焚火——③
「でも、なんだがウケちゃうな」
そんなやり取りが面白くて、ケレンも足をバタバタしながら笑う。
と、隣の人と足がぶつかってしまった。
(いや、人? 何か硬いものがぶつかったような……?)
それは冷たく、まるで人間とは思えなくて……思わず、ケレンは手探りで隣の人を触ってしまう。
(……なんだか角ばっていて、ひんやりしてるんだけど……って、なんだこれっ!)
そこにあったのは、棺桶だった。
ひし形で大人が丸々入ってしまうほど大きく、いつの間にかそこにあった。まるでこの棺桶が自ら移動したかのようだった。
「えっ⁉」
突然、棺桶から甲高い音が鳴り、その中から女性と思われる細い手がでてきた。
すると、棺桶から出た手は何かを探すように辺りを弄っていた。その光景は異様で、不気味でしかない。あまりの光景に思わずケレンは声も出ず、恐る恐る見守ることしかできなかった。
だけど周囲にいた人はそれを不気味がある様子もない。皆、隊長たちのやり取りで、相変わらず爆笑している。
そしてその棺桶を見かけたラムザは――。
「あっ、来ていたのですね。はい、串肉です」
ラムザが串を差し出すと、白い手は乱暴にその手から奪い取り、棺桶の中に引っ込んでしまった。そしてしばらくすると、ポイっと串だけ外へ放り投げられた。
あまりのことで理解ができず、ケレンは震えながら棺桶を指差した。
「あ、あの……ラムザこれって何?」
「えぇ、彼女は仲間ですよ」
当たり前のように、そうラムザは言ってのけた。周囲の者も頷く。ケレンにとっては、不気味でしかないが……この棺桶の中の人は傭兵団の一員らしい。
「あ、あの、棺桶に住む趣味でもあるの?」
「えっと、ですね。これには諸事情がありまして――」
「ラムザ」
そう話そうとしたところで、カイトがそれを遮った。それ以上は話すな、ということなのだろう。
「まぁ、彼女の趣味ということにしておきましょう……って痛っ! 私の身体に抗議しないでくださいよっ!」
そう言われると、棺桶がガタガタと抗議するように音を立てた。どうやら違うようだけど、話せない事情があるみたいだ。
(まぁ、でもこれが趣味だって言われても、なんか納得してしまいそうになるんだけどな)
隊長らしくない隊長、図体はデカいけど意外と繊細な副隊長、それにユリアーネみたいに女性でも隊員の一員として扱ってもらっている……そして棺桶。
変わり者が多い、とケレンは聞いていた。
それも荒くれものので野蛮……そんなイメージが強かった。傭兵団は血生臭いことも生業としているので、都市の住人は守られるつつも、遠巻きにしてみているだけだった。
むしろあまり関わらないように、と子供のケレンも親に言いつけれるくらいだ。
しかし……それはとは違うように思う。ケモノと対峙していた時、何にも寄せ付けないような鋭く冷たいようなものはあった。
でも今はそうじゃない。
「あっ、ここにも見っけ。オデコにも傷があった」
「し、染みるぅ。ずっと隠してたのにっ」
「はは、ユリアーネ殿には何でもお見通しですな」
「でもラムザは隠し事できないよねぇ、特に頭」
「うんうん、私はハゲで……って、何気に酷いこと言われたっ!」
「……ハゲ隠さず」
「カイト殿、やっぱり反省が足りてないのでは? 隊長の頭だって、ケガしてます。絶対、そうでしょう」
「や、やめろ! 頭は塗るなっ! し、染みるぅ~」
「アハハ、隊長。全身隈なく、傷だらけじゃんっ!」
「ガタガタッ!」
「棺桶の中の人も、心配してるじゃんっ!」
「……こんな自己主張のある棺桶嫌だなぁ」
三人……と棺桶のじゃれ合って姿が、焚火の灯りに照らされて大きな影となった。他のメンバーも、焚火を囲みながら、楽しく談笑したり、大声で笑ったりと、各々自由に過ごしていた。
まるで家族みたいだった。
確かに、氷柱のような鋭さはあった。でもその氷柱が溶ければ、なんと暖かいことか。少しでも普通と違うと色眼鏡で見られるこの時代には、ヴァリバルト傭兵団は暖かすぎた。
傭兵団らしくもない……。色物たちが溢れていて、皆の自己主張が激しかった。目立たないよう生きなけばいけないこの時代に、物凄い自由さを感じる。




