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ヴィ・ルブニール ~un reve~(仮)  作者: さはら、かなや
一章   金烏玉兎
5/13

少女の願い

 それは両者の腕に力が込められたのと同時だった。

 時が飛んだかのように無音で、テーブルに手の甲がついたのは少年の方だった。


「はっ、はは。まじか」


 目の前の光景に未だ理解が追い付いていたない少年は、乾いた笑みをこぼすしかなかった。


 それもそのはず、少年が負ける要素など一つもないからだ。


 少年よりも一回り小さく、まだ未成熟である少女の体躯からは到底少年を上回る膂力など出せるはずがない。だあから勝負が開始する前、少年は手を握った段階で目一杯の力を手に込めいた。腕相撲という純粋な力勝負で、唯一現実的に可能な不正とはフライングによる不意打ちしかない。審判がいない現状、指摘したところで証拠を挙げようがないのだから尚更その目算は高かった。

 

 そして散々手を尽くした結果がこれだ。そりゃあ笑いたくもなるだろう。


「参考までに聞かせて欲しいんだけど、一体どんな手品を使ったんだ?」


 少年の問いに、初めからこの結果が分かっていたかのような含み笑いで少女は答える。


「種明かしは、私のお願いを聞いてから存分に教えてあげます」

「俺に勝てるくらいの君が、わざわざ回りくどいことまでして何を望むんだ?」


 卑屈k気味に言われた少年からの嫌味は、まるで幼い子供がヒーローに憧れるような輝かしい瞳に跳ね返された。



「貴方には正義の味方になってもらいます!」

「…………は?」


 

 荷物持ち、もしくは犯罪に係わることを頼まれると、高を括っていた少年は面食らった。

 どんな思考で、どんな感性で生きていれば、年頃の少女が自分にそういう願いを要求するのか少年は真面目に思案した。そして長い沈黙の上に少年の口から絞り出されたのは、間抜けな声だけだった。


「何かおかしなところがありますか?」


 少年が何故唖然としているのか、少女は理解できていない様子だ。お互い顔を見合わせて頭に疑問符を浮かべている。


「ま、まぁ賭けは絶対だ。約束は守るが、正義の味方って具体的には何をすればいい?」


 戸惑いながらも、少年は隠すつもりのない猜疑心を少女に向ける。


「そ……うです……ね。私にもよくわかりません。けど――――――」


 考えながらポツポツと言葉を吐き出し、やがて少女は確信を持った様子で頷く。


「人間の、世界の為になる行動ですっ!」

 

 少年はその真っすぐと自分に向けられている少女の瞳を、しっかりと受け止める。


 それは嘘や冗談の類ではない。その具体性の欠片も無い行動が、正義の味方だと本気で信じている眼だ。人によっては狂気的、狂信的に映るかもしれない。


 だけどそれは、少年にとっては身近で身に覚えのある、芯が宿った眼でもあった。


「分かった。誰かを救えるというのなら、喜んで協力させてもらう」()()()()()()


 疑問は尽きない。それでも目の前の少女が語る夢物語には偽りがなかった。少年の信頼を勝ち取るには、それで充分だった。

 

 少女に応じる証として、少年は手を差し出す。


皓城 彼方(あきしろ かなた)だ。彼方でいい」


 願いを受け入れてくれたと判断した少女は、はにかみながら彼方の手を取る。


「アメリア・ソル・リュミエールです。親しい者からはリアと呼ばれています。彼方さん、これからよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。リア」


 ここでもリアは礼節を忘れずに、丁寧にお辞儀する。

 それに戸惑いながらも、つられてぎこちないお辞儀を返す彼方だった。

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