シモーネの街——②
敵が攻めてくる。それは以前から聞いていた。
それでも、今まで何気なく過ごしてきた日々が、こんなにもひっ迫した危機に直面しているとは考えられなかった。
未だに市場は人が多く賑わっているし、他の住民もラムザと店主のように雑談しているのだ。そんな日常が、今にも崩壊するとは思えなかったのだ。
しかし、ラムザの表情は重々しく物語っていた。
「……未だに信じられねぇんだが。そんなにヤバい状況のか?」
「えぇ、そうですね」
「このシモーネの軍事力、特に水軍は半端ねぇ強さだぞ。対岸に見えるレオニダ王国にも、攻められた試しもねぇし」
その証拠に、海辺には高々と城壁が築かれていた。
外の侵略に備え、兵士たちの厳重な警備が敷かれているのだ。
他国からの侵略から二〇〇年も守ってきた歴史もある。今更それが覆るとは思えなかった。
しかしラムザはあっさりと首を振った。
「今度の敵は、陸から攻めてくるのです。敵はケモノを放った。それも見たこともない、別格の敵。私たちヴァリバルト傭兵団が総員しても太刀打ちできないほどです」
「お前らでもダメなのか。なら常備兵でもダメだな。あいつら、海では強くても、陸ではお前らに劣るものな」
「恒例の親善試合に、毎年勝ってますから」
「凄いドヤ顔だな……はぁ分かった、未だに信じられないが、皆にもよぉく伝えとく」
「本当ですか?」
「おいおい、半信半疑でも、ちゃんと皆に伝えて周っているいるからなっ! まぁ、世間話のついでだけどなっ!」
「店主は、顔の広いですけど……おしゃべりなところは玉に瑕ですね。それじゃぁ、ダメなんですけど……全然信じてもらえてないじゃないですか?」
「確かに危機感持てとか言われても仕方ないよな。ケモノの軍団に責められるとか、全然実感湧かないなぁ」
「どうすれば、信じてもらえるのでしょうか?」
ラムザは、頭を撫ぜて思い悩む。
(市場の顔役として、肉屋の店主に話を広めてもらえればいいと思ったんですけどね……)
肉屋は、市民の中でも大きな力を持っていた。特に日常生活で大量に消費されるものが、肉だったからだ。この市場を仕切っていると言ってもいい。
しかし当の本人が、全く危機感がないのだから仕方もない。
どうすれば信じてくれればと考えあぐねていると、店主は笑って話しかけてくる。
「なぁなぁ、もう少し話を付き合えよ」
「はぁ、少しだけですよ(さっきのも世間話だったのでは?)」
思わず本音が喉から零れ落ちそうになった。
これが仕事での付き合いであることは、ラムザも分かっている。
しかしこういう世間話にはどうも苦手で、用事を済ませたら帰りたくなってしまう。これも大きな力を持っている肉屋だからであって、仕方なくラムザは店主に向かい合った。
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