ケモノとの交戦——(カイトと交戦③)
「瞬間移動とは……言い得て妙だね」
まるでケモノが一瞬消えたように感じる。
ケモノの身体は左に動いているのに、気づけば右側の死角から攻められていた。だからどこから攻められるのか分からず、まるでケモノが消え、瞬間移動して攻撃しているように見えるのだ。
でもそれは違う。
正しくは身体ではなく、その身体の重心が傾いているだけ。
身体の重心を左側に傾けた後、その後すぐ右側の死角に突っ込んいるだけだ。
それを物凄いスピードでやっているから、まるで別の方向から瞬間移動したように錯覚してしまう……いわば、フェイントというものだった。
ただ、防戦一方だったわけではない。
慌てて対応しようとすれば、今度はケモノ自身を見失ってしまう……だからケモノの動きを観察していたのだ。そして虎視眈々と、反撃のチャンスをうかがっていたわけで――。
(もうそろそろかな)
眼前から迫っていたオオカミに、カイトは刀を振りかぶり――しかし獲物は消え、気づいたときには、カイトの後方から飛び出してきた。
最初のはフェイントっ!
ケモノはカイトの攻撃を誘って、別の死角から攻めてきた。
だから――。
カイトは片足をいっぱいに後ろに下げ、腰を起点しがら振り返る。同時に振り下ろした刀を遠心力で回して…………っ!
「ぐあっ!」
放たれた刃は、カイトの背後に迫ってきたケモノを捉えたかに見えた。
だが……。
躱されたっ!
繰り出された一撃になんとか反応し、ケモノはバックステップで後退していた。
しかしカイトは追わない。それ以上の追撃は無意味だった。
代わりに刀を振り払って、張り付いたケモノの血を払い落とす。それから視線をケモノへと走らせた。
そこには、ケモノの唸り声があったのだ。
無性に込み上げてくる苦難の表情が溢れないよう、必死になって嗚咽を堪えていた。
「振り向きだと少し遅れるね……でも手ごたえはあったか」
どしっと、右足からケモノは崩れ落ちた。
そう、ケモノの右足が根元から先が泣き別れていたのだ。
「これで、お得意の瞬間移動はできなくなったわけだけど」
「——」
「……まだやる?」
カイトが問いかけるも、ケモノの瞳には未だ闘志が宿っていた。
相手は死に体だ。もう助かる見込みはなく、しかしケモノとしての矜持は死んでいなかった。最後は戦って死にたいと言ってるようだった。
その意志をくみ取るように、カイトは刀を構えた。
「「……」」
冷たい風が両者の間を通り抜けていく。
じわじわと張り詰め、勝負の緊張感が広がっていった。
それほどに張り詰めたものがあった。ごくりと喉を鳴らして、口の中に生まれた唾を飲みこむけど、その音すらも経てることが許されないような、肌がひりつくような緊張感が、そこにはあった。これが決着なのだろうと、誰もが分かっていた。
そんな中、ケレンがぽつりと呟いた。
「ねぇ、カイト隊長って何者なの?」
「彼は我がヴァリバルト傭兵団の隊長にして、創剣の魔法使い――ミツルギ・カイト殿ですよ」
膠着状態の中、動いたのは、ほぼ同時だった。
踏み込んで青白く光る剣を振りぬけば、渾身の力を振り絞って突進したケモノは脳天から真っすぐに断たれて左右に一刀両断された。
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