ケモノの大将が現れたっ!
「来るっ!」
森の中でケモノの群れが、カイトに目掛けて突進してくる。
ケモノを横なぎで受け止めてさせてから、即座に身体を捻り反動を逸らした。
それから後退しながら刀を下段に移すと間もなく、突進してきた別のケモノに、掠め取るような突き斬りで軌道を逸らした。
そして次にケモノがカイトを捉えようとしたその先には――。
もうそこに、カイトはいなかった。
既に退いて、カイトは駆け出している。
攻撃を捌いて隙ができた瞬間、脚に力を入れ大地を踏みしめる。そうして限界まで弾き絞られた弓矢のように、飛び出していた。
攻撃ではなく、逃げに転じる。
攻撃に転じることはせず、かつ後退しながら距離を取らなければいけない。囲まれたら、終わりなのだ。
だからどう逃げられるか。
それを念頭に入れなければいけなかった。どう打てばどう捌けられ、どうすれば距離を取れるのか、そういう一刀を振らなければいけない。
「でも、少しずつ分かってきたな」
それでも、カイトとケモノの距離は縮まらない。
それどころか、カイトとケモノの差は空いていく一方だ。
カイトはケモノたちの猛攻をことごとく受け流し、その生まれた隙を縫っては逃げてを繰り返してきた。また一歩、また一歩と距離を離していく。
ケモノの速度と力が身体で覚えたら、逆にどうすれば受け流し防ぐのかも分かってきた。
少しずつケモノとの距離を突き放す。
「このまま、逃げ切れるか」
森の中で、木々の間を縫うようにして逃げる。
ケモノとの距離も取り、完全にまいたとホッと一息つこうとした。
そのとき――
思わず、脚を止めてしまった。
熱い視線を感じる。ケモノに追いかけれていることを忘れてしまうほどに。そんな強烈な圧力を感じさせる視線。。言ってしまえば、殺意のようなモノ。
思わずカイトは振り返ってしまう。
そこにあったのは――。
燃えるような深紅の瞳だった。
向けられている瞳は、紅色。それも濃い赤だった。炎のように激しく燃えるわけでもなく、それでいて深く静かで、内に熱がこもっているような……そんな深紅の瞳。熱のこもっている石炭に近い感じもする。
視線で射貫かれた。いや、焦がされた。その視線の熱はカイトにも映るほどで、まるで芯まで全て燃やしつくしてしまうほどだ。
(あれ? ん?)
そうして空気がない肺が、一斉に動き出す。
呼吸を忘れてしまった。そこでカイトはようやく、自分が圧迫されていたことに気が付いた。
そこで、一つ確信したことがある。
だから、ポロっと言葉が落ちた。
「……あんたが大将か?」
やっと出た言葉に、深紅の瞳の主はニヤリと笑う。
「あぁ、そうだとも」
月夜に照らされて、その主の姿が明らかになる。
銀白色の長髪。月夜に照らされて、煌めいている。彼女が長身のせいもあってか、髪が横に流されている様が、天の川のようだ。
そしてその煌めきには、褐色の肌が寄り添っている。それはひっそりとしていて、彼女の銀髪を際立たせていた。
でも、やはり目を引くのは……この紅い瞳だ。
まるで金縛りにあったようだった。
睨まれただけで、思わず脚を止めてしまうほどに。それほどに、彼女の瞳から強いプレッシャーを感じる。それほどの力がった。
面白いと思って頂けた方は、ブックマークと評価をして頂けると幸いです!
何卒よろしくお願いします。




