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ヴィ・ルブニール ~un reve~(仮)  作者: さはら、かなや
序章   ストレリチアを求めて
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Energeia

本編は大幅な改変に伴い、再掲という形を取らせていただいたことを深くお詫び申し上げます。

乱筆乱文なうえ手前勝手で申し訳ありませんが、一度でいいので目を通してもらえると励めになりま

 燦々とした星が散りばめられた夜空の下。

 鬱蒼とした木々に囲まれた場所で、青年と少女が焚火で暖をとっていた。

 

 一方はコートというにはあまりにも頼りなく皺だらけの真っ黒い薄布を、同色のシャツの上に羽織った成人男性。年齢のわりに顔は幼い。しかし目の前の灯を宿したかのような鋭い灼眼と、長く伸びた後ろ髪を適当なゴムで纏めただけで、手入れされた形跡が一切見当たらないボサボサの黒髪。それらが男を実年齢に相応しい外見へと押し上げていた。


 対して彼の正面。

 焚火越しに見える丸太に座っているのは、端正な顔立ちと、氷のような冷たい雰囲気で浮世離れした存在感を纏った少女。天鵞絨のような柔らかで微かな光沢がある白銀の髪。眉毛に至るまでその綺麗な色彩を浸食させていることが、少女がアルビノであると告げている。水面に映し出された星のように輝く藍色の瞳が加われば、銀世界に浮かんだオーロラの如き神秘的で幻想的な風景を想起させる出で立ちだ。


 そんな物語の登場人物のような少女は漆黒に塗られた空を見上げながら、退屈そうに薪をくべている青年に問いかける。


「君は何を成したいの?」

 

 何の脈絡もない唐突な問いに、青年は即答する。


「誰かを救える人間に成りたい」


 真っ直ぐな青年の眼差しを受けて、満足気に少女は相好を崩す。


「君は変わらないなぁ」


 クスクスとしたその笑い方は、容姿も相まって多くの人間を魅了する魔力が秘められていたが、青年は裏腹に煩わしさを抱いた。


「うるさい、龍女」

 

 長年の付き合いから彼女の耐性がある青年は、ぶっきらぼうな物言いをしてから視線を焚火に戻した。そんな対応に嫌な顔一つせず、少女はえくぼを作ってみせる。


「まったく、君は酷いやつだ」


 少女の余裕ある態度が余計に青年の腹を立たせる。


「バカな話はもう終いだ。明日の任務に支障が出る。早めに寝るぞ」


 ヒートアップする前に青年はハンモックを作り始めることで気を紛らわせる。


「まぁまぁ、もうちょっとお話してもいいんじゃない?」


 名残惜しそうにする少女は潤んだ瞳を青年に向ける。

 もう日が沈み切っているとはいえ、まだ就寝するには早い時間であることは確かだ。

 青年は仕方なく少女に付き合うことにした。


「って言っても何について話すんだよ」

 

 呆れ気味に青年がそう答えるのも無理はなかった。

 毎日のように任務、任務、任務。話と言えばその内容についてしか会話のネタがないくらいには、任務三昧の日々だ。だから少女もまた、何を考えていたとかではなく、左手を顎に右手を肘に。さながら館得る人のポーズで悶えていた。


「そうだ! 恋バナをしようっ!」


 話題を見つけた少女は、人形のように細い人差し指を青年の眼前に突き出す。


「人に指を向けるな」


 青年は躊躇なくその指を少女の方へと折り返すと、焚火のパチパチする音と共に骨が折れる音が森全体に響いた。


「ぎゃあああ。もう、いきなりは痛いって!」


 白々しい芝居がかった叫び声を上げただけで、少女が痛みを感じている様子は微塵もない。そればかりか、折れたばかりの指を力ずくで元に戻して平然と会話を続ける。


「で、君はいないの? 好きな人とか」


 作業の手を止めて、青年も何食わぬ顔で頭を捻らせる。


「さぁな。恋愛なんて忙しくて考えたこともないし、遠征前もそれどころじゃなかったしな」

「じゃあさ、じゃあさ! 好きな人はいないってことだよねっ?」


 反応がいい食いつきに青年は面食らう。が、すぐに顔を背けて作業を再開する」


「まぁ、そうなるかもな」


 青年は含みある言い方で、そう小さく呟いた。

 少女はそれを耳にして小さくガッツポーズを作るが、灯影に隠れて青年の方からではその様子を眼に入れることは叶わない。


 雑談したおかげか、はたまた少女との会話で疲労のピークに達したのか、青年は半眼で無意識に何回も欠伸を繰り返していた。その脳からの活動限界の知らせに抗わず、青年は完成したばかりのハンモックに横たわる。


