これがヴァリバルト傭兵団の珍解答っ!——④
「やっぱり僕はダメダメだな」
「カイトさんよ、このままだと傭兵団は全滅しちまいますよ? 命を軽く見すぎる」
「……伝えるのって、難しいな。言葉では、ずっと言ってるつもりなのに」
カイトは頬杖をつきながら、重くため息をついた。
もっとうまく伝えられれば。そう思うも、全く足りない。自分の中での言葉ではちっとも出てこない。何もかもが足りたくて、表面通りの言葉しかなかった。
そう思い悩んでいると、カイトのお腹がぐうと音を立てた。
ふとした拍子にテーブルに目をやると、まだあった。
あの薄く切られたイノシシ肉が。
これと合うのはなんだろうかと唸ってから、カイトは店主に言った。
「とりあえず、酒だ。これと一杯やろう」
「確かにいいですね」
「って、なんだだよっ、あんたらっ!」
少し思い悩んだと思ったら、すぐにカイトはケロッとしていた。
本当にありえないと店主は思ったが、ラムザは当たり前のように受けれ入れていた。
そんなカイトとラムザには、もう怒りを通り越して呆れしかなかった。
無だ。
何の感情も湧かない。
怒っても無駄だ。
カイトとラムザは、普通の価値観とは違う。それを普通の定規で図ろうとしたのが、愚かだった。だからこいつ等に何を言っても無駄だと、店主は思い知らされた。
「何を言っても無駄だ、無駄無駄っ! お前らにはもう何も出さねぇっ! あぁ、何もかもだっ! 心配も、助言もクソ喰らえだっ! こっちは大損だからなっ!」
「さっきから大声でうるさいなぁ」
「商売人とは、そういう人種ですから」
「……お前らが何もわかってくれないことが分かった」
「はぁ分かった、他の店の人に振舞ってもらおう……って、あれ?」
周囲には、誰にもいなかった。
市場の通りに、風が吹き抜ける。店の看板が揺れる音だけがやけに響いた。他の店前のテーブルには誰にも座っておらず、転がっている椅子がやけに寂しい。
あの賑わいが絶えない市場から、活気が消え失せた。
「おーい、もうヨゼフはいませんっ! 皆さんも飲みませんかぁ~!」
ラムザの市場の端まで響き渡る声にも、反応しない。
しかし、店の中からバタバタと騒がしい音は聞こえる。人はいるらしい。けれど忙しそうだった。中からは物を運んでいる音がし、大きな声が飛び交っている。
どんなに多忙でも、客の相手をする市場の人が、だ。
どうしたのだろうと、カイトとラムザは首を傾げた。
しかし、店主は合点が言ったような顔をして言った。
「皆、支度をしてるんでしょう」
「何のですか?」
「そりゃ、ケモノっていうのが攻めてくるんだろ?」
「うん、そうだね」
「だから皆、荷物をまとめて、ここから出ていく準備をしているんだ」
「「はい?」」
カイトとラムザの頭上に、クエスチョンマークが生まれた。
「え? いまさら?」
「なんでですかっ! 今の今まで信じてくれなかったじゃないですかっ! なんで今更になって必死にっ」
「そりゃ、アンタらを見たからだろうよ」
そう店主に言われても、カイトとラムザは首を傾げた。
本当に何を言っているのか、分からなかったからだ。
「あそこまで、領主に立てついたんだ。それも命がけでだな。二人のそんな覚悟を知って、皆それが本当だと実感したんだろう」
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