これがヴァリバルト傭兵団の珍解答っ!――①
「店主、これ美味しいね」
「あぁ、ありったけ食べてください」
カイトは口いっぱいに詰め込んで、無言で頷いた。
「でもカイトさん。全部ラムザに焼いた肉なんですけど……」
「そうですよ、私の分は?」
領主が去った後、肉屋の前で店主が食事を振舞ってくれた。
それも肉だ。ありとあらゆる種類の焼き肉が、皿に出されては、カイトの口に放り込まれていく。
その光景を、ラムザはテーブルに突っ伏しながら見つめていた。
まだ頭は痛い。頭は包帯がグルグル巻きなって、クラクラしている。
体調は万全ではないが……お腹が空いてない訳じゃない。目の前で食べているカイトを少し恨めしそうに見上げた。
「あのですね、カイト殿。頭からぶたれて血が巡ってしまって、そういうときは肉を食べた方がいいと聞いたことがありまして……とにかく肉が欲しいですけどっ!」
「あの鉄の杖よりも、ラムザの石頭の方が堅いじゃん」
「確かにそうですけどぉ!」
情けない声を上げるも、その声には活気がある。
ラムザの怪我は、思ったよりも軽傷だった。
なんとコブができていただけなのだ。頭をグルグル巻きの包帯をして、出血はすぐに収まった。ケモノに突撃されても無事な辺り、領主の杖ごとき大したことはなかったのだ。
しかし目の前のカイトは怒っていた。
店主が分からなくても、ラムザなら分かってしまう。無表情だけど、長年の付き合いがあるから。怪我が大した事がないからとかではない。
もっと別のモノに、怒っているのだった。
「ラムザ、分かるよね?」
「はい、反省してます」
カイトの肉を食べる手が止まった。
思わず手が出てしまう雰囲気だったので、店主も間に割って入った。
「別に丸く収まったんだからいいじゃないですか、カイトさん。こいつの頭の怪我もたいしたことなかったんですし」
「店主、そういうことじゃない」
「分かってます、私のしたことはそれだけ大変な事なので」
ラムザは椅子から降りて地べたに正座して、静かに頭を下げた。
「領主に、何か言われても黙っていれば良かったのに……反抗心を見せるから、大事になったんだ」
「……あのときは、私もカッとなってしまって」
「領主も、僕たちのこと気に入らなくて絡んでるんだからさ」
「……それは分かってるんですけど」
「この前、生き延びることが一番重要だって……そう、言ったのに」
思わず、店主は感心してしまった。
自分の命を蔑ろにしたこと、それにカイトは怒っているのだ。
戦だけの話ではない。使命感や正義感などに、命を捨てるなどあってはならない。そう、カイトは度々教えていたのだ。ラムザの先ほどの行動は、教えに反する行動だった。
「今回、考えられる最悪のケースは何だと思う?」
「私が領主に反逆罪で捕まって、広場で処刑されることですか?」
「それは、違う」
「……」
ラムザは、思わず無言になってしまう。
ラムザは合点がいっているが、店主はそれが分からなかった。
確かに、忠誠を誓った人に対する裏切り行為は、大逆罪である。
それが常識だ。死刑であり、広場の絞首台に連れていかれても、仕方がない。
しかし今回異を唱えたのは、ラムザだけ。
その副隊長でも、傭兵団の総意とはならない……はずだ。難癖をつけて領主がそうしないとも限らないが……傭兵団も一戦力として見ている限り、彼がそうするとは思えない。
結果、見せしめとして、ラムザだけが死罪になるのが普通だと思うのだが――。
だから店主は、カイトに問いかけた。
「あの、カイトさん。お言葉ですが、仮にそうなってもラムザ一人の犠牲で済むじゃないですか。その仮にそうなってもですが」
「そうじゃない、僕がそれで済ますと思う?」
店主は、ぞくッとした。
それは殺意。身体全身が粟立つほどの。
そういうものをカイトの目の奥底に、感じ取ってしまった。あの領主に向けられた殺意よりも、ずっと細く鋭い。あの肉を頬張っていた青年からは、想像もできないモノだった。
「例えばの話ですが……反逆罪で捕まったラムザを、カイトさんたちヴァリバルト傭兵団が助け出します。そうすれば全員が捕まりますが」
「確かに、それだと全員が反逆罪を犯すことになるよね」
「えぇ、そうなります」
「でも、そんなことしないよ」
「そうですよね」
「だって、それだとヴァリバルト傭兵団が全員死罪になるだけ。隊長として、それは看過できない」
「なら、どうすると?」
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