これがヴァリバルト傭兵団の珍解答っ!——②
「闇討ちする」
「はい?」
「僕一人が、ヨゼフ・シュトラウスの屋敷に入って闇討ちする」
は?
余りの言葉に、店主の頭はフリーズしてしまった。
一人……?
ヨゼフの屋敷で……?
闇討ち……?
頭の中で、言葉を整理しようとしても、全ての単語に理解が追い付かなかった。
しかし、カイトはあのミツルギ一族の一人。
店主は聞いたことはある。それも商人同士の噂だが。戦闘集団のプロフェッショナルと言われる一族だから、噂は絶えない。突拍子もないものや信じれないものなど、様々なことが言い伝えられている。
その中でも、耳を疑ったものが一つあった。
それは、ミツルギ家が仕えていた領主の家に、領地侵略されかけたときの話。
その問題解決する為に取った行動が、普通ではありえなかったのだ。
それは、一人単身で夜討ちをかける。
まさに鬼畜の所業だった――。
相手の屋敷に一人で夜討ちしかけて、家人総勢五〇人ほど切り倒して逃走し、そのうえ、追ってきた一〇〇人を返り討ちにした。
総勢一五〇人ほどを、一夜にして一人で斬り伏せたという噂。
それは脅しだった。今度は屋敷の人間だけじゃない。一族全員を皆殺しにするぞという、通常あり得ないほどの脅し。
そんな脅しが実行されていたかもしれなかった。
流血沙汰という次元じゃない。三桁を超えるほどの血が流れるということだ。
それも一夜で、それも独りで。
もしもラムザが捉えられたら、そんなえげつない脅しが実行されていたかもしれなかった。
あの場で、危なかったのは、カイトやラムザではない。
領主、ヨゼフ・シュトラウスの命だったのだ。
「そんなこと、絶対させませんから。カイト殿」
しかし覚悟を決めたような顔で、諭すように言うラムザ。
流石、副隊長ながら傭兵団の運営を任されている男。
そんな副隊長からしてみれば、闇討ちなんてあってはいけないこと。それも領主に屋敷なんて、国を揺らすほどの事態に発展してもおかしくない。
(そりゃ、そうか。そうだよな)
店主も一人、心の中で頷いた。
こんな話あり得ないことだと、頭の中で綺麗さっぱり無くそうとしたそのとき――。
「そうなる前に、これで自分の首を掻っ切ります」
懐から短刀がでてきた。
「ひぃぃっぃぃっ!」
あまりの出来事で、店主の頭がハンマーで撃たれたような衝撃を起こす。
その余りある覚悟に、店主は腰を抜かした。
(こいつら、どうなってやがるッ! 正気かッ!)
一人の命で、全ての責任を取る。
これは、簡単なことではない。
一人が粗相をして死罪という事態になったとき、大抵のものは狼狽えて逃げ出す。
そうして代わりに家族の一人が、断頭台にかけられるなんて、ごくごくありふれたことだ。しかも罪が重くなって、家族全員が死罪になることも珍しくない。
それくらい難しいことを、この短刀一本でやってのける。
ラムザはそう言っているのだ。
そしてカイトは驚くどころか、手放しで賞賛した。
「潔いな」
「はい、これだと他のモノの血は流れません。私だけです」
「生き延びろ、なんて偉そうに言ってたのに……僕は全然ダメダメだな」
「はい、私にはそれだけ覚悟がありますから」
ガッツポーズをしたラムザ。
店主は驚きの表情で見るも、カイトはいつも通りだった。
「よしラムザ、説教は終わり。肉を食べよう。店主が奢ってくれるらしいし」
「あれ、言ってましたか?」
店主は、マジでありえないだろコイツ、と言わんばかりの眼差しでカイトを見た。
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