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蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第三章 ケモノの軍団VSヴァリバルト傭兵団っ!
34/60

仲間がピンチになっている頃、カイトは寝ていたっ!

 宿場町に待機していたカイトの部隊、その数五〇人ほど。

 

 全員がいつでも突撃できる準備ができており、今にも駆け出せるよう、馬に跨って待機していた。

 

 そんな中、諜報部隊が慌ただしく駆けってきた。


「ラムザ副隊長率いる五〇の部隊が、一〇のケモノと混戦中っ! カイト隊長、今こそ助太刀をっ!」

「……ふぅん、そうなの?」

 

 欠伸を一つ。気の抜けた返事が、空気に溶けた。

 

 周囲のモノは、信じられない形相で、カイトを見る。

 

 ウトウトと寝ていた。

 

 あろうことか、このカイトという男、馬の上で船を漕いでいた。

 ラムザたちが戦っているのに、だ。皆がピンと緊張の糸を保っている中、カイトの糸はゆるゆるだった。


 馬に抱き着きながら涎を垂らしている隊長に、諜報部隊の一人は呆れて言った。


「隊長、あのケモノが一〇体ですよっ! しかも混戦中でっ」

「だぁいじょぶ」

「隊長っ!」

 

 報告に来ていた一人が、思わずカイトに迫る勢いで叫んだ。

 

 馬が揺れるほどの強い追及にも動じず、カイトはウトウトしながら喋った。


「ラムザたちは大丈夫……多分、絶対」

「どっちですか……あのケモノ一体でも、ヤバい存在ですよ? 副隊長でも、刃が立たなかったじゃねぇのか?」

「一〇や二〇増えても、大丈夫だよ」

「なぜそう言い切れますかっ!」

「だって……むにゃむにゃ」

「最後まで言ってくださいっ!」

「はぁ、仕方ないなぁ」


 そうして寝るのを諦めたのか、カイトはダルそうに伸びをした。

 

 待機中の隊員は、そんなカイトに思わず苦笑してしまうも、諜報部隊の心は未だにざわついていた。


 馬の手綱が、手汗が重くなるほどに。


「まぁまぁ、まだ早い」

「何故です?」

「ただ突っ込むだけが、戦ではないんだ」

「——」

「……そんなものは策でも何でもないってこと。ピンチに駆け付ける。そんなの誰もが思いつく、そんなのは策ですらない。策っていうのはね、相手の意表をついて、易々と勝利を勝ち取ることを言うんだよ」

「……それが、あのケモノが相手でもですか?」

「うん、それが一〇や二〇、一〇〇のバケモノ相手でもね」

「……そんなことあるのですか?」

「だから、待ってるんだ。二つめの報告を」

「ん? 二つ目ですか?」

 

 そうしていると、伝書鳩がカイト目掛けて飛んできた。

 

 その脚に文が繰りつけてあり、カイトはそれを広げてニヤリと笑って、諜報部隊の一人に向かって言った。


「諜報部隊、全員引き上げるように言って」

「あの、待機していたスズネ部隊からの報告ですか? 目立たないところの」

「うん、スズネはいいね。これがユリアーネだったら、すぐにラムザの下へ駆けつけていたよ」

「……確かに、寡黙なスズネらしいですけど」

 

 ヴァリバルト傭兵団には、大まかに二つの諜報部隊がいる。

 一つはユリアーネが中心になって、表立っての情報収集や伝達役。もう一つはスズネで、目立たない諜報活動や隠密などの任務がほとんどだった。


 今回は、任務を忠実にこなすスズネの方が適切だった。


 これは敵にバレてしまっては、意味のない作戦なのだから。


「一番重要な二つ目の報告。目立たないところだから、重要なんだ」

「ん、どういうことですか?」

「相手が一番潜伏しそうな場所」


 カイトは馬の腹を脚で蹴った。

 

 そのまま勢いよく、飛び出していった。


 そんなカイトに続いて、次々と傭兵の隊員たちも続いていった。


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