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【小説化】陰陽のすヽめ  作者: 秋田


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19/19

19.覚悟を死なせない

 豪雨と暗闇に包まれたマンションに、轟音が幾度も響き渡る。


「…………」


 ある一室。

 一寸先も闇の中に、一人のノクトが縮こまっていた。老いた風貌に見合わず体育座りでちんまりと。


 なんという破壊力、彼女一人で爆弾並みの存在感……。


 そのノクトはふちのないメガネをかけ直しつつ、虚ろな闇の瞳を鷲のような鋭い瞼から覗かせた。威厳と自信、尊厳、迷いなき瞳である。


 ――カス共が……私が管理しなければ……。


***


 天筒はマンションの床を、己のその拳のみで打ち砕き、八階から一階へ直下に下っていった。


「…………」


 ノクトは天筒が砕き開けた床の穴を覗いてから、やれやれとため息をついた。


 行っちゃったよ脳筋。


「ワシが殺したい奴は殺したし、大家とかどーでもいいんだよなぁー」


 そう怠さを呟きつつ、部屋を見渡し、ウロウロと捜索して――やがて顎に手をやって立ち尽くした。


「…………」


 どうやって大家はワシたちの位置を把握した?


 ノクトは先刻、天筒の真下に現れた扉を思い出す。あれは偶然なんかではなく、完全に作為的に、天筒の足元を狙って出現させていた。


 見た感じ、監視カメラは部屋には無い。

 廊下にはあったけど……外からじゃ部屋ん中までは見えないもんなー。


 ノクトは後頭部を掻いて悩んでいると、ふと天筒の言葉を思い出す。


「窓が開かない、ねー」


 ノクトはハンマーを握りしめると、天筒が開けようとして微動だにしなかった掃き出し窓の前に立った。


 相変わらず、大粒の雨がガラスを叩いている。


 天筒は開かないって言ってたなぁ、大家は今もどうにかして見ていて、固定させているんだろうな。


 そういう理論でいくと、このガラスは何をやっても壊せないということ――。


「よーし」


 ノクトはハンマーを構えて、踏み込み、三回転しながら窓に思いっきり叩きつけた。


「――!?」


 割れた。割れたのだ。物理的自然、ガラスはハンマーの威力に耐え切れない。

 ガラスが割れる甲高い音が聞こえた瞬間、隙間から風と雨粒が入り込んできた。


「えっ? 普通に割れんじゃん! 天筒は何やってんだ、床より先にガラス割れよ!! 今考えるとその通りだな!!」


 床が雨で濡れていく。ノクトはさらに割るべくハンマーを振りかぶった。


「――っどらぁぁぇえぇ!?」


 しかし次の瞬間、窓は何事もなかったかのように直っていた。まるで時が巻き戻ったかと錯覚するほど、割れた痕跡は残っていない。


「直すの遅くない!? 今更対処してきたのかよ!! 大家はジジィか!?」


 ノクトは構わずガラスを叩いた。


 割れた。


「いや割れんのかい!!」


 ――しかし、また五秒ほど経過するとガラスは復元した。

 ノクトはハンマーを下ろして眉を顰め、顎をトントン叩く。


「うーん……割れるには割れるんだなぁ――そだ!」


 何かを思いついたノクトはポンと手を叩き、踵を返した。そのままどこかに向かっていき、再び窓の前に戻ってきた。


「ぐへへ」


 その手にはプラスチックの桶が握られていた。風呂場から頂戴した物である、ノクトはそれを片手で持って、ハンマーでガラスを割った。


 三度、拳サイズの穴から風と雨が吹き込んでくる――が、瞬時に桶で雨をキャッチした。吹き込んできた雨水は桶だけに溜まっていく。


「…………」


 ざあああと雨は桶を打ち、風は隙間風のようにヒューと奏でる。髪が靡くノクト、ジッと窓ガラスの穴を見つめる。


「…………」


 ――塞がらない!! 五秒と言わず十秒は待ったが、直らない!


 となると、大家は景色を見ていない……景色が見えるならこんな穴すぐ塞げるからなー。


 ――"音"か! 


 床や壁が耳として、大家はワシたちの足音を聞いて位置を知覚している……?


 いや……音とは違う……常に聞こえる雨音で気がつくはず。


 位置把握のトリックは……。


 耳ではなく、皮膚――!!