「先に寝るからな。おやすみ」

「あ、ちょっと待って待って」


 作りかけていたハンモックから手を離し、少女は慌てた様子で青年に近づく。


「まだ話足りないのか?」


 げんなりとした顔を少女に向ける。

 そんな青年とは対照的に活力に満ちた少女は、小首を傾げて指先を口元までもっていくと、蠱惑的な声で囁く。


「おやすみのチューでもするかい?」


 青年は知っている。これが単なる悪ふざけで、自分を困らせようとしているだけだと。


「黙って寝ろ」


 もうまともに相手する気力がない青年は、そっぽを向いて眼を瞑る。


「あー、ふて寝する気だなー。照れちゃって、君は可愛いなぁ~」


 青年の状態など知ったこっちゃないと、少女は頬を指でツンツンと突く。

 始めは無視していたものの、一分近く経っても辞めない少女に、青年の我慢は限界に達した。


「やかましい」


 青年のチョップが少女の頭に直撃した。


「わー怒った怒った」

 

 高笑いと主に少女は自分のハンモックへと逃げて行く。その姿を見届けてから、今度こそ青年は頭を休ませる。


 辺りは暗澹としていて夜の眼となっていた焚火も鎮火させてしまった。当然ながら少女の姿を視認することは困難だし、少女が何を考えているのかなど青年には知る術がない。だけどもう長い付き合いだ。少女の事を嫌でも理解してしまう。


 彼女が人をおちょくるのを好きなのも。

 彼女が自分に好意を抱いていることも。

 そして自分も彼女と同じ気持ちだということも。


 けれどお互い明確に歩み寄る意思を示すことは決してない。

 来る日も来る日も過酷な任務だ。自分の死に様を容易に想像できるくらいには、三途の川に片足を踏み入れてきた。だから今は任務終わりに、二人でバカみたいな談笑をするのが何よりの幸せだ。

 こんな毎日は過ぎ去らない、当然の日常だと思って青年は眠りについた。




   ×××



 次に眼を開けた時、最初に視界に入り込んだのは荒廃した都市の廃墟群だった。

 よくよく見るとそれらは見慣れた建物で、そこは見覚えがある場所だった。辺りを見回すうちに徐々に意識が覚醒していき、視覚以外の情報も脳に届き始める。

 嗅ぎ慣れない硝煙の匂いが鼻を掠め、耳を劈く人間の悲鳴と叫び声と爆撃の挽歌。口の中は鉄の味で満たされていた。

 惨憺たる光景に青年は噎せ返る。その影響で胃の中のものが体外へと吐き出された。自分の行動を確認しようと反射的に地面を見た青年は絶句した。

 焼け野原と化した地面には黒い灰と、そして見知った者たちの焼け焦げて変わり果てた亡骸がそこには転がっていた。

 辺り一面に広がる猛り狂う劫火は、なおも逃げ惑う人々を喰らい、灰燼に帰し、その死をくべて、成長を繰り返していた。

 青年は渦中で静かに、腕に抱いた屍を眺めて絶望する。


 遅かった。何もかもが遅かった。

 みんな死んだ、

 みんなみんなみんな……。

 伸ばせる手があったのに。

 助けられる力があったのに。

 どうして――――、


「あいつは死ななきゃならないんだよ……」


 嗚咽交じりのその言葉は誰に届くわけでもなく、ましてや彼女に届くはずがない。いくら叫ぼうが戻ってくるはずもない。

 地獄絵図を背景に、呆然と立ち尽くす青年は思い知る。

 

 世界は理不尽で溢れていて、不条理が支配している――――嗚呼、単純な話だ。


 齢二十にして青年はある考えに至る。

 

 気に入らないなら、変えてしまえばいい。


『――――――――――――」


 決意した青年は力の本流を自分に向けて、淡々と世界を壊し始めた。

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