カイトの目標
そんな傭兵団がどうように作られたのか、ケレンは単純に興味が湧いた。
「カイトとラムザって、なんでこの傭兵団を結成したの?」
「う~ん、食い扶持を持ちたかったからですからね。それも安定した食い扶持もね。だから傭兵団を大きくして、いい暮らしがしてみたいって思ってたんですけど……」
「だけど?」
「この人が全く隊長として働らかなくて……正直、心労が絶えませんよ」
「ん? ラムザが僕を隊長として立てたんじゃないか?」
「えぇ、そうですよ。あなたの強さを見込んでお願いしました。でもこんな戦闘以外は駄目駄目な人だとは思わなくて……」
「……ダメかな」
「駄目です」
「ダメだと思いま~す」
「ガタガタっ!(強く同意する音)」
「……そんなにダメダメか」
そう言いつつも、カイトはどこ吹く風だった。団員達にダメ出しされても、全く落ち込んでいる様子はない。むしろケロッとしている。このヴァリバルト傭兵団の中で、一番カイトが自由人なのかもしれない。
「じゃぁ、なんでカイトは傭兵団の隊長なんてやってんの?」
「なんで? う~ん、ラムザに誘われたからだろうけど」
「まぁ、私はカイト殿の腕を見込んででしたけど……でも確かに、集団行動とか苦手そうなのですし……なんで二つ返事で了承してくださったのですか? 私もそこ、全く疑問に思わずに過ごしてしまったのですが」
「う~ん」
カイトは夜空を仰ぎ見るようにして、しばらく考え込み、そしてまるで思い出したかのようにして言った。
「……強くなるためかな」
は?
全員の頭に、疑問符が浮かんだ。なんで、それが傭兵団の隊長に結びつくのか……団の一員でも、理解できないみたいだった。
ケレンもそんなことを言われて、しばらくの間、頬けてしまった。
「どういうことですか?」
「ん~、僕には凄く強い兄さんがいてね。もう一族の中でも、ダントツに強くて勝てる人がいなかかったくらいの」
「戦闘一族の頂点かぁ……なんか身震いしちゃった」
「うん、誰しも認めるくらい強かった。だからこの人の真似すれば、強くなれると思っていた。だから僕は小さい頃から、その兄さんの真似ばっかりしていたんだ。剣の技術から、戦術まで、その兄から全てを盗んだ。それが一番強くなるための近道だと思っていたから」
「……それがどう、傭兵団に繋がったのですか?」
「兄さんが大将をやっていたから、僕も真似すれば強くなれるのかなって思って」
「なんか短絡的だっ!」
……強くなりたい。
たった、それだけの理由。
全員が驚愕の表情をするも、しかしカイトの表情は全くもって変化がない。
強くなることは、カイトにとって当たり前のことで、そのためなら何でもするらしい。実に、カイトらしい理由だった。
「だからラムザや、ユリアーネに教えたものだって、ほとんど兄さんから見て盗んだものばかりだよ。もちろん、僕の戦闘技術もね」
「カイトって、小さい時からどう育てられたんだろう……?」
「……聞きたい?」
「……うん、やっぱり聞きたくないや」
「血反吐の吐くような毎日だったけど」
「聞きたくないって言ったのにっ!」
「まぁ、カイト殿のこれは今に始まったことじゃないですよ。特に理由はありません、ほとんど気まぐれですから」
「……確かに、もうどうでも良くなってきた。眠くなってきたや」
気づけば喧噪もなくなり、他の者も毛布にくるまって寝ていた。もちろん、ケレンが連れてきた子供たちも寝ている。
ケレンもウトウトし始め、身体を揺らしながら船を漕いでると……気づけば寄り掛かるようにして、ユリアーネの膝の上に頭が落ちた。
そんなケレンの頭を、ユリアーネは優しく撫ぜた。
「うんうん、そのまま寝ちゃいな」
「私の膝も空いてますよ?」
「そんな堅そうな膝、絶対イヤだっ!」
「トホホ、これでも繊細な筋肉だるまなのに……」
「うわぁそれ、私でも引くレベルでキモいかなぁ」
「ガタガタっ(抗議の音)」
「キモいよ、ラムザ」
「皆、ひどいっ!」
そうして、すぐにケレンは寝てしまった。まるで人形の糸が切れたみたいだった。昼間から森に繰り出し、そして夜オオカミたちに追いかけられたのだ。疲れていて当たり前だ。
それは他の団員達も同じらしい。
皆、毛布に包まっている。
今まで騒がしかったのに、皆電池が切れたように、スヤスヤと寝息を立てている。戦闘後の興奮も冷めて、急に眠気が襲ってきたのだろう。
焚火に使った木材も、既に炭に変わっており、静かに音を立てて燃えていた。
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