2. ハゲでも普通の女の子
パジャマで学校に来れてしまえる感性。
先生に歯向かえる担力。
ズケズケと人の領域に踏み込む図々しさ。
感謝を忘れない最低限の礼節。
人の気持ちを慮る感受性。
それと、ひと目見たら忘れられないビジュアル。
ツルツル頭と、コロコロ変わるゴキゲンな表情。
線の細い儚げな雰囲気と、無垢な幼子の溌剌が同居していて、なかなかに破壊力が高い。
あらゆる要素が恋に作用していた、そのどれもが決定的ではない。
僕はなぜ、小日向エンマに惚れたのか。
悶々とした思考の巡り、そんなのも今は楽しい。
しかし世界は、僕の恋路をありがちなラブストーリーにとどめておくつもりはないらしい。
小日向エンマが、学校からの逃走を図ったのだ。
はやいはやい! 展開が早い!
けれど彼女は足が遅く、校門前でお縄にかかった。
今はクラス全員で窓に寄り、眼下の泣きべそを眺めているところ。
まずいな、かなりドン引きの空気感が漂っている。嫌な感じだ。
僕の通っていた小学校は排他的で。彼女のような異物は、イジメることで代謝しようとしていた。
それは望むところでない。
「あいつ入学初日から飛ばしすぎやろー。おれなんか自己紹介で一発芸かましたろおもてたのに、絶対シラけるやつやん。反則や、面白すぎるわ。絶対友達なろ」
タカシの能天気な言葉のおかげで、雰囲気が明らかに和んだ。
ナイスだタカシ。
好きだぞタカシ。
ひっ捕らえられた彼女は、つつがなく教室へ連れ戻され、遂に自己紹介の番が回ってきた。
初日にして先生はヘロヘロだ。心労は計り知れない。
「は、はじめまして。小日向、え、エンマと申すものです」
何を今更恥ずかしがっているのか、言語がバグっている。その様子を皆が固唾を飲んで見守る。
落ち着いて。頑張れ。小さな声援さえ聞こえた。
「今朝は、ごめんなさい。頭見られたの、恥ずかしくて。恥ずかしすぎて。真っ白になって。逃げちゃいました」
ありていに行って、小日向エンマはトんでいる。
様子がおかしい。かなりおかしい。
なので禿頭が、ただの要素にしかならなかった。気にならなかった。
だから曲解した。『小日向は気にしていないんだろう』と。
よって見落とす。『そりゃ、女の子がハゲはキツイよな』って当然の事実に。
彼女は己の個性が当たり前に恥ずかしくて、普通に悩める、普通の女の子なのだ。
やばい。ギャップ萌えで汗かいてきたぞ。
僕の恋は劇的でない。
僕は普通の女の子を好きになっただけ。
好きになった理由はなんとなく。
必要十分じゃないか。
理由なんて、後から付け足していけばいいのだから。
今はこのキラキラを大切に抱きしめよう。
「こ、これから一年、よろしくお願いします」
小日向エンマが脱帽した。
・ ・
・ ・
・ ・
そのおでこには、クリリンの点々がマッキーで描かれていた。
はぁ? ここにきて大ボケかましやがったぞ!?
恥ずかしかったのだろう、紅葉色に染まって。
そこまでして、平穏を投げ売ってまで。
君は何を伝えたかった?
「みんなと、仲良く、なりたいです!」
フロアが沸いた。
こんなの、もうゾッコンになるしかないじゃん。
好きだ、大好きだ!
中学校入学初日にして、一年B組は最高のクラスになるだろうと確信した。
タカシの一発芸はややウケだった。




