シモーネの街が燃えているっ!——⑤
「ラムザの兄貴らしいや。ったく、俺っちも気が乗らねぇけど、名乗らせてくれねぇっすか。敵に覚えられていないのも、癪なんで」
赤髪の青年は、好戦的に八重歯をチラつかせた。
引き締まった体つきと、子供っぽい顔つきが印象的だ。ニヤリと笑い槍を構えるさまは、どこか颯爽としていた。
「アレックス・チェンバレン! ヴァリバルト傭兵団の前衛部隊の一人、そして最近上り調子の期待の――」
「ちなみに、ワシはグレゴーリ・リューズ。ヴァリバルト傭兵団で一番年寄りの傭兵じゃ。後衛部隊の荷車隊などの補給を任せられるおるよ。まぁ、こうして前線に出ることもしばしばあるが」
「だったら出しゃばれないでほしいっすね、クソ爺っ!」
「おいおい、クソ爺呼ばわりかよ。敬語も台無しじゃのぉ」
「いいから行くっすよ、名乗りは狩ってからでも行けるしなっ!」
「そうじゃな、グレゴーリ参らせていただくのゃ」
「おっしゃ、行くぜぇぇぇっ!」
そうして、青年のアレックスと老兵のグレゴーリも、ラムザの背中に続くようにして駆けって行く。
「ミツルギ・シオン、参るっ! 北門を皆で突破だっ! って、あれ兄さまは……⁉」
シオンが周囲を見渡しても、カイトの陰すらない。
何故なら皆が名乗り上げる前から、もう既に駆け出していたのだから……。
「皆が名乗り上げるなら、僕もそうしようかな」
乱戦状態。
皆がどこで戦っているのか、分からないほどだった。ただ、耳に聞こえるのは刃の甲高い音だけが響き渡る。
それは、ケモノたちと激しく衝突している証。
そして、途絶えることなく鳴り響くのは――。
生きている証でもある。
その最前線で、ヴァリバルト傭兵団の隊長が名乗り上げた。
「ミツルギ・カイト! 参るっ!」
カイトは腰を深く沈め、刃を斜めにしてケモノの胴を薙ぎ払った。
血しぶきがあがったが、返り血を浴びる間もなく、次の獲物へと斬りかかっていく。
――祭りの夜が、明けていく。
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