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第8話:最弱スキルの覚醒

ウィローブルック村の事件から一週間が経った。


ミナトは『王都の星亭』の個室で、古代文字の研究書に没頭していた。机の上には王国図書館から借りた古代エルヴァナ文明の資料が山積みになっている。


「『観測者なき世界』『観測の眼』…」


石碑に刻まれていた言葉が頭から離れない。ウィローブルック村の事件で、《観察》スキルには単なる情報収集以上の力があることが判明した。しかし、その真の意味はまだ解明されていない。


「古代エルヴァナ文明では、《観察》は特別な意味を持っていたようですね」


セリスが部屋に入ってきて、研究を手伝ってくれた。


「『観測魔法学』という学問分野まであったようです」


「観測魔法学?」


「はい。『存在を認識することで現実を変化させる』という理論です」


興味深い概念だった。


「つまり、見ることで世界に影響を与えるということですか?」


「そういうことになります。ミナトさんの《観察》スキルは、もしかするとこの古代理論と関係があるのかもしれません」


その時、部屋のドアが勢いよく開かれた。


「ミナト!大変だ!」


レックスが慌てた様子で飛び込んできた。


「《雷光の剣》のカイルたちが行方不明になった」


「行方不明?」


「『魔法の森』での調査依頼に出かけたまま、3日間連絡が取れない」


魔法の森は王都から北東100キロにある危険地帯だった。高濃度の魔法エネルギーが充満しており、様々な異常現象が発生することで知られている。


「どんな依頼だったんですか?」


「《異常魔法現象の調査》だ。森で『現実が歪む』現象が報告されていて、その原因を調べる任務だった」


「現実が歪む?」


「そうだ。空間が捻じ曲がったり、時間の流れが変わったり、物質が変質したりする現象らしい」


それはウィローブルック村の事件と似ている部分があった。


「すぐに救援に向かいましょう」


ミナトが立ち上がった。


「《観察》スキルが役に立つかもしれません」


「でも、魔法の森は非常に危険だ」


レックスが心配した。


「Aランクの冒険者でも苦戦する場所だ」


「それでも行かなければなりません」


セリスが決断した。


「カイルたちは大切な仲間です」


三人は急いで救援の準備を整えた。


魔法の森は、その名の通り濃密な魔法エネルギーに包まれていた。


森の入り口に立つだけで、空気中に魔力の粒子が舞っているのが分かる。木々は異常に巨大で、葉は虹色に光っている。まるで別世界に迷い込んだような感覚だった。


「魔法濃度が異常に高いですね」


セリスが魔法計測器で確認した。


「通常の10倍以上の濃度です」


「これでは、普通の魔法も正常に機能しないかもしれません」


「《観察》スキルに影響はありませんか?」


ミナトは《観察》スキルを発動してみた。すると、予想外のことが起きた。


視界が劇的に変化したのだ。通常の《観察》スキルでは見えない魔法の流れ、エネルギーの渦、空間の歪みまで詳細に認識できるようになった。


「すごい…これは…」


「どうしたんですか?」


「《観察》スキルが強化されています。魔法の森の高濃度エネルギーが、スキルを増幅しているようです」


まるで世界が透明になったかのように、あらゆる隠された要素が見えていた。


「カイルたちの痕跡を探してみます」


ミナトは強化された《観察》スキルで森の奥を調べた。すると、異常な魔法的残滓を発見した。


「戦闘の痕跡があります。しかも、この魔法反応は…」


「何ですか?」


「《雷光の剣》のメンバーの魔法パターンです。間違いありません」


「どの方向ですか?」


「森の奥、北東方向に約3キロです」


三人は慎重に森の奥に進んだ。途中、様々な異常現象に遭遇した。


重力が逆転している区域、時間の流れが遅くなっている場所、物質が別の元素に変化している空間。どれも魔法の森特有の現象だった。


しかし、強化された《観察》スキルのおかげで、これらの現象を事前に察知し、安全なルートを選択することができた。


「ミナトのスキルがあれば、魔法の森も攻略できますね」


セリスが感心した。


「通常では絶対に進めない道を見つけている」


「でも、エネルギーの消耗が激しいです」


ミナトは疲労を感じていた。強化された《観察》スキルは強力だが、その分精神的な負担も大きい。


「休憩しましょう」


「いえ、大丈夫です。カイルたちを早く見つけないと」


そして、ついに《雷光の剣》の痕跡が濃くなっている場所に到達した。


