表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説化】陰陽のすヽめ  作者: 秋田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

18.ドン! ドン! ドン!

「うわー!! やっべぇぇぇええ!!」


 家の近くでやっていた花火大会、河川敷で行われるそれは、正式な会場に入らなくとも見ることは可能だった。


 同じように考えた人たちがまばらに鑑賞する、会場の反対側の岸にて、一人の男の子が真っ暗闇に咲く花火を見上げて、満面の笑みではしゃいでいた。


 ドン! と、心を揺さぶる振動が駆け巡る。


「綺麗だけど、静かにね!」


 浴衣姿の天筒は、男の子を嗜めつつ、花火を見上げた。


「見にきてよかったぜ! おかーさんも見ろよ!」


 男の子は花火に見惚れながら、言った。天筒はやれやれと、呆れまじりに答える。


「別に花火なんて……私はいいよ」


「仕方ないから送ってやるかー。これ見たら喜ぶだろうなー!」


「……え?」


 男の子はスマホを取り出し、花火を撮影し始めた。天筒はポカンとして男の子に目をやった、じっと見つめて、その様子を見る。


「け、(けい)?」


 恐る恐る、その肩に手を伸ばした。恐る恐る? どうして恐れているんだ? ……違う、私は、知っているから。


 撮影を終えた男の子が、動画を母親に送信したその時、


 ジャリ。


 砂利を踏む音が聞こえて、男の子は振り返った。振り向く過程で天筒を視界に入れたはずなのに、気にする様子は全くない。


 天筒は軋む筋肉を無理やり動かして、男の子の視線を先を見た。


 これは夢だ。


 何もかもを飲み込む暗闇が、口を開けて待ち構えていた。


 ドン!


 花火の音が響く。


「……待って、ダメッ、行っちゃダメ!!」


 ドン!


 男の子はフラフラと、その闇に向かって歩き出した。天筒が引き止めても反応がない、触れられない、爆発音が連続して響く。


 ドン!


「――行かないで!!」


 ドン!


 ドン!


 ドン!


***


「――…………? ……ッ!」


 目を覚ました天筒は、行き詰まった現状を思い出した。水で満たされた閉鎖空間、身動き一つ取れない狭い空間、脱出は不可能。


 今、死にかけた!


 ――ドン!


 その時、脳が揺れる衝撃が走った。じわじわと内臓が揺れて気持ち悪いが、おかげで事態を理解した。


 そうか、この振動で目を覚ましたのか……いや、何の振動だこれ。外から、殴っている?



「おらぁぁ!!」



 その瞬間、鈍い破壊音と共に、浴槽の壁に穴が開いた。真っ暗な空間に、一筋の淡い光が差し込んだ、死んだ精神が蘇る。


 流れだ――天筒はその拳サイズの穴から、水を溢れていく流れを感じる。


「しゃおらぁ! 穴が空いたぜーー!!」


 ――ノクトか!


 希望が見えた瞬間、天筒の瞳に光が灯った。


「世話ねぇなぁ!!」


 ノクトは再びハンマーを振りかぶり、浴槽の壁を叩いた。


「はい一丁!」


「もう一丁!」


「これでトドメだぁー!」


 壊れた部分から連鎖的に穴は広がっていき――やがて、風呂場に水溜りができるほど水が溢れ出てきた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ、水も滴る良い男ってのはワシのことよ。おっと、生きてるー?」


