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蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第一章 剣×狼
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森で遭難した先で――(ケレン・子供)

 日中の森は穏やかだった。


 鳥のさえずりが響き辺り、木の葉がそよ風に揺れていて、心地よい。


 さまざまな生き物が暮らすその森は、自然の営みが息づいていた。


 しかし夜になると、魔物がこの森を支配した。

 暗闇の中、月明かりが鋭い牙を照らす。辺りには鳥のさえずりや虫の鳴き声さえも聞こえない。獰猛な魔物は、他の生き物を威圧する。


 そんなふうに、教えられていた。

 昔から森には近づかないようにと、小さい頃から童話を交えて聞かされていた。夜になると怖い魔物が現れると。


 だから度胸試しのつもりだった。

 一四歳で成人になったケレンは、そんな魔物がいるなんて嘘だと分かり切っていた。それを証明して見せると、数人の子供仲間たちを引き連れ、ケレンは森の奥深くまで行ったのはいい。


 気づいたら、夜になっていた。


 そして出会ってしまったのだ。


 その怖い魔物に――。


 アレは別格だった。

 優雅ながらも恐ろしいその立ち姿に、恐怖してしまった。恐怖心が身体中に広がり、気づいたときには必死に逃げていた。


「母ちゃんの言う事……ちゃんと聞いとけばよかったっ!」

「あぁ、マジでヤバい奴がいた」

「考えるのは後にしろよっ。決して立ち止まるなっ!」


 連れてきた子供が泣き叫ぶ中、先頭で走っていたケレンが声を荒げる。


 突如、オオカミの遠吠えが聞こえた。

 あそこにいたのは、あのバケモノだけじゃない。その周囲にいたオオカミたちも、またケレンを追いかけてきたのだ。


 このままでは追い付かれるだろう。

 オオカミはケレンたちよりも早く、素早く駆け上がってくる。いつまでも逃げ続けることはできない。


 体力も限界に近づき、息が切れてきた。それでも執拗に諦めることなく追いかけてくる。


 あまりの恐怖に、心臓がドキドキと高鳴る。

 月明かりが木々の間から差し込み、お互いの全身がびっしょり濡れていることが分かった。


「ケ、ケレン……もう俺、限界で」

「必死に走れっ! 後もう少しだっ!」


 そうして森から抜けた出した先は、平地だった。

 広大な草原が広がり、遠くには山々が連なっている。遮るものはなく、山風が少年たちを出迎えてくれる。


 森とは違い、一瞬だけ解放感に浸れた。


 だけど、未だにオオカミたちが追ってくるわけで――。


 心臓がバクバクと打ち震える。

 息が上がるほどの速さで、足音がすぐ後ろまで迫ってきた。オオカミの息遣いまで伝わってきて、振り向かなくても迫ってくる様子が分かってしまう。


「わぁっ! 全然ダメじゃんっ!」

「このままじゃ、俺たち食われちゃうっ!」

「な、泣くなよ。じゃないと――」


ここのままでは、喰わるのでは――そう思ったとき。


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