森の奥にある小さな遺跡で、ついに《雷光の剣》のメンバーを発見した。


しかし、その状況は深刻だった。4人全員が古代の石造建物の中で倒れており、意識を失っている。


「カイル!エミリア!」


ミナトたちが駆け寄ると、幸い全員まだ生きていた。しかし、異常な状態にあることが分かった。


「これは…」


ミナトが《観察》スキルで詳しく調べると、恐ろしい事実が判明した。


「4人とも、魂の一部が別の次元に引きずり込まれています」


「別の次元?」


「はい。この遺跡は、異次元への扉になっているようです」


石造建物の中央には、古代の魔法陣が刻まれていた。そこから強力な次元転移エネルギーが放射されている。


「おそらく、カイルたちがこの魔法陣を調査している時に、異常が発生したのでしょう」


「魂が別次元に?それは大変ですね」


セリスが青ざめた。


「そのままでは、魂が戻らなくなってしまいます」


「どうすれば助けられますか?」


「魂を元の次元に引き戻す必要があります。でも、そのためには…」


ミナトは《観察》スキルで魔法陣を詳しく分析した。古代エルヴァナ文明の最高レベルの次元魔法で、非常に複雑な構造をしている。


「この魔法陣を正しく操作すれば、魂を呼び戻すことができるかもしれません」


「でも、間違えれば?」


「魂が永遠に失われる可能性があります」


緊張した状況だった。


「ミナト、君ならできる」


レックスが激励した。


「これまでも不可能と思われた謎を解いてきた」


「そうですね」


セリスも同意した。


「《観察》スキルがあれば、きっと正解を見つけられます」


ミナトは魔法陣の前に座り、《観察》スキルを最大限に集中させた。魔法の森の高濃度エネルギーが、スキルをさらに増幅している。


すると、これまで見たことのない光景が視界に現れた。


魔法陣から伸びる次元の通路、そこに浮遊する4つの魂、異次元の空間に漂う無数のエネルギー体。全てが鮮明に見えていた。


「見えます…カイルたちの魂が見えます」


「本当ですか?」


「はい。異次元の空間に囚われています。でも、まだ完全に取り込まれたわけではありません」


ミナトは《観察》スキルで次元魔法の仕組みを解析した。古代エルヴァナ文明の技術は想像以上に高度で、多次元理論に基づいた複雑な魔法体系だった。


「魔法陣の制御方法が分かりました」


「どうすればいいですか?」


「3つの制御石を特定の順序で操作します。タイミングが重要です」


ミナトは《観察》スキルで最適な操作手順を計算した。一つでも間違えれば、カイルたちの魂は永遠に失われてしまう。


「準備はいいですか?」


「はい」


「開始します」


ミナトが第一の制御石に触れると、魔法陣が淡く光り始めた。次元の通路が安定化し、魂の呼び戻しプロセスが開始される。


「第二の制御石、今です」


セリスが指示通りに操作した。


「第三の制御石」


レックスが最後の制御石を操作すると、魔法陣から強い光が発せられた。


そして、4つの魂が次元の通路を通って戻ってきた。


魂が戻ると、カイルたちは徐々に意識を取り戻した。


「ここは…」


カイルが目を開けた。


「ミナト?なぜここに?」


「救援に来ました」


「救援?」


「3日間、行方不明だったんです」


「3日間?」


エミリアが驚いた。


「私たちは魔法陣を調査して、少し意識を失っただけだと思っていたのですが…」


「異次元に魂が引きずり込まれていたんです」


ミナトが説明した。


「危うく永遠に戻れなくなるところでした」


「異次元?」


《大魔法使い》の転生者が困惑した。


「そんな高度な魔法があるなんて…」


「古代エルヴァナ文明の次元魔法です」


セリスが補足した。


「現代では失われた技術ですね」


「ありがとう、ミナト」


カイルが感謝の言葉を述べた。


「また君に助けられた」


「お互い様です」


ミナトは謙遜したが、内心では大きな達成感を感じていた。《観察》スキルが次元魔法まで解析できるとは思わなかった。


「それにしても、すごいスキルですね」


《神速》の転生者が感心した。


「次元魔法を解析するなんて、魔法学者でも困難なはずです」


「魔法の森の高濃度エネルギーが、《観察》スキルを増幅してくれたんです」


「増幅?」


「はい。通常より遥かに詳細な分析が可能になりました」


ミナトは《観察》スキルの変化について説明した。魔法エネルギーとの相互作用により、スキルの能力が劇的に向上したことを。


