策とは意表を突くことなりっ!
――ひょう。
と、空気を引き裂くような音がラムザの耳に届いた。
それは後方から射られた矢で、暗闇のどこかに消えていった。
だけど、その矢が放たれた意味は分かる。
(カイト殿がいる、それが分かっただけで十分っ!)
「総員反転っ! このままケモノの群れどもを一掃します!」
その一声でラムザたち率いる五〇の軍勢は、クルッと馬を半回転させ、横一列に並んだ。
挟撃っ!
ケモノの後方から、カイト率いる五〇の軍団が現れた。
前方からはラムザも槍構えて突撃する。
「全て狩りつくせっ! 遠慮は無用ですっ!」
虚を突かれたケモノは、振り返る暇もない。
どんだけ肉体が鋼鉄できていようと、五〇対五〇の前後の槍撃には耐えられまい。
弾かれても、弾かれても、絶え間なく槍が突撃してくる。
「グルッ!」
唸り声は、それだけだった。
五〇のケモノがいたのだ。
それが、この一瞬で息絶えたのだ。
あるのは、ケモノの返り血を浴びたカイトたちだけだった。
「全く、ラムザ。追いかけるのが、精一杯だ」
「……すみません、突っ走り過ぎました」
「まぁ、囮になってくれたからいい」
「囮?」
「ケモノの数がどんどん増えて言った。あちこちに潜伏していたんじゃないかな? ラムザたちが暴れてくれたおかげで、それが一か所に集まって叩きやすくなった……てか、よく僕たちがくるって分かったね」
「そりゃ、信じてましたし」
「……キモいよ」
「ド直球じゃないですかっ! 流石に傷つきますっ!」
そんなやり取りをしているうちに、また地鳴りのような響きが大地を伝ってきた。
ケモノの大群がまた迫ってきているのだろう。
「まだいるのか」
「流石の機動力です。ケモノの、後方部隊がもう追い付いてきました」
「カイトの兄貴っ! 俺たち、まだまだやれますっ!」
赤髪の青年が槍を掲げる。
そして次々と他のモノも、高々に槍を天に向かって掲げだした。総勢一〇〇名の隊員たちの闘志はまだ燃えている。むしろこの無数のケモノに対して、燃え盛っている。
そんな部下に対して、カイトは小さく首を振った。
「ラムザたちには、まだやってほしいことがある。それに……」
「それに?」
「ここからは、僕たち魔法使いたちの戦いだ」
カイトの後方から、ビュンと棺桶が飛び出した。
まるで氷の上でも滑っている様。車輪もついていないのに、地面を蛇のように素早く滑走している。そのまま、ケモノが複数いるであろう林の中に飛び込んでいった。
そんな生きた棺桶の後を追従するように駆けるカイト。
それから思い出したように振り返った。
「ラムザ、後のことは任せたっ!」
「えぇっ! 全部私に丸投げですかっ!」
そうして森の奥へと、消えていった。
残されたのは、呆けた一〇〇の隊員だけ。
「……あやつ、清々しいほどの笑顔だったのぉ」
「五〇のケモノじゃ満足しねぇのか。やっぱイカレてやがるぜぇっ!」
「私たちができるのは、ここまでなのでしょう。後はカイト殿に任せて、私たちはは自分らのできることをしましょうか」
そうして、ラムザたちは馬腹を蹴って、一気にシモーネへと走り出した。
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