故郷
昨日はその後、特にこれといったこともなく家族で夕食を食べ、布団に潜り、寝た。”寝た”とは言ったが、結局布団に入ってからは起きている時間の方が長かっただろうし”寝れた”とは感じることもなく朝を迎えた。
「あっ!おはよう!」
受験生時代からの癖で普段から6時に起きていた私は、居間に入った時に妹がいて少し戸惑った。妹はコタツの上に、ぼろぼろになり始めたぐらいの英検準一級の過去問を広げて英語長文を読んでいるようだった。
『おおっ、おはよぉう』
「朝早いねぇ。もっとゆっくりしててもいいのにー」
『その言葉、あなたにも言えるんじゃない?まだ高校一年生でしょ?』
「まあねぇ。でも私楽しんでやってるし、まあこれでいいかなぁってね」
『ふぅん、、、邪魔した?』
「いいやぁ、別に問題ないよ~」
『そう、、ならよかった』
そう言って私はまた自室のある二階へ戻りパジャマから着替えると、高校生時代に使っていたマフラーや手袋、ジャンバーをクローゼットから取り出して一つ一つ身に着ける。そして軽く”行ってきます”と声をかけてから外を散歩し、その光景を特に深い考えもなく軽蔑した。そんなこんなでぶらぶらと道路の端を歩いていると、どんどんと住宅街に広がり、やがてショッピングモールなどが立ち並ぶ街にたどり着いた。まだ時間としては早いこともあり、人は目に入る範囲に2,3人ほどだった。
「ん?、、、もしかして桜?」
突如聞こえた声の方向に目を向けると、そこには茶髪のポニーテールに丸い眼鏡、背はモデルほどあり、控えめに言ってめっっっっちゃ美人だった。
だがどこかでこの美人に私は会ったことがあるだろうか?、いやない!!
私はこんな美人をテレビとかスマホとか、、そういったものでしか見たことが無かった。
「あっ!ほらー、やっぱ桜じゃん!!!おひさー」
そう言ってその美人は私にハグした。
一瞬、”え⁈”とは思ったが美人にハグされるのは女である私からしても気分は良い。しばらくこの美人の良い匂いを堪能していたいが、さすがにどこの誰かも分からない相手にこのままっていうわけにもいかない(なにかに目覚めてしまったら困るし)。
『っっっえっとぉ、、、どこかで会いましたっけ?』
さりげなく言ったつもりだったが、どうやら相手には答えてしまったらしい(今考えたら伝え方下手すぎだわ、私)。美人の人はそっと手を離し、困った顔で”すいません、、人違いだったでしょうか?”と聞いてきた。
『いいえ、、すいません。私は確かに”雪里 桜”なんですが、どうもあなたのことは思い出せなくって、、。すいませんがお名前、、お伺いさせていただいても?』
「っっっと、、森 雫と申します、、、」
『・・・え⁈、、あの⁈、、』
「そう!」
『校長と教頭とのBLをかいてたあの?』
「そう!、、、っっっていうか黒歴史だから!!!」
『へえ~、まじかぁ、、、すごい変わったね』
”すごい”と言ったがそれどころの話ではない。もともと雫は(私が言うのも失礼だけど)丸い伊達メガネに髪は黒くぼさぼさ、今は見えてるものの当時はおでこどころか目も全く見えない状態だった。背は確かに前から高かったが、前にはあった腐女子感というか陰の雰囲気というようなものがすっかり陽に代わってしまっていた。
「まあともかく、、会えてうれしいよぉ~」
『私も!!!』
その後は人通りの少ない建物の小さな屋根に隠れて、”東京はどうだ~”だの”彼氏はいるか~”だの、どうでもいいことを散々話した。愛ちゃんの事については話すことを避けていたからかは知らないが、、どちらにせよお互いが思い出の話をすることは最初の確認以降、ほとんどなかった。
お腹が空いたので食事でもどうかと誘われたが、家族が帰ってくるのを待ってると思うと告げると、”ならしゃあない!また誘うわ”と言って彼女は意気揚々と反対の方面へ向かった。
私も帰路に就いた。朝に来た時の道も、今では人が増えているのが分かった。途中で渡る大きめの横断歩道には、車が急いて進み、信号によって停められ、また急いて進みを繰り返していた。
『いつも通りだ』
意識したわけでもなく言葉に出ていた。
道路を車は何の弊害もなく前進していく。それは他の人もそう、、、私だけがこの進み方に追いつけていないように感じた。私だけが世界に取り残されたような感覚がした。少し気持ち悪い。
私はわざと、、大きなため息をついた。