「つまり、環境によってスキルが強化されるということですか?」


「そのようです」


「それは貴重な発見ですね」


一行は遺跡から離れることにした。次元魔法陣は非常に危険で、二度と近づかない方が良い。


しかし、森を出る途中で、さらなる異変が発生した。


森の出口に向かう途中、ミナトの《観察》スキルに異常が起きた。


突然、視界が白く光り、これまで見たことのない映像が脳裏に浮かんだ。


巨大な城、暗い玉座、そして玉座に座る影のような存在。その存在は顔が見えないが、強大な魔力を放っている。


『ついに…観測者が現れたか…』


影の存在が語りかけてくるような感覚があった。


『我を見ることができる者…長い間待っていた…』


「ミナト!大丈夫ですか?」


セリスの声で現実に戻った。ミナトは地面に膝をつき、額に汗をかいていた。


「何が見えたんですか?」


「分からない…何かの映像が…」


ミナトは混乱していた。《観察》スキルで未来や幻覚が見えることはこれまでなかった。


「疲労でしょう」


レックスが心配した。


「次元魔法の解析で、精神的に消耗したのかもしれません」


「そうかもしれません」


しかし、ミナトは確信していた。あの映像は単なる幻覚ではない。《観察》スキルが何かを捉えたのだ。


「少し休憩しましょう」


一行は森の安全な場所で休息を取った。その間、ミナトは先ほどの映像について考えていた。


『観測者…我を見ることができる者…』


あの影の存在は、まるでミナトを待っていたかのような口ぶりだった。


「ミナト、顔色が悪いぞ」


カイルが心配した。


「何か重要なことを見たんじゃないか?」


「…実は」


ミナトは躊躇したが、結局映像のことを仲間たちに話した。巨大な城、暗い玉座、影の存在。そして「観測者」という言葉。


「観測者…」


セリスが考え込んだ。


「ウィローブルック村の石碑にも『観測の眼』という言葉がありました」


「関係があるのでしょうか?」


「可能性があります」


エミリアが分析した。


「ミナトさんの《観察》スキルは、単なる情報収集能力ではないのかもしれません」


「どういうことですか?」


「特別な存在を『観測』する能力なのかもしれません」


興味深い仮説だった。


「つまり、普通では見ることのできない存在を見る力?」


「そうです。そして、その存在がミナトさんを『観測者』として認識している」


「でも、あの影の存在が何なのかは分からない」


「今は情報が不足しています」


レックスが現実的に判断した。


「まずは王都に戻って、詳しく調査しましょう」


一行は魔法の森を後にして、王都に向かった。


王都に戻ったミナトは、《観察》スキルの変化について詳しく調査を始めた。


王国図書館の古代文献、魔法研究所の資料、そして神殿の宗教的文書。あらゆる資料を調べて、「観測者」に関する情報を探した。


「見つけました」


3日間の調査の結果、重要な文献を発見した。


『古代魔王戦争記録』という1000年前の文書に、興味深い記述があった。


「『観測されざる魔王』について書かれています」


セリスと一緒に文献を読み進めた。


「『魔王ゼル・エンブリオは、観測されない限り存在しない特殊な魔王である』」


「観測されない限り存在しない?」


「はい。『通常の方法では発見することができず、特別な観測能力を持つ者のみが、その存在を認識できる』と書かれています」


恐ろしい発見だった。


「つまり、普通の人には見えない魔王がいるということですか?」


「そういうことになります。そして、『観測者なくして魔王を封印することは不可能』とも書かれています」


「観測者…それは…」


「ミナトさんのことかもしれません」


ミナトは震えを感じた。自分の《観察》スキルが、古代から予言されていた特別な能力だったとは。


「でも、なぜ僕が?」


「《観察》スキルの特性と、古代の予言が一致しています」


セリスが文献の別の部分を読み上げた。


「『観測者は最弱の力として現れ、やがて世界の希望となる』」


「最弱の力…」


「《観察》スキルは確かに最弱スキルと呼ばれていました」


「しかし、やがて世界の希望となる…」


運命的な偶然なのか、それとも必然なのか。ミナトの転生と《観察》スキルの授与は、古代から定められていたことなのかもしれない。


「魔王ゼル・エンブリオは今どこにいるのでしょう?」


「文献によれば、『観測されるまで存在が確定しない』とあります」


「つまり、ミナトが観測するまで、魔王の居場所は定まらないということですか?」


