カイトの兄上――②
師範代は反撃せず、兄上は打ち込みを続ける。
まるで掛かり稽古だった。
打ち手が基本的な技を反復する。こうして刀の扱いを稽古を通じて学ぶ。それは実戦さながらの真剣同士の稽古だった。
実際に、刀と木刀では、全く違う。
まず、踵は浮かせてはいけない。
木刀は軽いから踵を浮かせてもいいが、真剣はそれよりも重い。だから、両足は地面にピッタリと付けるようにしなければいけない。
そうでなければ真剣の重みで、前方に身体が傾き、安定しなくなるから。
そして、剣筋も荒くなる。
初めは肩に余計な力が入ってしまい、腕に疲労が溜まりやすい。実際、兄上の呼吸は乱れていた。数十回振っただけでも、滝のような汗が道場を濡らす。
対して、指南役は全く動ずることなく、悠々と受け流し捌いていた。
その呼吸に一切の乱れはない。まさに堂々とした構えだった。
そんな指南役から、くぐもった低い声が発せられた。
「もう終わりか?」
「違います」
「ん?」
「刀の扱いは、もう分かりましたから」
兄上の脚が一歩、前に出る。
空気が変わった……。
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