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ヴィ・ルブニール ~un reve~(仮)  作者: さはら、かなや
一章   金烏玉兎
11/13

命運

 シエルの捜索を断念して元の場所に戻ってきた咲は、壊滅した店とその周辺。そしてボロ雑巾のような状態の彼方を見つけて深く溜息を吐いた。たった数分、目を離した隙の有様だ。後処理をする者として自然と先の光景を目に浮かべてしまうものだ。


 軽く辺りを見回してルナの姿だけが見当たらないことに気がつく。戦闘の痕跡を探り、既に原型を留めていない店の方へと瓦礫を避けながら進んでいく。そしてバルコニー席であったであろう場所で足を止めた。


「いい加減出てきたらどうだ?」


 咲の問いかけから数秒後。びしょびしょに濡れたルナが海面から頭だけを出して現れた。


「いやー、敗けた敗けた。清々しいほどの完敗だね」

「いいから早く上がって来い」


 あっけらかんとしたルナの手を引いて、無理やり浮上させる。変な抵抗などされることなく陸に上がると、犬のように身体全体をぶるぶるとさせる。その水分は当然近くにいた咲にも飛んでいく。そうして全身が濡れた二人組が完成した。


 すっきりした面持ちのルナはやがて、隣にいる咲が仏頂面になっているのに気付く。そして一言。


「どんまい!」


 満面の笑みで咲の肩に手を置いて、グーポーズをした。


 頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、咲は真剣な表情をルナに向ける。

 

「また《根源(ルーツ)》を使ったな?」


 ルナが羽織るコートには所々で破れた痕が残っている。この場所に来る前とは比べようもないほどみすぼらしい。その事実が敗北宣言の裏付けにもなっている。つまりそれらは全て戦いの最中で負ったものだということだ。なのに破けた箇所から見える素肌には傷らしい傷が残っていなかった。咲が戻るまで十分も経っていない。そんな短時間で治るほど人間の治癒力は優れていない。


 咲の叱責にも、ルナはマイペースを崩さない。


「大丈夫、大丈夫。使ったのは水中にいる時だけだから。目撃者はいないよ」


 手をひらひらとさせて問題がないと告げながら、ルナは彼方が倒れている場所に歩いていく。


「絶対が保証出来ていないから言っているんだ。もう少し弁えろ」


 ルナの後を追いながら、今一度咲は被害状況を確認する。


 一軒の店を全壊。舗道の陥没。森林地帯との境界線である鉄門扉の半壊。その他にも些細だが無視できない被害が近隣にまで及んでいる。この後書くであろう始末書の量を想像して、咲は眩暈を覚えたのか額に手を置いた。


「善処しまーす」


 後始末に関与しないルナはお気楽そうに鼻歌を奏でていたが良からぬことを思いついたのか、振り返って意地の悪い笑みを咲に向ける。


「それより彼女はどうしたの?」


 言外にルナは「どうして役目を果たしていない人間が、他人を叱れるの?」と笑顔の下に滲ませる。


 咲は煩わしそうにポケットに忍ばせた袋包みを取り出して、仲に入っていた飴玉を口に含ませる。


「アメリア・オーネスト。別称が《浮遊》という点と、観測情報からそれに準ずる能力だと推測していたな?」

「今更そんな分かりきった情報がどうしたの?」

「全部白紙になった。あれは別物だ」


 自分たちが置かれている状況の変化に、流石のルナもその表情を曇らせる。


「つまりそのアメリア何某さんは《根源》を偽装してたってこと?」

「恐らく《根源》だけではないだろうな。アメリア・オーネスト……いや、それも本名かどうか怪しいな。どこまで偽装されているのか不明な段階で断定的な意見は避けたいのだが、少なくともあいつの《根源》は《浮遊》ではなかった。なにせ森林地帯の全域に加重領域を作り出していたからな。さいずめ《重力(グラウィタース)》といったところか」


 咲の顔から疲労の色を読み取り、ルナも当事者なだけあって同情を露わにする。


「じゃあ情報の洗い直しからかー……」

「これで二度目だ。お相手さんは相当頭が回るらしい」

「で、この人どうするの?」


 現状把握できる情報を共有し終えて、ルナは倒れている彼方をツンツンと指で突っつき始めた。


「そうだな。このまま放っておいても問題ないが、ルナがはどうしたい?」

「ここで私に選択権を委ねますか」


 遠目からでは死体と見間違えかねない出血量だ。長い間放置していれば間違いなく死に至るだろうが、騒ぎを聞きつけた憲兵が駆けつけてきている。状態を鑑みて、憲兵が救護してからでも一命を取り留めるに足る時間はあるだろう。


 しばらく思案して、ルナは強く頷く。


「よーっし、決めた。連れていこっか」

「そうだな。私もそれに賛成だ」


 そうしてどちらが彼方を運ぶか揉めた後、二人は帰路――――『空ノ上学園』へと向かった。

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