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City Of Fury  作者: Mateo
18/23

第18章 ―盗賊の贖罪―

夜の京都に静けさが降りていた。藤本カイトの家は質素で整えられ、本棚には古びた資料や調査で使った道具が並んでいる。その居間で星野ユメは部屋を見渡し、にやりと笑った。


「悪くないじゃない、探偵さん。でも高そうな絵画は一つもないのね。」


カイトは眉をひそめ、乾いた声で返す。

「俺は美術泥棒じゃない。」


ユメは小さく笑った。

「それならいいわ。ちょっと確かめたかっただけ。」


彼は黙って鍵を手に取り、ドアへ向かう。

「行くぞ。仕事だ。」


二人は夜の闇へと歩み出した。


―――――――――


車内はしばらく沈黙に包まれていた。ユメが口を開く。

「工場は港の近く。あそこに奴が隠れてる。冷酷で計算高い男よ。子供を人質に使うことも平気でやる。」


カイトは横目で彼女を見た。いつもの軽薄さはなく、真剣な眼差しだった。

「本当に確かか?」

「ええ、間違いないわ。私の目で見たもの。」


廃工場に着くと、錆びた鉄と潮の匂いが漂っていた。壁はひび割れ、窓は割れている。ユメが囁く。

「ここで止めて、カイト。見張りがいるわ。」


入り口には屈強な男たちが三人、バットを手に立っていた。ユメはふっと笑みを浮かべる。

「任せて。」


カイトが止める前に、彼女は男たちへ歩み寄った。

「すみません、道に迷ってしまって……」


一人が鼻で笑い近づいた瞬間、ユメは小さなスプレーを取り出し、霧を吹きかける。三人はその場に崩れ落ちた。


カイトが目を見開く。

「何だ、それは。」

「象用の麻酔。数時間は起きないわ。」


彼は深いため息をつき、頭を振った。


―――――――――


工場の敷地内。七人の男たちが鉄パイプを手に巡回している。奥には頑丈な扉。ユメが低く言う。

「撃つしかないわ。」


カイトは首を振る。

「非武装の人間は撃てない。俺には出来ん。」


彼女は苛立ちを隠さず、単独で動こうとした。だがカイトが缶を蹴ってしまい、音が響く。男たちが一斉に振り向いた。


「誰だ!」


瞬く間に囲まれる。ユメは上方の窓へ飛びつき、ひらりと身を翻す。

「ごめんね、探偵さん。ここからは一人で頑張って!」


「ユメ!」


叫びもむなしく、カイトは一人で立ち向かった。数で圧倒されながらも、彼の動きは研ぎ澄まされていた。警官時代に培った技術で次々と相手を倒す。最後の男が崩れ落ち、息を荒げながらもカイトは立っていた。


扉を蹴破り、中に入ると異臭が漂っていた。そこには筋骨隆々の男が待ち構えていた。その傍ら、床に倒れるユメの姿。


「こいつがヒーローか? ユメ、お前も随分な芝居をする。」


ユメは声を出せずに睨むだけ。カイトが一歩前に出る。

「お前の話には興味はない。ここで終わりだ。」


巨体が笑い声を上げ、突進してきた。鈍い衝撃が部屋を揺らす。カイトは身をかわし、必死に耐えた。ユメが近くの花瓶を投げる。

「カイト、これ!」


彼はそれを受け取り、渾身の力で相手の頭に叩きつけた。巨漢はよろめき、うめき声を上げて崩れ落ちた。


「助かった。」

ユメは弱々しく笑う。

「どういたしまして、ハンサムさん。」


―――――――――


地下室には怯えた子供たちが鎖につながれていた。ユメが膝をつき、優しく声をかける。

「もう大丈夫。怖くないわ。」


カイトは鎖を壊し、一人一人を解放していった。そのとき、外からサイレンが響く。警察が突入し、子供たちは保護された。


指揮官がカイトの肩を叩く。

「よくやったな、藤本。奴らは全員裁かれる。」


―――――――――


夜遅く、カイトはユメと彼女の姪を家まで送り届けた。少女は泣きながら家族に抱きついた。ユメは振り返り、いたずらっぽく微笑む。

「ねえカイト、私……行くところがないの。だから、あなたと一緒でもいい?」


「泥棒と組む気はない。」

「じゃあ……探偵助手ってことで。」


彼は苦笑し、何も答えなかった。


―――――――――


翌朝。カイトが目を覚ますと、隣の布団は冷たかった。枕元には小さな手紙。


『カイト、昨夜はありがとう。あなたなら必ず子供たちを救ってくれると信じていたわ。いつかまた会えるといいわ。その時は仲間として――。星野ユメ』


彼は小さく笑い、手紙を引き出しにしまった。胸の奥で何かが疼く。しかし確信していた。星野ユメとは、必ずまた道が交わると。

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