ケモノとの交戦——(カイトと交戦①)
――ひょう。
と、鋭い音がケモノの眉間に直撃した。
しかし矢はその鋼鉄の身体には突き刺さらず弾かれた。
「足を狙うつもりが……ダメか。やっぱり僕の弓はイマイチだな」
カイトはフラフラしながらも、立ち上がった。
満身創痍とはこのことか。
カイトの頭からは血が流れ、その視界はぼんやりとしていた。何度も地面に打ち付けられたからなのか、身体はボロボロで、傷だらけだ。朧げな月明かりの中で、カイトという存在も闇夜の景色に紛れて消えてしまいそうだった。
しかし彼の前には、眩い光があった。
細かい光の粒子のようなモノが集まっており、周囲を照らしているようだ。
その眩い光には、未来への希望や底知れない勇気が詰まっているよに感じた。
眩すぎて、まばたきさえも忘れてしまうほどの輝き。
その光の先には、何が待っているのだろうか。
不安と期待が気持ちが入り混じる気持ちで、眩い光へと手を伸ばす。
その眩い光に導かれるままに。
カイトは、その光に向かって叫んだ。
「アインハルトっ!」
粒子のように細かく散らばっていた光が、次第に一か所に集まってきた。
すると、そこには一つの剣が現れる。
まるで三日月のようだった。刀身は薄く反り、剣先の形は鋭い。その刀身は月夜の光に照らされ、艶やかに反射した。
それは、静かなにその存在を主張し、まるでカイトに寄り添っているかのようだった。
しかしどこか荘厳な空気を感じさせ、まるで静かさと鋭さとが共存するその形に、周囲の者は思わず息をするのも忘れてしまう。
ケレンは、ハッとして、出現したその刀を指差した。
「なんなの、あれっ⁉」
ここら辺では、見たことのないような剣だった。
もっと普通はごつい。
剣は単なる武器ではなく、戦士の誇りと信念が現れている存在だったからだ。だから長剣というのは、戦士のあこがれだし、そういった剣を好みがちだった。
でも、カイトのものは違う。
見惚れてしまうほどに美しい。美しいデザインの剣は多くあるが、これほどまでに優雅な曲線と鋭い刃の剣を見たことはなかった。
隊員の一人が、ケレンの問いに応えた。
「アレは、刀という剣らしい。隊長の一族でしか扱えない特別な剣、なんだとよ。それくらい、あの剣は珍しいんだ」
「そもそも、アレはどうやって現れたのっ! 急に光が現れたと思ったら、アレが出てきてっ」
「……それは」
そう隊員が言い淀んでいると――。
「ギャアアアアアアアアッ!」
それは戦闘の合図。
オオカミの遠吠えとは似ても似つかない、それは化け物の咆哮。
いつの間にかカイトの眼前に迫ってくる。
まるで瞬間移動だった。
それは、通常ありえない攻撃だ。左から迫っていたケモノが突如消え、気づいたときには、カイトの右から重い一撃が迫ってくる。
それをいなそうと思って剣を振るえば次の瞬間、スピードの乗った一閃が全く別の角度から襲ってきた。瞬間移動のような速さで、攻撃されている。
だから迂闊に打ち込むこともできず、カイトは猛攻を受け止め続けた。どこから迫ってくるのか分からない。全方位から攻撃され、このままでは隙ができたところから攻め込まれたしまうだろう。
「……こんなの、勝てっこない」
人間では、相手にならない。
それは、子供のケレンでも分かる。こんなの防戦一方で、いずれ生まれてしまう隙を突かれて、あのケモノに食われてしまうに違いない。それもあっけなく、無残に。
その焦りからか、ケレンは周囲の兵に呼びかける。
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