これがヴァリバルト傭兵団の珍解答っ!——⑤
「……ふぬ」
「へぇ、そうなんですねぇ」
頬けているカイトとラムザを余所に、店主は若い頃に思いを馳せていた。
昔のことを思い出しているのだろうか。
今までこの店を運営をして、色々な苦難があった。最初は一人で切り盛りしていた。商品の管理や棚卸し、売り上げの管理など、全てこの身一つでやってきた。
ようやく、順調になってきた。
人も雇えるようになり、安定していったというのに……。
その店を、今になって畳む。
この事実に、涙が出そうになる。
しかし、自分の命の方が大切だ。
だからこそ、そういう決断をするしかないのだ。
「今まで、色んなことがあったな」
ぽつりと、店主が考え深く零す。
しかし、未だにカイトとラムザは腑に落ちないみたいで。
「……あれくらいで?」
「私、たんこぶできただけなんですけど」
そんな二人に店主は、思わず肩が震える。
哀愁よりも怒りが勝ってしまった。
「お前らにとって、あれくらいなんだろうよっ! でも、俺たちにとってはそれだけ大変なことなんだよっ! お前らが異常だって気づけバカっ!」
また、怒りが再燃してしまった。
それでも、カイトとラムザはどこ吹く風で……。
「……バカ? タコだったら、隣にいるけど?」
「私の頭はタコじゃないですからっ! まだ希望はありますからっ!」
「毛ほどもないな」
「一本生えてきても、心労で擦り切れてしまう誰かのせいですか?」
「覚えがない」
「酷いっ!」
いつも通りのやり取りをする二人。
対して、店主は呆れて物も言えなかった。
(……こいつらに、命の尊さが分かるわけがないっ!)
普通なら、他人の命よりも、自分が大切。
皆、必死なのだ。店主や街の人も、今は自分の命が惜しくて、こうして出ていく支度をしている。それが当たり前なのだ。
でもカイトたちは違っている。自分の命よりも優先するものがあれば、気軽にそれを差し出せる。そういう心づもりが、いつでもできているのだ。
だから今回のことは普通の出来事、普通の日常。
そうやって、終わらせてしまう。領主に殴られてそうになっていた時もそうだ。カイトとラムザはいつものやり取りをしていた。この二人にとって、大した事がないのだ。
そういった考えの持ち主に、生き延びることの大切さを教えても無意味だった。
「今日なんて大したことないよ。これからなのに」
「まぁ、私たちはこれから大戦を控えてますからね」
「そうそう、これからが本番。いや前座かな」
「今は負けても、後で追い返すつもりですから」
もう店主は、この二人と分かり合えそうにもなかった。
否、分かり合えたくもなかった。
「もうお前らの面は見たくもないわっ! 帰れ、帰れっ!」
「急に、どうしたの?」
「テメェらに出すもんはもうねぇ。損だ、大損だっ!」
「何か悩みでもあります?」
「話しかけんなっ! もうお前らとは金輪際関わらねぇっ! 俺は自分の命、生活が大切だからなっ! とっとと、失せろっ!」
店主は、怒鳴った。
物を飛んできそうで、呑気に食べている雰囲気ではなかった。
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