仲間がピンチになっている頃、カイトは寝ていたっ!
宿場町に待機していたカイトの部隊、その数五〇人ほど。
全員がいつでも突撃できる準備ができており、今にも駆け出せるよう、馬に跨って待機していた。
そんな中、諜報部隊が慌ただしく駆けってきた。
「ラムザ副隊長率いる五〇の部隊が、一〇のケモノと混戦中っ! カイト隊長、今こそ助太刀をっ!」
「……ふぅん、そうなの?」
欠伸を一つ。気の抜けた返事が、空気に溶けた。
周囲のモノは、信じられない形相で、カイトを見る。
ウトウトと寝ていた。
あろうことか、このカイトという男、馬の上で船を漕いでいた。
ラムザたちが戦っているのに、だ。皆がピンと緊張の糸を保っている中、カイトの糸はゆるゆるだった。
馬に抱き着きながら涎を垂らしている隊長に、諜報部隊の一人は呆れて言った。
「隊長、あのケモノが一〇体ですよっ! しかも混戦中でっ」
「だぁいじょぶ」
「隊長っ!」
報告に来ていた一人が、思わずカイトに迫る勢いで叫んだ。
馬が揺れるほどの強い追及にも動じず、カイトはウトウトしながら喋った。
「ラムザたちは大丈夫……多分、絶対」
「どっちですか……あのケモノ一体でも、ヤバい存在ですよ? 副隊長でも、刃が立たなかったじゃねぇのか?」
「一〇や二〇増えても、大丈夫だよ」
「なぜそう言い切れますかっ!」
「だって……むにゃむにゃ」
「最後まで言ってくださいっ!」
「はぁ、仕方ないなぁ」
そうして寝るのを諦めたのか、カイトはダルそうに伸びをした。
待機中の隊員は、そんなカイトに思わず苦笑してしまうも、諜報部隊の心は未だにざわついていた。
馬の手綱が、手汗が重くなるほどに。
「まぁまぁ、まだ早い」
「何故です?」
「ただ突っ込むだけが、戦ではないんだ」
「——」
「……そんなものは策でも何でもないってこと。ピンチに駆け付ける。そんなの誰もが思いつく、そんなのは策ですらない。策っていうのはね、相手の意表をついて、易々と勝利を勝ち取ることを言うんだよ」
「……それが、あのケモノが相手でもですか?」
「うん、それが一〇や二〇、一〇〇のバケモノ相手でもね」
「……そんなことあるのですか?」
「だから、待ってるんだ。二つめの報告を」
「ん? 二つ目ですか?」
そうしていると、伝書鳩がカイト目掛けて飛んできた。
その脚に文が繰りつけてあり、カイトはそれを広げてニヤリと笑って、諜報部隊の一人に向かって言った。
「諜報部隊、全員引き上げるように言って」
「あの、待機していたスズネ部隊からの報告ですか? 目立たないところの」
「うん、スズネはいいね。これがユリアーネだったら、すぐにラムザの下へ駆けつけていたよ」
「……確かに、寡黙なスズネらしいですけど」
ヴァリバルト傭兵団には、大まかに二つの諜報部隊がいる。
一つはユリアーネが中心になって、表立っての情報収集や伝達役。もう一つはスズネで、目立たない諜報活動や隠密などの任務がほとんどだった。
今回は、任務を忠実にこなすスズネの方が適切だった。
これは敵にバレてしまっては、意味のない作戦なのだから。
「一番重要な二つ目の報告。目立たないところだから、重要なんだ」
「ん、どういうことですか?」
「相手が一番潜伏しそうな場所」
カイトは馬の腹を脚で蹴った。
そのまま勢いよく、飛び出していった。
そんなカイトに続いて、次々と傭兵の隊員たちも続いていった。
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