新たな魔法使い その名もミツルギ・シオンっ!——①
「……やっと出れました」
そうポツリと漏らすのは、おかっぱな女性。
ピンと背筋を伸ばした隙の無い立ち姿と、鋭い眼光。
威圧感こそないものの、どこまでも見透かそうとする蒼い瞳には、どこか吸い込まれるような魔力が宿っていた。
「まだやるの?」
「グルルルっ!」
問いかけるも、ケモノには息を詰まらせるような圧力、野性的な殺気があった。
対して、好戦的な眼をこちらに向けたまま、ペロッと唇を舐める女性。小太刀を逆手に構え、半身を取る。
ケモノとの距離、およそ二足半――攻撃を仕掛けるにはやや遠い間合い。
しかしピタリと止まって、女性の腰が微かに落ちる。
――シュッ!
そして空間が真っ二つに穿つがごとき一撃が放たれた。
それは、蹴り!
それも居合のような蹴りだった。
直線的な軌道で、最短最速に相手を捉える。
予想外の初撃で驚いのか、思わずケモノの頸が上がる。
「グッ!」
抜き放たれた蹴りで、ケモノの喉元が貫かれる。
と同時に、血煙が大量に噴き出した。
「ミツルギ流古武術、古来よりも伝わる実戦武術。元々は徒手空拳で刀などは使用しないけど、でもこの小太刀のおかげで意表は付けた。間合いの外からの攻撃が飛んでくるとは思わないもの」
ケモノの返り血を浴びながらも、カイトに投げかける流し目。伏せられた長い睫毛は成熟した大人の色気を発していた。
「ミツルギ・シオン。お兄様、只今参上しましたっ!」
そうして、カイトに向かって全力ダイビングするシオン。
大きく、ふんわりとした感触がカイトを包み込んだ。慌てて魔法の展開を辞め、咄嗟に受け止めたのは良かったのだが、反動でカイトは地面に倒れてしまう。
「あのさ、シオン。助けてくれたのはいいんだけど……」
「何ですか、お兄さま」
「まだ敵がいるんだけど」
それも、そのはず。
敵は五〇〇ほどのケモノが、地ならしを鳴らしながら迫ってきている。兄弟同士で抱き合っている場合じゃない。
「むぅ、久しぶりの再会ですよ? 最上の喜びを抱き合うことで示すのは、兄弟として一つの形ですから」
「時と場合を考えて。それに、そんな兄弟いるわけない」
「久しぶりに外に出たのです。もう少し間近でお兄様を感じたいのです」
「そういうのいいからっ」
カイトはシオンの腰に手をやり、無理やり立ち上がった。
その反動で、シオンは跳ねるように飛びのいた。
「きゃあんっ、お兄さま酷いっ! 人を棺桶に住まわせて、表に出るなって言うんだもんっ!」
「そりゃ、ヴァリバルト傭兵団の懐刀だし。隠れてたままでいてほしいんだけど」
「むぅ、兄さまを助けたのに。何ですか、そのいい草は」
「シオンは最後の切り札に取っておきたかったからだよ。魔法使いが二人いるって諭されたくなかったし」
「もう出てきてしまったのは、仕方ないでしょう。ほらほら、このケモノどもを殲滅してやりますよ」
「はいはい、シオン。存分にやってくれ」
「分かりましたっ!」
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