表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹のイカロス  作者: レイチェル
第二章 ウバルト王国 海岸沿いの街:シモーネ
18/60

赤ひげ(領主)の嫌がらせっ!——①

「それでよう――」


 そう、店主が世間話に花をさせようとしたとき。

 

 辺りが急に静かになった。

 

 先ほどまで騒がしかったのに、人の声すら聞こえなくなった。


 空気が、静寂が、ラムザと店主を包んでいた。普段は騒がしい市場だが、打って変わって異様な光景だ。この市場は夜さえも静寂とは無縁なのに、物音一つないのは不自然なことだった。

 

 そうして閑散とした市場に、ある童歌が聞こえてきた。


 『ドンピシャコン、ドンピシャコン。おっとさんが呼んでも、おっかさんが呼んでも、出て言っちゃダメよ。顔出したのはだぁれ?』


 それは、蹄の音。


 ドンピシャコンと、形容しがたい大きな音が鳴り響いている。


 この市場の狭い路地に、馬で入ってくる人はあの人しかいない。しかもその脚音は、どうやらこちらに向かってきたようだ。


「店主、もう戸締りしたほうがいい」

「……あぁ、店の奥に引っ込んでる」

「赤ひげがやってきますっ!」

 

 そして現れたのは、巨大な馬だった。あのラムザが見上げるほどに大きい。

 その蹄は象に匹敵するほどに大きく、毛並みは黒く艶やかで圧倒されてしまう。その巨体が、目の前をギリギリ止まったのだから尚更。

 

 それでも、ラムザは地に触れ伏し、即座に跪いた。


「変な入れ知恵をしているのは、貴様かっ!」

 

 その問いに答えず、ラムザは平伏したままだった。

 

 しばらく間があり、辺りは静寂に包まれた。

 

 そしてようやく一言、頭上からぶっきらぼうな言葉が振り下ろされた。


「よし、面を上げろ」

「ははっ」

 

 ラムザは短く答え、顔を上げる。

 

 そこには、領主ヨゼフ・シャイデマンが顔を赤くして、馬に跨っていた。

 

 通称、赤ひげ。

 髭は蓄えているが、別にそれが赤いというわけではない。


 そうではなく――彼は常に苛立っており、ちょっとした些細なことでも腹を立てる。そんな彼の顔まっかにして怒る姿が、まるで髭が赤く染まるほど怒って見えることから、赤ひげと呼ばれていた。

 

 そして領主には、誰にも逆らえなかった。


 このシモーネで一番の権力者だからだ。

 彼が常に正しく、町民が何か粗相をした場合、その場で殺されてもおかしくない。だからヨゼフが通り過ぎると、関わり合いにならないよう、皆は家の戸を閉めておく。先ほどの童歌は、そのことを皮肉っているものだ。

 

 そして礼儀やしきたりにうるさい。だから最初に許可があるまで頭を上げなかった。今もラムザも完全には頭を上げない。常に地面の斜め先を見つめるように跪く。


面白いと思って頂けた方は、ブックマークと評価をして頂けると幸いです!

何卒よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