「それって……」


 ノクトは答えに辿り着き、一つ着想を得る。


 ニカッと笑うと、ノクトは爆ぜる拳を、激情に燃える光を、床に繰り出した――。


***


 65432――。


 どれだけ扉が阻んでも、天筒は全てを回避して一階に一直線に降りていく。

 服がボロボロに破けて、煤や埃だらけになっても速度を維持し、ものの数十秒で、一階に到達した。


「――――ッハッ!」


 天筒はコンクリートを突き破って現れ、階下の状況を即座に判断する。


 廊下か、まっすぐ降りてるつもりだったのに、扉によって少しずつ廊下側に誘導されたのかぁ。


 ひとまず着地し、左右を見渡す。


 大家の部屋は――あそこか。


 瞬時に大家の部屋を発見し、跳ぶように駆け出した。


 油断はない、扉にも既に順応した。

 次何が起きてもミスらない。

 もうノクトの手は借りない。


「フン!」


 天筒は大家の部屋の扉を蹴り破り、真っ暗な室内の中で影を目視した。

 右の一室に逃げ込む人間のシルエット、大家である。


「逃げんなッ!!」


 天筒は一歩で部屋の廊下を渡って、リビングに入った。そして壁を支えにして回転し、大家の逃げた右奥の部屋に進んだ。


「――ヒッ」


 悲鳴を漏らしたのは、壁に追いやられた、顔面蒼白の白髪の中年男性。


「大家ッ!」


 天筒は型を構えた。


 この暗闇じゃ物理攻撃は効かない、即行で無力化してノクト核を――。


「――!?」


 天筒は目を見開いた、大家が構えたソレは到底予想外な代物だったからだ。


「うううぅ、うわぁァァああ!!」



 ――()――、



 真っ暗な銃口の先から漂う、即死の匂い――。



 パン。



「――――」



 引き金が引かれる、



 闇を劈く閃光と破裂音が駆け巡る。



 ――……キーンと、脳が真っ白に染まる。



「――」





 ――避けれたッ!!


 天筒は体を捻らせて、弾丸を回避してみせた。それはもはや、脊椎反射的速度だった。


 銃とか初めて見たし初めて避けたけど……すげーな! なんか!!


 天筒は何かに感動しつつ、愕然とする大家に近づく。


「――ッう、」


 大家は覚悟を決めたように目をギュッと瞑ると、ピストルを手放して拳を握りしめた。


「う、うおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 大家が叫んだその瞬間、ピンと天筒の背筋に針が刺さった。



 ――ノクトじゃ、ない。



 あいつと同じ、ノクトの顔じゃねー!!



 足に急ブレーキをかける。

 止まれない――

 その瞬間、目の前に扉――。


 また飛ばされる!


 天筒は刹那の瞬間に、心をシフトチェンジする。


 次はどこだ、また風呂か、なんにしても必ず対応してみせるッ……!


「来いよッ――!」


 天筒はジッと扉を睨んで固唾を飲む、あと数センチ、扉はまだ開かない――ようやく異変に気がつく。


「――ッ!?」


 天筒は、扉に激突した。衝撃が全身に響き渡る。


 ひ、開かない――!?


***


「――ッ〜!」


 焼かれるような痛み――ノクトは額に触れて声を抑える。


 もう少しだったのに……なんだ、この痛烈な刺激は……!


 どうやって私にダメージを――能力を介して、どうやって私に攻撃をォ……!!



「効いてる?」


 ノクトは花火をお見舞いした床を見て、首を傾げる。



「爆発音――」


 さっきと同じ音、ノクトの花火だ。あいつ、もしかして黒幕と戦ってんのか?


 天筒は音の聞こえた天井を見上げて、一考したあと、ひとまず後回しにして、怯える大家に視線をやった。


「あ、う、すっ、すみませ――」


 パンッ!!


 その瞬間、天筒は自分の頬を叩いた。

 高い音が響く、大家は目を丸くして言葉を詰まらせた。


「ごめん、敵はだれ」


 大家の謝罪を遮って、天筒は言った。一般市民の被害者に手を上げる愚行、天筒は自分を懲らした。


「…………」


 大家は口篭ってしゃべらない。


 きっとノクトに脅されたのだろう。そうでなくても、普通人間はこんな危機的場面で冷静でいられない。


 天筒はじっと大家と目を合わせ、顔を近づける。


「大丈夫、私たちが必ず敵を殺すから」


「…………」


 その瞳は、思わずついていきたくなる、惹き込まれる、信頼できる強固さを所持していた。


 大家はゆっくり、震える口を開いた。


「い、今治(いまばり)――」


「それ……」


 今治(いまばり)という名の男性を、天筒は知っていた。たまに見かけた、このマンションの管理人だった。


「今どこにいるか分かる?」


「分かりません……私に、あなたを殺すように命令してきてっ……」


 床に転がる一丁の拳銃、死の重厚感を放って鎮座している。


 きっと私の射殺はフェイクで、あの扉で私を手ずから屠るのが理想だったはず。そこにおそらくノクトの花火による邪魔が入った……。


「分かった、あんたは安全な場所に避難しよう、さぁこっちに」


「は、はい……」


 天筒は腰の抜けた大家の手を取って、マンションの廊下に出た。

 相変わらず大雨が止まない、天筒は、風と共に顔に打ち付けられる雨粒を腕で防ぎつつ、辺りを見渡した。


 安全な場所なんて近くにはねーけど……とりあえずマンションから離れさせねーと。


 天筒は大家と一緒に歩き出す。


 階段を先に降り、ふらつく大家の手を取って助けつつ、マンションを離れる。


「というか、他の住民はどこに?」


 天筒は声がかき消されないよう、声を張って言う。



「多分、まだこの中に……」



「……は」


 大家が囁き言に、ふいに天筒は目を見開いて、自然な声が漏れていた。


 ゆっくり振り返りマンションを見上げる。


 暗雲の下、黒色の雨の中、神妙に構えるコンクリートの塊は、ゾォっと鉛が体にまとわりつく錯覚を覚えさせる。


 ここに、住民が取り残されている?


「………………マジか」


 とっくに避難したもんだと思っていた……違うだろ、ノクトがそんな暇与えるわけないんだから。


「行ってください、私は大丈夫ですから、皆さんを助けてください、天筒さん」


 大家は決死の覚悟でそう言った。


 この状態で大丈夫な訳がないのに、住民のために……。


「…………」


 天筒は精一杯悩んだあと、答えた。


「ごめん、ありがとう、必ず助けてくる」


 天筒は走り出した。住民68人が取り残された闇のマンションに――。

ご精読ありがとうございます!


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