カイトVS大型のケモノ――①
「……逃げ切れるかな?」
木の間を縫うようにして、カイトは下りの森を駆けっていた。
対して、大型のケモノはというと――。
「ガルルルルッ!」
木々をなぎ倒して、そのまま一直線にカイト目掛けて駆けってくる。
あの巨体に対して、もはや周囲の全てが障害物。まるで巨大な岩が転がってくるが如く、一向に止める様子はない。周囲のモノをぶっ飛ばして、突き進んでいく。
(このままじゃ、追いつかれるな)
それに、この林の中では満足に刀を振れない。振ろうにも、周囲の木々が当たって邪魔をする。このままでは、まともな攻撃ができない。
「なら、森を抜けるしかないか」
カイトは大地を踏みしめ、大きく跳躍する。そのまま坂道になっている地面にダイブし、受け身を取りつつ転がるようにして滑り落ちる。そのまま平地に付いたらすぐさま駆け出し、森を抜け出した。
「……全身泥まみれだ」
カイトが独り言ちるも、敵は待ってくれない。既に大型のケモノが後ろから迫ってきて、カイトはすぐさま振り向き構える。それから刀を振るった。
「はっ!」
最初は、脇腹から斜めに上げる逆袈裟斬り、次に振り下ろして唐竹斬り、下から鳩尾を狙うような水月斬り。瞬きする間もなく三撃が走る。
しかし、全て無意味だった。あのケモノを一刀両断した、この刀がだ。手応えなく、刀が滑るようにケモノの肉を滑った。
「なら、これだったらどうだろう」
カイトは半身を取って腰だめに構える。
刀は鞘に納めたまま。
そして神速の放つ刀によって、あの鋼鉄の肉を切り伏せる。
大型のケモノが近づいてきた瞬間、カイトは腰の刀を鞘走らせて――。
「居合斬りっ!」
額の命中を確認して、カイトは軽く地面を蹴って再び間合いを保つ。抜いたはずの刀も、いつの間にか鞘の中へ戻されていた。
「……これでいけたかな」
ケモノの額からは、プシュッと血が溢れ出した。あの三連撃の猛攻をものともしなかった、あの鋼鉄の鎧。閃光のような一撃で、ようやく傷一つ入れられた。
「ガルルルルッ!」
しかし皮の一枚切れただけのようで、ケモノは低い唸り声を上げる。
そうして、ケモノはこちらを警戒するように間合いを取った。
居合抜刀術。相手が攻撃を仕掛けてから、後の先によるカウンターで打ち取る。これが一般的なスタイルで、基本的に防御の型とも言ってもいい。
だから好機が訪れるその時まで、じっと耐える必要があった。
(でも、そんなに余裕はないしな)
こうしている間に、他のケモノたちがカイトを取り込まんでしまう。
それに、ここは平原。逃げ間もなく、囲まれたら集団リンチだ。
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