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【小説化】陰陽のすヽめ  作者: 秋田


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5.コントラスト

 女の子が部屋に戻ると、貧相な晩ごはんが食卓に並べられていた。小さい机に反して数は六人分、卓上が窮屈だった。


「あんたも食べるよね」


 女の子が料理を眺めていると、キッチンでなにやら用意をしている須藤にぶっきらぼうに聞いた。存外、可愛らしいピンクのエプロンをしていて、女の子は滑稽に思いつつ、言った。


「客に飯を出さない家があるのか?」


「あんたは客じゃねぇだろ!! てかちゃんと用意してるし!」


「あれば食べるに決まってる」


 須藤に菜箸で差されても全く気にせず、近くの椅子に座った。少ない白米に少々の副食、味噌汁、とても成人六人の晩ごはんには見えなかった。


「しけてんなー」


「文句あるなら食べないでくださー髪短っ!」


 廊下の先から現れたのは、女の子の体を洗った人間、有紗だった。


「お、()()見る?」


「見るか!!」


 女の子は揶揄いつつ迎えるように手を挙げた、女の子はオーバーなリアクションを取る彼女を気に入っていた。有紗は瞬時に言い返しつつ、全開の窓に近づいていった。


「も〜! 虫入るから閉めてよね〜!」


『閉めんな!!』


「え!? 前橋、何で外いるの!? なんで椅子!? 花火でかッ!?」


 背後で繰り広げられる騒ぎを無視して、天筒と佐原と須藤が席につき始める。横の佐原が「ん」と箸を渡してきた。割り箸だった。


「……? 何これ」


「は? 割り箸だよ。……こんな返事したの生まれて初めてなんだけど」

 次の瞬間、女の子は割り箸を顔の高さで掲げて、頭に手を当てた。


「うわマジか、客人に"木の棒"使わせる家あるんだ。え、マジか……マジか……」


「文句あんなら殺すんだけど!!」

「うっさ、もう夜なんだから静かにしてこのクゥズ!!」

「今のワシかぁ!?」

 ベランダから入ってきた前橋と有紗が、食卓の椅子に座りつつ、女の子に叫んだ。


「いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 天筒が手を合わせた瞬間ピタッと流れが変わり、各々ご飯に手をつけ始めた。


「いやこわっ!!」


 女の子は、その宗教じみた愛に、両手を大っぴらに広げてどん引いた演技をした。


「天筒さん、コイツどうするの?」

 白米を食べている有紗が聞いた。女の子は無視してご飯の茶碗に口を近づける。


「まぁ、明日本部に連れてって〜、会長に見せてくるよ。駆除するか生かすか、聞いてくる」



「――ってことは"東京"に行くってことですか!?」



 佐原がご飯粒を吹き出しつつ聞いた。他の女たちも同じ様に動揺している。――女の子は口を開けた状態で首を捻り、さらに口を大きく開ける。

「大丈夫」

 天筒は首肯した。


「いや危険ですよ東京は〜、数年前までは耐えてましたけど、最近はマジで終わってますって。終わり界隈ですよあそこは」


「大丈夫だって、東京に行くって言っても、本部に一直線で行って帰ってくるだけだから」


「えー」

「なら私たちも行きます!」


「――その方が怖い、足手纏い」


 天筒にキッパリ言われ、女たちは口篭った。幾ら心配と言っても、天筒の方が自分たちより強いことを誰よりも理解していたが故、それを言われると手も足も出せないのだ。言い方は些か酷いが、紛れもない真実なのだ。


「あれー?」


 一瞬静かになった部屋に女の子の声が響いた、一斉にそこに視線が向く。


 女の子は割り箸には目もくれず手をだらりと下げて、茶碗にむけて口をカッ開いていた。

 え、なにやってんのこいつ……ボケかな、ツッコめばいいのこれ……。

 その異様な行為に、佐原は思わず問いかけた。


「お前、なにやってんの?」


「ご飯が食べれない」


 全員が絶句した。


「ああ間違えた」


 女の子はそう言うと、割り箸を割って白米を普通に食べ始めた。


「「「「「……………………」」」」」


 全員がドン引いた。


***


 その時、微妙な空気を破裂させるように、部屋のインターホンが鳴った。早く、前橋が箸を茶碗に掛けて置き、率先して応えにいく。

 前橋は椅子から立ち上がり、背後にある廊下につながる扉から出ていった。


 女の子はチラリと瞳を動かして、目を細めた。


 ――楽しそうな匂い!


 バッと机の下を潜り、食卓の反対側に移動して、廊下につながる扉に向かった。「あっ!」と、声を上げた佐原が止めに立ち上がったが間に合わず――女の子は廊下の先にある玄関を覗いた。



「うるせぇよ、うるせぇ」



 開け放たれた玄関、入り口で仁王立ちする二十代の――天パで目縁が赤いメガネが嫌に目につく――青年が額に青筋を浮かべて、攻撃的に前橋を責めていた。女の子は聞き耳を立てて、その会話を盗み聞く。