「量子力学的な存在だということでしょう」


セリスが解説した。


「観測によって現実が確定する」


「それで、魔法の森で見た映像は…」


「魔王ゼル・エンブリオからのコンタクトだった可能性があります」


背筋が寒くなった。世界最強の魔王が、ミナトの存在に気づいているのだ。


「どうすればいいでしょう?」


「まず、《観察》スキルをさらに強化する必要があります」


「どうやって?」


「魔法の森での体験が参考になります。高濃度の魔法エネルギーが、スキルを増幅しました」


「つまり、魔法的な環境で訓練すれば、スキルが向上するということですね」


「そうです。そして、魔王を観測する準備を整える必要があります」


重大な使命を背負ったミナト。しかし、まだ多くの謎が残されていた。


《観察》スキルの強化訓練が始まった。


魔法研究所の協力を得て、高濃度魔法エネルギー環境での訓練施設が用意された。元同僚のマーカス博士が、特別に協力してくれることになった。


「ミナト君の《観察》スキルは、理論的に非常に興味深い」


マーカス博士が説明した。


「古代観測魔法学の実現例として、学術的価値も高い」


訓練施設は地下の特別な部屋で、魔法石によって高濃度の魔法エネルギーが充満している。


「この環境で《観察》スキルを使えば、能力が大幅に向上するはずです」


ミナトは慎重に《観察》スキルを発動した。すると、魔法の森での体験と同様に、視界が劇的に変化した。


部屋の壁の向こう、建物の外、さらには王都全体まで見渡すことができる。


「すごい…王都全体が見えます」


「どこまで見えますか?」


「王城、神殿、ギルド…街の隅々まで詳細に」


しかし、長時間の使用は精神的な負担が大きい。15分ほどで限界に達し、スキルを停止せざるを得なかった。


「やはり、まだ訓練が必要ですね」


「段階的に慣らしていきましょう」


毎日2時間の訓練を続けることになった。


1週間後、ミナトの《観察》スキルは明らかに向上していた。使用時間の延長、観測範囲の拡大、詳細度の向上。全ての面で成長が見られた。


「そろそろ、魔王の観測を試してみますか?」


マーカス博士が提案した。


「でも、危険ではないでしょうか?」


セリスが心配した。


「魔王に気づかれる可能性があります」


「確かにリスクはあります」


「でも、いずれは対峙しなければならない相手です」


ミナトが決断した。


「準備を整えて、挑戦してみましょう」


魔王観測の準備として、さらなる安全対策が講じられた。


神殿の大司祭マクシミリアンが、強力な防護結界を設置してくれた。また、王国最高位の魔法使いたちが立ち会い、緊急時の対応体制も整えられた。


「《観察》スキルで魔王を探索します」


訓練施設で、ミナトは深く集中した。これまでで最大限にスキルを発動し、世界全体を観測範囲に設定する。


すると、視界が一気に拡大した。王都を越え、王国全体、そして大陸全体が見渡せるようになった。


様々な場所、様々な存在が見えてくる。しかし、魔王らしき存在は見つからない。


「いません…どこにも見当たりません」


「観測されるまで存在が確定しないからでしょう」


マーカス博士が分析した。


「より積極的に探索する必要があります」


ミナトは《観察》スキルをさらに集中させた。単なる視覚的観測ではなく、存在そのものを探知する方向にシフトする。


すると、突然、強烈な反応があった。


空間の彼方、次元の狭間に、巨大な影が見えた。


『観測者よ…ついに我を見つけたか…』


魔王ゼル・エンブリオの声が、直接脳内に響いてきた。


『長い間待っていた…汝との邂逅を…』


魔王の姿が徐々に鮮明になってくる。


巨大な人型の影、闇でできた翼、燃える赤い目。そして、圧倒的な魔力のオーラ。


『汝の《観察》により、我の存在が確定した…』


『これより、我は現実世界への顕現を開始する…』


「まずい!」


ミナトが慌てて《観察》スキルを停止しようとしたが、もう遅かった。


魔王との観測リンクが確立され、切断することができない。


『観測者よ…汝は我の復活の鍵であった…』


『感謝する…』


魔王の笑い声が響き渡り、訓練施設全体が震動した。


「緊急事態です!」


マーカス博士が警報を鳴らした。


「魔王の復活プロセスが開始されました!」


王都全体に緊急警報が鳴り響いた。


魔王復活の兆候が各地で観測され始めたのだ。空の色が変わり、魔法エネルギーが異常に高まり、各所で不可解な現象が発生している。


「ミナト、大丈夫か?」


カイルとレックスが駆けつけてきた。


