ケモノの軍団×ヴァリバルト傭兵団——①
ラムザは二〇人ほど引き連れて、北の砦に繋がる公道を走っていた。
ティムルにいる人たちは、皆必死だった。北の砦の悲惨な状況を知っているからだろう。皆我が先にと逃げる準備をしていた。
だからこそ、ラムザたちはその逃げるまでの時間を稼がなければいけない。
もう日は沈み、辺りが暗くなってきていた。
そんな中、隊員の一人がラムザに話しかけた。
「ラムザの旦那、やっぱ暗れぇな。月明かりしかねぇし、これじゃぁますますケモノの動きが分かりなってしかたねぇぜ」
「北の砦からの情報だと……数えられないほどのケモノが攻めてきているらしい。楽しみですねぇ」
「酔狂だぜぇ。敵に責められて楽しいのは、ラムザの旦那と兄貴くれぇだ」
「私の獲物を狩らないで下さいね。手始めに、私にやらせてください」
「全くいつもそうなんすから――って、もういやがるっ!」
街道のど真ん中に、ケモノが一匹。
相手はすぐさまラムザを仕留めようとしていた。まずは、お山の大将を潰す。要を潰せば、統制は取れなくなると思ってか、最初から全力だった。
ケモノが速度を上げて、ラムザが動く前に仕留めようとする。
そして動きが止まった所で、前振りもなく――。
それも躱そうとする寸前で――。
「危ないですっ!」
ドシンと、そのケモノの突進を槍で受け取める。
躱す暇もないっ!
躱そうとしていたら、喰らっていたっ!
「ガルルルッ」
「くっ、重いっ!」
あのラムザが、押されていた。ケモノは常人離れした力で、あの巨体のラムザさえも押し込む。喰らうのも嫌だが、受けとめたくもなかった。
だからラムザは、咄嗟に力を抜き、槍を後ろに流した。
すると不意に拮抗する相手を失って、そのままケモノはラムザの横に流れた。その勢いを殺すため、すぐにケモノは振り返ろうとすると――。
カキンーーっ!
振り向きざまに、ラムザが渾身の一刀を叩きこんだ。
しかし……。
「堅っ!」
完全に仕留めたと思ったのに、槍が弾かれた。
その反動を利用して、ラムザは何歩分か先まで後方に飛んだ。
「まるで岩ですねっ! 全くビクともしないっ!」
拮抗勝負なんて、とんでもなかった。
力自慢のラムザさえも敵わない。それくらいのパワーと硬さを持っているのだ、このケモノは。
「ははっ、だからこそ倒しがいがありますねっ!」
それでも、ラムザは仕掛けた。
最初の一撃目は、駆け出しながらの軽い一刀。
小さく素早く振ったものの、あっさりと横に躱される。
そして続けざまに、そのまま近距離で踏み込んで横に薙ぎ払った。けれどもこれも、容易く避けられる。
それでも後方に下がろうとしたケモノに食らいつくよう、ラムザは槍の斬撃を繰り出した。
それも、密着状態で、だ。
ほとんど体当たりのような状態だった。とにかくは速く、手数を多く、槍を短く構えて槍撃する。ケモノはそれに反応して、小刻みに身体をねじらせて躱していった。
それは、絶え間ない攻防。
さすがはヴァリバルト傭兵団の副隊長だ。
あの素早いケモノに食らいついている。
そして、隊員たちが介入できる隙もなかった。
誰も彼らのスピードに付いてこれない。巨体なもの同士が縦横無尽に駆け回っていて、別次元の戦いに思えるほど。
だから他の隊員たちは感心しながら、ラムザとケモノの戦闘に魅入っていた。
「スゲェよ、ラムザの兄貴。ケモノのスピードに付いて行ってらぁ」
「しかし一つ一つの攻撃が軽い。ほぼ牽制だぞ、あれ」
そう、これは牽制。
そして、ラムザが本命の一撃を繰り出そうとした瞬間——。
ケモノが速度を上げて、ラムザが動く前に仕留めようとする。
本命の威力を出し切る前に、ケモノの一撃がそれを阻んだ。
「相変わらず、いい反応しますねっ。次っ、次っ、次っ!」
弾かれても、絶えず細かい攻撃を続けるラムザ。
しかし口元は笑っていた。
必死の牽制も空しく、本命の一撃を弾かれても、だ。
こんな相手とやり合える、そんな喜びに打ち震えていた。
(だったら、もっと疾くっ! 鋭くっ! 重くっ!)
もう一段、速度が増した。そして手数も増えた。
踏み込むと同時に距離を詰めて、避ける暇がないほどに攻撃を繰り返す。まるで残像が見えてしまうほどに。
しかもそれは速度だけではない。緩急を付けている。細かいフェイントを織り交ぜ、死角に潜り込むんで打ち込んでいる。速度だけでなく、多彩な攻撃を繰り出してた。
そんなラムザを、周りのモノはポカンとした表情で見ていた。
「……あれが、牽制かよぉ?」
「俺だったら死んでると思う」
「五人くらい束になってれば、捌けるんじゃねぇか?」
「やっぱ、副隊長はイカれてるらぁ」
ドン引きしたような表情でラムザを見守る中、ある一人の隊員がポツリと呟いた。
「でも、副隊長。なんであんな近距離でやりやってるんすかね? 見てて、こっちがハラハラするんすよ」
「……た、確かに。一発喰らったら終わりなのに」
「ラムザの兄貴、どんどん攻めていっている」
そんな疑問が生まれる中、やがて老兵の一人が代わりに答えた。
「そうするしかねぇんじゃねーの」
「えっ?」
「それしか選択肢はねぇというか……もう後ろには引けねぇってこと」
「どういうことっすか?」
「あの突進を見たじゃろ? あのラムザが押される、それほどの力があるってことだ」
「距離が離れたらまたあの突進がくるってことっすか?」
「そうだ。だから近距離で動けば、相手は突進を繰り出す程の距離を取れねぇ。距離を離されたら、終わり」
「あっ、確かに」
「だから、ラムザは今苦しんでる。そうすることでしか、打開できないこの状況を、な」
そう、未だに本命の一撃を食らわせていない。
攻めても攻めても、未だに全て反応されてしまっている。
全てが捌かれているのだ。
そして、ケモノもただ防戦一方なわけではない。ラムザの動きを見ていた。そして虎視眈々と、反撃のチャンスをうかがっているわけだ。
『槍捌きって、単純だからね。僕の言ってること、分かる?』
ラムザは、カイトが焚火で話していたことを思い出す。
槍は、動きが単純なのだ。
リーチはあるものの、間合いが掴みやすい武器でもある。基本動作が読みやすいということは、相手に動きを掴まれやすいという事。
タイミングや間合いを敵に掴まれたら、すぐ懐に入られる。
そうしたら槍は何もできない。攻撃を喰らってしまう。だからこそ、このケモノはその間合いを掴むために、ずっと様子見をしているのだ。
そうやって、ラムザは間合いを掴まれないようにしていた。攻撃を分かりにくくする。ラムザは緩急を付けたり、早く繰り出してタイミングをずらしていた。
だけど、そんなものは通用しない。
相手は、間合いを取る達人なのだ。
ラムザよりも、ずっと格上だった。
何故なら、ラムザの一撃はまともに入ってすらいないのだから。
(それでも……カイト殿は凄いですね)
彼はずっと、このケモノよりも遥かに、間合いの達人だったのだから。
こんな追い詰められている最中でも、彼との稽古のことを、ラムザは思い出していた。
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