 ノクトはしゃがんで、開けた穴から天筒を引っ張り出した。



「――ゲホゲホゲホッ!! げほ、うえええええぇええええぇえエエ!!!!」



「う、うわー……」


 びしょびしょの天筒は、胃に入った水をゲロのように吐き出してから、空気を肺いっぱい吸い込んだ。


 狭い風呂場にノクトと天筒が密着する、二人とも息が荒い。

 ピチョンと髪から滴った水が水飛沫を上げた。


「恥ずかしい」


 天筒がボソリと呟いた。ノクトは腕を組んで、なんのこっちゃと眉を顰めた。


「今までこんなことなかったのに……人生一、情けないな私」


 ああ、大家の攻撃で死にかけたことか。ノクトは満面の嘲笑を浮かべて、天筒をツンツン突っつく。


「プププ、ホントにね! あれだけスカしといて死にかけたなんて、恥ずかしくて仲間に顔向けできないよねぇー!」


「まさかノクトに助けられるなんて……人として恥ずかしい」


「いやそっちかよ! 恥ずかしがるところ違うだろ!!」


「? エ? ナンカアッタ?」


「なんでカタコト!? 純日本人のくせに!」


「安心して、同じ轍は踏まない」


「急に慣用句使ってきた!! やっぱり日本人か!? いやてかワシに感謝は!! 助けてあげたんだぞ!!」


「アリガトー」


「足らねーよぉ! 酒と米と金を献上せい!!」


「お前は神か」


 天筒は立ち上がり、辺りを見渡した。すると、木柄の長い大きなハンマーが、ノクトの傍らに転がっているのを見かけた。


「そんな都合のいいもんよくあったなぁ」


「ああ、ちょうどこの部屋にあったんよ、たまたまね。良かったなーたまたまこのハンマーがあって、たまたまなかったらお前死んでたぞ」


「そんな煽られても……ハンマーありきじゃなきゃ壊せねーお前が悪いだろ」


「なっ!」


 天筒は風呂場を出て、リビングに向かう。


 どこだこの部屋……同じマンションなのは構造的に確かだけど……。


 家族写真やおもちゃ、学校の制服など、一般ながら個人のストーリーが窺える部屋模様に、天筒は一般人の部屋という認識で止めることにした。


 窓から見える景色的に八階――最上階か……。


「お前、よく私の場所がわかったな」


 天筒は窓に近づきながら、背後のノクトに訊いた。


 ノクトは犬のように頭を振り回し、髪の水分を飛ばしていた。


「余裕だぜ、ワシもノクトなんだからよぉ」


「……?」


 天筒が真顔で真意を問うと、ノクトはシッシッと手を振るポーズをして、ニンマリ笑った。



「敵はできるだけ自分から遠ざけてーよ」



 ピコンと天筒は理解する。


「つまり、一階にいる大家の攻撃で間違いねーってことか」


「ああ、十中八九ってやつでね」


 天筒は窓の鍵を外し、手をかけて力を入れた。


 ――やはり開かない。


「なにやってんの」


「どうやら、このマンション全体が大家の手中みてーだ。現にベランダの扉が開かねー。それに、さっき安高が地面を蹴った時自動で電気がついていた、あれも大家の仕業に違いねー。私の目の前で修復された窓もな」


「へー」


「大家はこの八階から降ろさせない気だ、窓が開いたら飛び降りれるからな、試しに玄関の方開けてみろ」


「あーいいよー」


 ノクトはめんどくさそうに歩いて、玄関のドアノブを捻った。


「開かねーよー」


 接着剤とか押さえられているとか、そう言う感じじゃなく――まるでもともと扉と壁が一体化していたような、コンクリートの壁を開けようとする"無茶"な感じである。


 天筒は腕を組んで、ノクトを見つめる。


 ノクトはリビングに戻って、天筒の行動を伺うが、一向に動く気配はない。ノクトはジトっと、半目を天筒に向ける。


「さて、これからどうする」


 突然問われ、



「全部壊す」



 ノクトは一切の吃りなく平然と答えた。


「大正解」


 その刹那、天筒は拳を振りかぶって――床を殴りつけた。


「――は!?」


 ノクトは驚愕して、後ろに倒れた。


 フローリングはバキバキに割れて、コンクリートがあらわになった。天筒は続けて拳を繰り出し、コンクリートを発泡スチロールのように破壊していく。


「嘘つき! 人間じゃねぇーじゃんお前!」


 天筒はやがて、空間が見えた。一個下の階に到達したようで、天井から落ちた。


 ここが七階……いける。


 天筒は空を落下中に、このまま大家の部屋まで辿り着けると確信した。


 しかしその確信は、怠慢に繋がる――天筒が着地する寸前、足元に扉が現れた。ギィと開かれる先には、


「へぇ」


 闇に慣れた目でも見えない暗所。


 天筒は一直線にその扉に落ちていく――ことはない。空中で体を捻り、扉を避けて着地した。


 次の瞬間、岩が崩れるような轟音が鳴り響く――考える暇もなく、再び床を破壊して下層階に向かっていった。

ご精読ありがとうございます!


「続きが気になる!」という方は是非ブックマークや☆をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