蒼穹のイカロスっ⁉
それでも気圧されないよう、カイトはとりあえず口を開いた。
「なぁ、お前の目的は何だ?」
「面白いことを言うの。そりゃぁ、侵略行為だろうが」
「普通、もっと慎重に事を進める。個人の強い執念的なものを感じるけど」
「早く手柄を立てたいと思っているからね。私たちが先行して攻めているの。あの海辺の町を支配すれば、国も重たい腰を上げてくれると思っているし。拠点にして攻められるしね」
「へぇ、そうなんだ」
そう言いつつも、カイトは一歩後退った。
適当な話でその場をやり過ごし、隙を見つけて逃げよう。
今、敵の大将とやり合う時間はない。そうこう話しているうちに、他のケモノたちが集まっているのだから。
しかし銀髪の女性は、好戦的な眼を向けたまま、カイトを視線から外さなかった。
「私からも、一つ聞いていいか」
そうして、ニヤリと笑う。
「蒼穹のイカロスを、知っているか?」
ドクンと、カイトの心臓が胸打った。
カイトは知っている。
その名を――。
だから、聞いた。
「どこで、兄さんを知った?」
蒼穹のイカロス。
それはミツルギ家当主であり、カイトの兄でもあった人物。いつからかそう呼ばれるようになり、カイトは兄をよく知っていた。
(一度も勝てなかったな)
何度挑もうが、返り討ちにされた。
それくらいに強く、ミツルギ家一番の実力者。そんな兄の二つ名を聞いて、カイトの全身が粟立った。
「ふっ、我らは力を授けれたの」
「……」
「この光をなっ!」
そうして、銀髪の女性は前に手をかざした。
眩い光。太陽のような眩しさで、暗闇を切り裂くように輝いている。それは鋭利な牙が闇夜を切り裂いているようで、そこには獰猛さが見え隠れしているようだ。その威厳に、その恐怖に、圧倒的な力を示すのだろう。
それは、カイトと同じ創造の魔法——。
「アインハルトっ!」
そう叫んだ瞬間、カイトの死角からケモノが飛び込んできた。
鋭く重い一撃。
刀で受け止めた腕がみしりと軋しむ。
しかし逆に勢いを殺してしまえば軽い。
わずかに下がって勢いを殺し、向こうの勢いがなくなった所で力任せに切り返す。
そうしてカイトは、ケモノは真っ二つに切り伏せた。
「もう奇襲は受けないよ……えっ⁉」
一匹のケモノを切り伏せた、その刹那。
気づけばすぐ真横に、ケモノが迫ってきた。
それも通常のそれとは全く違う。
通常の三倍のデカさっ!
ケモノ一体でも熊みたいな大きさなのに、それ以上の体格差があった。この銀髪の女性が生み出したものだろうか。それくらい規格外だった。
「くっ‼」
無造作に振り下ろされたケモノの狼爪。
鋭さはもちろんのこと、まるで巨大な柱がのしかかってくるような迫力があった。
「アインハルトっ‼」
カイトは叫び、一本の刀が光から生まれる。
そして慌てて刀の腹で受け止めるも、勢いは殺せず、五メートル後方までカイトの身体が突き飛ばされた。
そのままカイトは踵を返して、大型のケモノに背を向けると――。
「逃げるか?」
「まぁね」
「セシルカット・ニムバス。私の名だ、覚えておけ」
「僕は、ミツルギ・カイト。ヴァリバルト傭兵団の隊長」
「この程度でやれてくれるなよ? お前の力はこんなもんじゃないだろ」
「……さぁ、どうだか」
そうして言い残し、カイトは大型のケモノと共に、闇夜の森の中に消えていった。
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