。逃げちゃいました」


 ありていに行って、小日向エンマはトんでいる。

 様子がおかしい。かなりおかしい。


 なので禿頭が、ただの要素にしかならなかった。気にならなかった。

 だから曲解した。『小日向は気にしていないんだろう』と。

 

 よって見落とす。『そりゃ、女の子がハゲはキツイよな』って当然の事実に。


 彼女は己の個性が当たり前に恥ずかしくて、普通に悩める、普通の女の子なのだ。


 やばい。ギャップ萌えで汗かいてきたぞ。


 僕の恋は劇的でない。

 僕は普通の女の子を好きになっただけ。

 好きになった理由はなんとなく。

 必要十分じゃないか。


 理由なんて、後から付け足していけばいいのだから。

 今はこのキラキラを大切に抱きしめよう。


「こ、これから一年、よろしくお願いします」


 小日向エンマが脱帽した。


    ・ ・

    ・ ・

    ・ ・


 そのおでこには、クリリンの点々がマッキーで描かれていた。

  

 はぁ? ここにきて大ボケかましやがったぞ!?


 恥ずかしかったのだろう、紅葉色に染まって。

 

 そこまでして、平穏を投げ売ってまで。

 君は何を伝えたかった?


「みんなと、仲良く、なりたいです!」

 フロアが沸いた。


 こんなの、もうゾッコンになるしかないじゃん。

 好きだ、大好きだ!


 中学校入学初日にして、一年B組は最高のクラスになるだろうと確信した。


 タカシの一発芸はややウケだった。

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