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蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第二章 ウバルト王国 海岸沿いの街:シモーネ
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これがヴァリバルト傭兵団の珍解答っ!——④

「やっぱり僕はダメダメだな」

「カイトさんよ、このままだと傭兵団は全滅しちまいますよ? 命を軽く見すぎる」

「……伝えるのって、難しいな。言葉では、ずっと言ってるつもりなのに」

 

 カイトは頬杖をつきながら、重くため息をついた。

 

 もっとうまく伝えられれば。そう思うも、全く足りない。自分の中での言葉ではちっとも出てこない。何もかもが足りたくて、表面通りの言葉しかなかった。

 

 そう思い悩んでいると、カイトのお腹がぐうと音を立てた。

 

 ふとした拍子にテーブルに目をやると、まだあった。


 あの薄く切られたイノシシ肉が。

 

 これと合うのはなんだろうかと唸ってから、カイトは店主に言った。


「とりあえず、酒だ。これと一杯やろう」

「確かにいいですね」

「って、なんだだよっ、あんたらっ!」

 

 少し思い悩んだと思ったら、すぐにカイトはケロッとしていた。

 

 本当にありえないと店主は思ったが、ラムザは当たり前のように受けれ入れていた。

 

 そんなカイトとラムザには、もう怒りを通り越して呆れしかなかった。

 

 無だ。


 何の感情も湧かない。

 

 怒っても無駄だ。

 カイトとラムザは、普通の価値観とは違う。それを普通の定規で図ろうとしたのが、愚かだった。だからこいつ等に何を言っても無駄だと、店主は思い知らされた。


「何を言っても無駄だ、無駄無駄っ! お前らにはもう何も出さねぇっ! あぁ、何もかもだっ! 心配も、助言もクソ喰らえだっ! こっちは大損だからなっ!」

「さっきから大声でうるさいなぁ」

「商売人とは、そういう人種ですから」

「……お前らが何もわかってくれないことが分かった」

「はぁ分かった、他の店の人に振舞ってもらおう……って、あれ?」

 

 周囲には、誰にもいなかった。


 市場の通りに、風が吹き抜ける。店の看板が揺れる音だけがやけに響いた。他の店前のテーブルには誰にも座っておらず、転がっている椅子がやけに寂しい。

 

 あの賑わいが絶えない市場から、活気が消え失せた。


「おーい、もうヨゼフはいませんっ! 皆さんも飲みませんかぁ~!」

 

 ラムザの市場の端まで響き渡る声にも、反応しない。

 

 しかし、店の中からバタバタと騒がしい音は聞こえる。人はいるらしい。けれど忙しそうだった。中からは物を運んでいる音がし、大きな声が飛び交っている。

 

 どんなに多忙でも、客の相手をする市場の人が、だ。

 

 どうしたのだろうと、カイトとラムザは首を傾げた。

 

 しかし、店主は合点が言ったような顔をして言った。


「皆、支度をしてるんでしょう」

「何のですか?」

「そりゃ、ケモノっていうのが攻めてくるんだろ?」

「うん、そうだね」

「だから皆、荷物をまとめて、ここから出ていく準備をしているんだ」

「「はい?」」


 カイトとラムザの頭上に、クエスチョンマークが生まれた。


「え? いまさら?」

「なんでですかっ! 今の今まで信じてくれなかったじゃないですかっ! なんで今更になって必死にっ」

「そりゃ、アンタらを見たからだろうよ」

 

 そう店主に言われても、カイトとラムザは首を傾げた。

 

 本当に何を言っているのか、分からなかったからだ。


「あそこまで、領主に立てついたんだ。それも命がけでだな。二人のそんな覚悟を知って、皆それが本当だと実感したんだろう」


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