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蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第三章 ケモノの軍団VSヴァリバルト傭兵団っ!
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ケモノの軍団×ヴァリバルト傭兵団——①

 ラムザは二〇人ほど引き連れて、北の砦に繋がる公道を走っていた。

 

 ティムルにいる人たちは、皆必死だった。北の砦の悲惨な状況を知っているからだろう。皆我が先にと逃げる準備をしていた。

 

 だからこそ、ラムザたちはその逃げるまでの時間を稼がなければいけない。

 

 もう日は沈み、辺りが暗くなってきていた。

 

 そんな中、隊員の一人がラムザに話しかけた。


「ラムザの旦那、やっぱ暗れぇな。月明かりしかねぇし、これじゃぁますますケモノの動きが分かりなってしかたねぇぜ」

「北の砦からの情報だと……数えられないほどのケモノが攻めてきているらしい。楽しみですねぇ」

「酔狂だぜぇ。敵に責められて楽しいのは、ラムザの旦那と兄貴くれぇだ」

「私の獲物を狩らないで下さいね。手始めに、私にやらせてください」

「全くいつもそうなんすから――って、もういやがるっ!」

 

 街道のど真ん中に、ケモノが一匹。


 相手はすぐさまラムザを仕留めようとしていた。まずは、お山の大将を潰す。要を潰せば、統制は取れなくなると思ってか、最初から全力だった。


 ケモノが速度を上げて、ラムザが動く前に仕留めようとする。


 そして動きが止まった所で、前振りもなく――。


 それも躱そうとする寸前で――。


「危ないですっ!」

 

 ドシンと、そのケモノの突進を槍で受け取める。

 

 躱す暇もないっ! 

 

 躱そうとしていたら、喰らっていたっ!


「ガルルルッ」

「くっ、重いっ!」

 

 あのラムザが、押されていた。ケモノは常人離れした力で、あの巨体のラムザさえも押し込む。喰らうのも嫌だが、受けとめたくもなかった。

 

 だからラムザは、咄嗟に力を抜き、槍を後ろに流した。

 

 すると不意に拮抗する相手を失って、そのままケモノはラムザの横に流れた。その勢いを殺すため、すぐにケモノは振り返ろうとすると――。

 

 カキンーーっ!

 

 振り向きざまに、ラムザが渾身の一刀を叩きこんだ。

 

 しかし……。


「堅っ!」

 

 完全に仕留めたと思ったのに、槍が弾かれた。

 

 その反動を利用して、ラムザは何歩分か先まで後方に飛んだ。


「まるで岩ですねっ! 全くビクともしないっ!」


 拮抗勝負なんて、とんでもなかった。

 

 力自慢のラムザさえも敵わない。それくらいのパワーと硬さを持っているのだ、このケモノは。


「ははっ、だからこそ倒しがいがありますねっ!」


 それでも、ラムザは仕掛けた。


 最初の一撃目は、駆け出しながらの軽い一刀。


 小さく素早く振ったものの、あっさりと横に躱される。


 そして続けざまに、そのまま近距離で踏み込んで横に薙ぎ払った。けれどもこれも、容易く避けられる。


 それでも後方に下がろうとしたケモノに食らいつくよう、ラムザは槍の斬撃を繰り出した。


 それも、密着状態で、だ。

 ほとんど体当たりのような状態だった。とにかくは速く、手数を多く、槍を短く構えて槍撃する。ケモノはそれに反応して、小刻みに身体をねじらせて躱していった。


 それは、絶え間ない攻防。


 さすがはヴァリバルト傭兵団の副隊長だ。


 あの素早いケモノに食らいついている。


 そして、隊員たちが介入できる隙もなかった。

 誰も彼らのスピードに付いてこれない。巨体なもの同士が縦横無尽に駆け回っていて、別次元の戦いに思えるほど。


 だから他の隊員たちは感心しながら、ラムザとケモノの戦闘に魅入っていた。


「スゲェよ、ラムザの兄貴。ケモノのスピードに付いて行ってらぁ」

「しかし一つ一つの攻撃が軽い。ほぼ牽制だぞ、あれ」

 