「魔王との観測リンクが切れません」


ミナトは苦痛に顔を歪めていた。魔王の強大な魔力が、《観察》スキルを通じて流れ込んでくる。


「何とかリンクを切断できませんか?」


「試してみます」


マーカス博士が魔法的な切断術を試したが、効果がない。


「魔王の魔力が強すぎます」


『観測者よ…もはや汝は我と運命を共にする…』


魔王の声が再び響いた。


『汝の力で我を観測し続けることで、我の存在は安定する…』


「つまり、ミナトが観測を続ける限り、魔王の復活が進むということですか?」


「そういうことです」


しかし、観測を止めることもできない。一度確立されたリンクは、魔王の意思によって維持されているのだ。


「どうすれば…」


その時、ミナトに新たな感覚が生まれた。


魔王を観測しているうちに、相手の思考パターンや行動予測ができるようになってきたのだ。


「待ってください…何か分かってきました」


「何がですか?」


「魔王の弱点が見えます」


《観察》スキルによって、魔王の存在構造が詳細に分析されていた。


「魔王ゼル・エンブリオは、観測されることで存在を維持しています。つまり、観測の方法を変えれば、影響を与えることができるかもしれません」


「どういうことですか?」


「単に見るだけではなく、『分析』と『理解』を加えた観測です」


ミナトは《観察》スキルの新たな使い方を発見していた。


対象を単に視覚的に捉えるのではなく、その本質を理解し、構造を分析し、弱点を見抜く。


「魔王の存在基盤を詳しく観測して、脆弱性を見つけ出すんです」


『何をする気だ、観測者よ…』


魔王が警戒し始めた。


『我を観測するだけでよい…余計なことはするな…』


しかし、ミナトは観測を継続した。


魔王の存在は、観測によって維持されているが、同時に観測によって分析もされている。詳細な分析が進むにつれて、魔王の秘密が明らかになってきた。


「見えました!」


「何がですか?」


「魔王の存在を支えている『核』があります。それを観測で無力化できれば…」


『やめろ!』


魔王が激怒した。


『汝の役目は我を観測することだ!分析ではない!』


しかし、ミナトは止まらなかった。


《観察》スキルを最大限に集中し、魔王の存在核心を詳細に分析する。


すると、驚くべき真実が判明した。


「魔王ゼル・エンブリオは…完全な存在ではありません」


「どういうことですか?」


「魔王の存在は『不完全』なんです。観測によって一時的に現実化しているだけで、本質的には『可能性の状態』に留まっています」


つまり、魔王は量子力学的な重ね合わせの状態にあり、観測によって一つの状態に収束しているのだ。


「それなら…」


「はい。観測の方法を変えることで、魔王を『非存在』の状態に戻すことができるかもしれません」


『気づくな!』


魔王が必死に阻止しようとしたが、もう遅かった。


ミナトは《観察》スキルの新たな側面を発見していた。『選択的観測』——対象の特定の側面だけを観測することで、現実を変化させる能力。


「魔王の『非存在状態』を観測します」


『やめろおおおお!』


ミナトが《観察》スキルの焦点を変更すると、魔王の存在が不安定になり始めた。


『我は…我は存在する…観測者が我を見ているのだから…』


「いえ、私が観測しているのは『あなたが存在しない可能性』です」


量子力学的な観測理論の応用だった。魔王の存在と非存在は重ね合わせの状態にあり、観測によってどちらかが確定する。


ミナトが『非存在』を観測することで、魔王はその状態に収束していく。


『まさか…そのような使い方が…』


魔王の声が徐々に弱くなっていく。


『観測者よ…汝は我が想像を超えた存在だった…』


『だが…これで終わりではない…』


『我が完全に復活する時…再び会おう…』


魔王の存在が薄れ、やがて完全に消失した。


観測リンクも切断され、ミナトは解放された。


魔王消失後、王都の異常現象も収まった。


空の色は元に戻り、魔法エネルギーも正常値になり、市民たちは安堵の表情を見せていた。


「やりましたね」


セリスが興奮して言った。


「魔王を観測で消去するなんて、前代未聞です」


「でも、完全に倒したわけではありません」


ミナトは複雑な表情をしていた。


「魔王は『我が完全に復活する時』と言っていました。いずれ再び現れるでしょう」


「それでも、今回の発見は重要です」


マーカス博士が分析した。


「《観察》スキルに『選択的観測』の能力があることが判明しました」


「選択的観測?」