 ――隣の部屋の安高(あかた)さん、前から私らのことウザそうにしてたけど、とうとう来たか〜……。


「何時だと思ってんだよ、ざけんなやクソが。こちとら寝てんの、わかる?」

 隣人は表情筋が動かないのか真顔で、早口で捲し立てる。


「はいすみません……静かにします」

 前橋はうわべだけ謝罪した、『失敗した』という気持ちはあれど、『悪いことをした』という気持ちはなかった。早く帰って欲しいと願うばかりである。


 しかし腕を組む隣人は、前橋の塩らしさを見てつけあがる。


「チッ、てかさ、うるせーの今日だけじゃねぇからな? 毎日女のうっせぇ声が漏れてんの、ガキじゃねんだから静かにしてくんねぇか? 出来ねぇか?」


「……本当すみません……」

 うざ――でも悪いのは私たちだし……。


 前橋は膝前で手を合わせ、深いお辞儀をする。それは謝意ではなく、顔を見られないようにするためだった。どうにも、このめんどくささを顔に出さないのは無理だった。


 女に頭を下げさせ満足した隣人は、次の言葉を最後に立ち去ろうと、下げられた前橋の後頭部を人差し指でトントン叩いて言った。


「次うっさくしたら大家に言うからな、このブス――」



「――ホんっと、すんませんでしたーー!!!!」



 空気がザワと、肌を撫でた。

 叫んだのは女の子だった。前橋と隣人は揃って彼女を見る、そこには廊下で土下座する女の子の姿があり、事態をいち早く理解した前橋は冷や汗をかいた。


「――――」

 あのクソ!! ()()()()!!


「うわわ! 何やってんのこの馬鹿!」

「阿保!」

 慌てて後ろから有紗と佐原が登場して女の子を引っ張り始めた。それがさらにおかしく、前橋は目を見開いて口角が上がるのを必死に我慢した。


「あ?」


 隣人はピキと青筋を浮かべて、部屋の中に一歩踏み入った。その怒りに満ちた瞳にはふざける女の子しか映ってなかった。


「すみません! ワシたちがうるさいばっかりに!! ごめんなさい!! 許して欲しいです!!」


「あぁ!? その声がウルセェんだよ煽ってるだロ!!!!」


 隣人の声が裏返る。


「ねぇ静かにしてこのクズ!!」

 佐原が女の子の頭を叩いて止めに入るが、お構いなしに叫ぶ。


「まさかそんな! ワシゃ声を大にして言いたいです!! ――ごめんなさーい!!!!」


「シネ!!」


 大声と怒号が飛び交う真夜中のマンション、他の住人も騒ぎに苛立ちを覚え始めた頃、女の子はしゅんと静かになった。それどころか、殺人でも目にして怯えるみたいに震え始めた。


「……ヒィ、怖い……」


 ――こ、このガキ!!

 その煽りがさらに神経を逆撫でする。隣人は顔を真っ赤にし、プルプル手を振るわせる。


「……ご、ごめんなさい、ついふざけちゃいました……もう静かにします」


「……マジ次うるさくした殺すぞ」


 怯え始めた女の子に、少しは燃える怒りの収めどころを見つけ、隣人は低い声音で脅した。


「ごめんなさい……殺されたくない……怖い……」


「わかりゃあいんだよ」

 チョッロ。

 前橋は思わず笑いそうになったのをギリギリで堪えた。



「ところでお兄さん、大声出したのいつぶりですか?」



「ブッぐふふふふぶぶ!!」

 前橋はとどめの一言で完全に吹き出した。隣人の大声は確かに、声を出してこなかった人特有のひょうきんな声をしていた。


 プチッと血管が切れる音が聞こえた気がした。


「……分かったよお前ら、絶対大家に言ってやる――真夜中に馬鹿騒ぎして寝れなかったってヨォ!! お前らは退去だ! ここでの最後の夜、楽しんでなぁ!!」


 堪忍袋の尾が切れた隣人はそう言い残すと、玄関を強引に閉めた。ガンと大きな音が響いた後、やけに静かな静寂だけが残った――。


「ブヒヒヒひひひ……! マジでお前っ、死ね!」


「ギャハハハハハハハハー!!!! お前っ、最後の面見た!? 顔真っ赤! メガネと同じ色してたて!」


「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」


 二人は地面にへたり込み、女の子は地面をバンバン叩いて、前橋は壁をポカポカ叩いて笑う。この異様な光景を、佐原と有紗、それと遅れてやってきた須藤と天筒は、みなやれやれと言った感じで肩を浮かした。


***


「……ッチ、ッチ、ッチ……」


 怒り冷めやらぬまま部屋に戻った隣人は部屋の真ん中で座り込んでいた。自分の親指の爪を噛み、唾液の汚い音をリズム的に鳴らしている。


 明かりは灯さずカーテンを閉め切り、真っ暗な部屋でパソコンのブルーライトに照らされつつ、マウスを操作する。


 ズラッと並ぶファイルから一つをクリックする。

「ッチ――」

 画面に映し出されたのは、泣きじゃくる齢十七歳の女の動画だった。これを撮影した人物であろう者は、女が異常に怖がる包丁を逆手に構えて、刺すふりを何度も何度も繰り返す。


『うらぁ! うらぁ! ひひゃひゃひゃ!!』


『いやっ! いやあぁ! ごめんなさい! おかぁさ――がぼ――』


「フハ」

 しゃがみ込み身を縮こませるだけの女、それだけで刃物を防げるわけもなく、無防備なうなじにぶすりと刺された。血が吹き出す。何度見ても可笑しい、隣人は笑った。


 その部屋には何もなかった。机も棚もテレビも寝具も壁紙も、あるのは一台のパソコンのみだった。ミニマリストと言うには明らかに程度を超えており、全く生活するための部屋とは思えなかった。

ご精読ありがとうございます!


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