ヴァリバルト傭兵団——(ラムザ・副隊長)
――ひょう。
と、鋭い音がケレンの横を駆け抜けた。
何かと思い、思わずケレンは後ろを振り向いた。
矢がオオカミの脳天に突き刺さっていた。
僅かに弓なりに弾道を描いた矢は、一頭のオオカミの脳天を貫いてに突き刺さって……いや矢が突き刺さったまま身体ごと宙を舞った。
あまりの突然のことで、理解が追い付かなかった。
オオカミは悲鳴をあげる間もなく地に伏し、しかし目には闘志が宿っていた。
未だに自分が射貫かれたことを気づいていないのだろうか。それはケレンたちも同様で、どこからか矢が放たれたのか分からなかった。
そして聞こえてくるのは、響く蹄の音。その重厚な音に、、猛々しさを感じる。その馬の大群には力強さが宿っているようだ。
何頭もの馬の軍勢が、少年たちを取り囲んだ。
「迷子になったという子は、お主らかっ!」
「は、はいっ!」
「離れていなさい、もう大丈夫だっ」
その男は屈強だった。
彼は褐色の肌で、スキンヘッドでガタイもよく、服の上からでも鍛えられているのが分かる。その姿はまさに歴戦の戦士そのものだった。
その屈強な戦士に、周りの兵が指示を仰ぐ。
「ラムザ副隊長っ、どうしますかっ‼」
「長槍を構えて整列しなさいっ! 一匹たりとも後ろに逃がすなっ!」
彼が馬を降り槍を携えると、後の者もそれに続いた。
それは、横に伸びた陣形。槍を構えて隊列を組み、お互いの間に一寸の隙間もない。まるで巨大な壁のようなもので、正面から突撃する意志さえも削いでしまう。
そうしてオオカミが横から回り込もうとすると、
「右に六、左に一〇、人員を回せっ! オオカミと対峙する面をできるだけ平にしろっ! 側面から押し込まれないよう注意しろっ!」
オオカミが横から回り込もうとするも、すぐに陣形を変えて対応する。どうやら、あの屈強の男が指示を出しているらしい。
筋肉質で、武闘派に見える彼だが、それだけはないらしい。彼自身が前線に立っていても、周囲が見えており、的確に指示を出していた。彼は知識も豊富で、戦術にも長けていた。
「す、凄いっ……!」
キラキラとした眼差しを、少年たちは屈強な男に向ける。
颯爽とかそんな感じは全くないが、パワフルな動きでオオカミを薙ぎ倒していく。窮地に陥った時に助けてくれた、それだけで少年たちにとっては歴戦の英雄だった。
「おい坊や、ここは危ないって言っただろ! 後ろに下がっていろっ!」
「は、はいっ!」
補給部隊の一人が、ケレンに声を掛ける。
後方では補給部隊が荷を起こし、簡易的な防衛ラインを築いていた。
そんな中、ラムザは前線にいながら指示を出していた。
「前に出て、我先にという蛮勇になど飲まれるなっ! 落ち着いて、冷静に、オオカミを食い止めることだけを考えましょう! なに、カイト殿が来るまでの辛抱ですっ!」
「……カイト殿?」
他にも屈強な戦士がいるのかと、少年たちは目を輝かせた。
あの一薙ぎでオオカミどもを蹴散らす男が、だ。
カイトという人に、とてもつなく信頼を寄せている。もっと凄い屈強な男が現れるのではないかと、少年たちは期待してしまった。
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