「対象の特定の側面や状態を観測することで、現実を変化させる能力です」


つまり、《観察》スキルは単なる情報収集能力ではなく、現実改変能力でもあったのだ。


「これで《観察》スキルが『最弱』から『最強』に変わりましたね」


カイルが感心した。


「いや、最初から最強だったのかもしれません」


レックスが推測した。


「ただ、使い方が分からなかっただけで」


「確かにそうですね」


ミナトは《観察》スキルの真の力を理解し始めていた。


単に見るだけでなく、理解し、分析し、選択的に観測することで、世界に影響を与えることができる。


「でも、まだまだ学ぶことが多いです」


「そうですね」


エミリアが同意した。


「魔王との戦いは、まだ始まったばかりかもしれません」


その後、ミナトの《観察》スキル覚醒は王国全体で大きな話題となった。


『最弱スキルが現実改変能力だった』『観測で魔王を消去』『新たな魔法理論の発見』


様々な見出しが新聞を飾り、学者たちは《観察》スキルの研究に熱中した。


「ミナトさんの発見は、魔法学の常識を覆しましたね」


マーカス博士が嬉しそうに言った。


「観測魔法学が復活するきっかけになるでしょう」


しかし、ミナトは浮かれてはいなかった。魔王との遭遇で、自分の使命の重大さを痛感していたからだ。


「まだ準備不足です」


「どういうことですか?」


「魔王ゼル・エンブリオは『完全に復活する時』と言っていました。次に現れる時は、今回より強力になっているでしょう」


「それに対する準備が必要ということですね」


「はい。《観察》スキルをさらに向上させ、仲間との連携も強化しなければなりません」


《蒼き観察者》パーティは、新たな訓練プログラムを開始した。


ミナトの《観察》スキルだけでなく、セリスの魔法とレックスの戦闘技術も向上させ、完璧なチームワークを目指す。


「今度は《雷光の剣》とも合同訓練をしましょう」


カイルが提案した。


「魔王との戦いには、多くの仲間が必要です」


「良いアイデアですね」


「《鋼鉄の刃》にも声をかけてみましょう」


こうして、王都の主要パーティが連携して、魔王復活に備えることになった。


数週間後、ミナトは王都の城壁の上で夕日を眺めていた。


《観察》スキルの覚醒により、世界の見え方が大きく変わった。単なる視覚情報ではなく、物事の本質や隠された真実まで見えるようになっている。


「考え事ですか?」


セリスが隣に来た。


「これからのことを考えていました」


「魔王のことですね」


「はい。いずれ再び現れるでしょう。その時、今度こそ完全に封印しなければなりません」


「大丈夫です」


レックスも合流した。


「俺たちがいます。一人で背負う必要はありません」


「そうですね」


ミナトは仲間たちを見回した。セリス、レックス、そしてカイルたち。皆、信頼できる仲間だった。


「でも、《観察》スキルの責任は重いです」


「責任を分かち合いましょう」


セリスが微笑んだ。


「私たちは《蒼き観察者》です。ミナトさんの《観察》を支援するのが、私たちの役目です」


「ありがとうございます」


夕日が王都を染めている。多くの人々が平和に暮らしている光景だ。


『この平和を守るために』


ミナトは新たな決意を固めていた。《観察》スキルの真の力を極め、魔王の脅威から世界を守る。


それは簡単な道のりではないだろう。しかし、信頼できる仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられるはずだ。


「明日から、新しい訓練を始めましょう」


「どんな訓練ですか?」


「《観察》と《戦闘』の融合です」


ミナトは新たなアイデアを思いついていた。


「《観察》スキルで敵の弱点を瞬時に見抜き、仲間に的確な指示を出す。完璧な連携戦闘を目指します」


「面白そうですね」


「やってみましょう」


三人は固い握手を交わした。


最弱スキルと呼ばれた《観察》は、ついに真の力を覚醒させた。しかし、これは始まりに過ぎない。


魔王ゼル・エンブリオとの最終決戦に向けて、ミナトと仲間たちの新たな冒険が始まろうとしていた。


世界の運命は、《観察》スキルを持つ少年の手に委ねられている。


しかし、ミナトはもう一人ではない。信頼できる仲間たちと共に、どんな困難にも立ち向かっていく覚悟だった。


《蒼き観察者》の真の戦いは、これから始まるのだ。


第8話 終

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