 そう、これは牽制。

 

 そして、ラムザが本命の一撃を繰り出そうとした瞬間——。


 ケモノが速度を上げて、ラムザが動く前に仕留めようとする。

 

 本命の威力を出し切る前に、ケモノの一撃がそれを阻んだ。


「相変わらず、いい反応しますねっ。次っ、次っ、次っ!」

 

 弾かれても、絶えず細かい攻撃を続けるラムザ。


 しかし口元は笑っていた。

 必死の牽制も空しく、本命の一撃を弾かれても、だ。


 こんな相手とやり合える、そんな喜びに打ち震えていた。


(だったら、もっと疾くっ! 鋭くっ! 重くっ!)


 もう一段、速度が増した。そして手数も増えた。

 踏み込むと同時に距離を詰めて、避ける暇がないほどに攻撃を繰り返す。まるで残像が見えてしまうほどに。

 

 しかもそれは速度だけではない。緩急を付けている。細かいフェイントを織り交ぜ、死角に潜り込むんで打ち込んでいる。速度だけでなく、多彩な攻撃を繰り出してた。

 

 そんなラムザを、周りのモノはポカンとした表情で見ていた。


「……あれが、牽制かよぉ?」

「俺だったら死んでると思う」

「五人くらい束になってれば、捌けるんじゃねぇか?」

「やっぱ、副隊長はイカれてるらぁ」

 

 ドン引きしたような表情でラムザを見守る中、ある一人の隊員がポツリと呟いた。


「でも、副隊長。なんであんな近距離でやりやってるんすかね? 見てて、こっちがハラハラするんすよ」

「……た、確かに。一発喰らったら終わりなのに」

「ラムザの兄貴、どんどん攻めていっている」


 そんな疑問が生まれる中、やがて老兵の一人が代わりに答えた。


「そうするしかねぇんじゃねーの」

「えっ?」

「それしか選択肢はねぇというか……もう後ろには引けねぇってこと」

「どういうことっすか?」

「あの突進を見たじゃろ? あのラムザが押される、それほどの力があるってことだ」

「距離が離れたらまたあの突進がくるってことっすか?」

「そうだ。だから近距離で動けば、相手は突進を繰り出す程の距離を取れねぇ。距離を離されたら、終わり」

「あっ、確かに」

「だから、ラムザは今苦しんでる。そうすることでしか、打開できないこの状況を、な」


 そう、未だに本命の一撃を食らわせていない。

 

 攻めても攻めても、未だに全て反応されてしまっている。

 

 全てが捌かれているのだ。

 

 そして、ケモノもただ防戦一方なわけではない。ラムザの動きを見ていた。そして虎視眈々と、反撃のチャンスをうかがっているわけだ。


『槍捌きって、単純だからね。僕の言ってること、分かる?』

 

 ラムザは、カイトが焚火で話していたことを思い出す。

 

 槍は、動きが単純なのだ。

 リーチはあるものの、間合いが掴みやすい武器でもある。基本動作が読みやすいということは、相手に動きを掴まれやすいという事。


 タイミングや間合いを敵に掴まれたら、すぐ懐に入られる。

 

 そうしたら槍は何もできない。攻撃を喰らってしまう。だからこそ、このケモノはその間合いを掴むために、ずっと様子見をしているのだ。


 そうやって、ラムザは間合いを掴まれないようにしていた。攻撃を分かりにくくする。ラムザは緩急を付けたり、早く繰り出してタイミングをずらしていた。


 だけど、そんなものは通用しない。

 

 相手は、間合いを取る達人なのだ。

 

 ラムザよりも、ずっと格上だった。

 

 何故なら、ラムザの一撃はまともに入ってすらいないのだから。


(それでも……カイト殿は凄いですね)

 

 彼はずっと、このケモノよりも遥かに、間合いの達人だったのだから。

 

 こんな追い詰められている最中でも、彼との稽古のことを、ラムザは思い出していた。


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