表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第一章 剣×狼
6/60

ケモノが現れた――(ラムザと対峙)

 そのとき、突き刺すような気配がよぎる――。


 それに気づき、辺りを見回した時には、もう終わっていた。

 

 ――突如、カイトの横から黒い塊が飛び込んできたのだ。

 

 一瞬のことで、誰も何が起こったのか理解できなかった。

 

 唯一、反応できたのは、カイトだけで……。


 咄嗟に剣でガードしたものの、衝撃をいなすことができず、カイトの身体は宙に飛ばされた。背中から地面に叩きつけられ、カイトはそのまま起き上がってこなかった。


 アレは別格だった。

 その毛並みは黒々しく輝き、まるで鉄の塊のような力強さを感じる。頭部は通常のオオカミよりも大きく、牙は顔面から収まりきらないくらい巨大で、一瞬で獲物をしとめる力を秘めていた。この世の者とは思えないほどの存在が、そこにいた。


「怯むなっ、全員でかかれっ!」


 ラムザの声で、兵の者が一斉に槍で貫こうとするも、


「なっ!」


 兵の槍は虚しくも空を切るだけだった。

 その黒い身体はとても素早く、俊敏な動きで相手の攻撃をかわし、迫りくる攻撃を全て回避した。隊員の攻撃が掠っても、そのうねる様な毛並みで滑り、誰一人ケモノを捉えられなかった。


「皆の者、退けっ! 私に任せろっ!」


 兵を後ろに下がらせ、ラムザは地面を蹴って一気に距離を詰めた。


 ラムザの、大気を引き裂くほどの槍の突きが、そのケモノの脳天へと目掛けて飛び出す。あのひと振りでオオカミどもを蹴散らしたほどの一撃。喰らえばひとたまりもない。


 ……しかし俊敏なケモノには当たらない。


「まだまだっ……ここからっ!」


 それでもラムザは構えた槍を突き出しては引き、引いてはは素早く突き出だしていく。


 一呼吸の間に一〇の突きを繰り出し、その内の一つがケモノの身体に掠った。


 右へ、左へと、上から下へと……槍の穂先を自在に動かし、時に緩急をつけては少なく繰り出し、また時に一〇よりも多くを繰り出した。


 ラムザの槍撃は徐々にケモノを圧倒し、その穂先がケモノの肉体へと届いたそのとき。


「——っつ」


 完璧に捉えたっ!……と思ったら、弾かれてしまった。


 まるで鋼鉄の塊だった。

 渾身の一撃だったのに、ケモノはビクともせず、逆にこちらの手が痺れるほどだった。それほどに、無慈悲なほど手ごたえがない。


 これでは無理だと、誰もがそう思ったとき。


「うおーーーーっ!」 


 それでも諦めずに、ラムザは気合の声を発しながら槍撃を繰り出す。


 最初は一つも当たらなかったのに、今は二〇の内その半分がケモノの身体に届いていた。


 例え勝てなくても、このケモノを退くことはできるかもしれない。


 そう思い、ラムザは必死に槍を振るった。


「どっ……せいっ!」


 そうして力の籠った一撃が、ケモノに入った。

 ケモノがいた場所の地面が抉れ、大きく後退したことが分かる。槍の猛攻の内の一つが、ケモノの脳天に直撃し、よろけながら一歩後退させた。


「よ、よっしゃ……ラムザが、ケモノを退かせたっ!」

「あぁ、勝てなくてもいい。このまま、あのケモノが諦めてくれればっ!」


 周囲で見守っていた者も、歓声を上げる。


 それほどに、今まで手ごたえのあった一撃だった。

 これを一〇の内三つほど入っていければ、ケモノは退いてくれるだろう。そんな期待が、皆の胸の中にあった。


 だが、ラムザは肌で感じていた。

 ケモノの目には未だに諦めの色など、微塵も感じない。ハッキリ言って、これ以上は空しく感じる。その直感は当たっていて。


 今度はケモノの方から仕掛けてきたのだ――。

 

 ラムザが突き出した槍の穂先を横から叩かれ、ラムザの身体が僅かに傾いた。その瞬間————。


「ごふっ……⁉」


 横から回り込まれ、鈍い音と共に、ラムザは吹っ飛ばされる。


 ただ、ケモノは防戦一方だったわけではない。ラムザの動きを見ていただけだ。そして虎視眈々と、反撃のチャンスをうかがっていただけだった。


 あのラムザでも、勝てなかった。


 他に勝てるものなど、いない。

 

 そう思わされるほどに、化け物は規格外だったのだ。


「ぐるぅぅ……!」


 黒い獣のオオカミは、凶暴な眼差しでケレンを見つめていた。

 その巨体は大きく、赤い舌を出しながらケレンに近づいてくる。 このケモノと最初に出会ったときに感じた恐怖を、ケレンは再度思い出すことになる。


(僕は死ぬ。ここで殺されてしまう……っ!)


 ここのままでは、喰わるのでは――そう思ったとき。


面白いと思って頂けた方は、ブックマークや評価をして頂けると幸いです!


何卒宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