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第4話「決死」

「はいはい、貴方のイージス・ゲヘナ・ファルミウムはここに。両親の仇が悪魔の王である宮古灯里だと知った渡守翼は爆発的な怒りで我も忘れて戦いを挑む。ちょっと怒ったくらいで実力差が覆ったら苦労しませんよね?」

全身から力が溢れてくる。


呪いの王冠に目覚めた時とは比べ物にならないほどの力だ。これが俗に言う呪いの王冠の覚醒ってやつじゃないのか?


「いやいや、呪いの王冠が覚醒したらそんなもんじゃないよ」


「なんで私の考えることがわかるんだ!」


「お前わかりやすいからさ、大体わかるよ。まあ初期段階から一個成長したって感じかな」


これまでよりも圧倒的に強くなった力で灯里に攻撃する。ファティマの時のように全く攻撃が当たらないわけではないが、ほとんどの攻撃は防がれる。たまに当たる攻撃も、当てたというよりは当てさせられてると言った感じだ。攻撃も当てても意味がないと見せつけられているのだ。


「私さー、この世の全部がどうでもいいんだよね」


鬼気迫る勢いで攻撃する翼とは対照的に、灯里は極めて呑気な態度で話す。


「世界の全てに興味が持てないっていうかさ、どうとでもなれって感じ?自分以外の全てに価値を感じることが出来ないんだよ」


「どうでもいいだと!?私の両親の命もどうでもよかったってか!?」


「毛ほども興味ないよ。私はさ、私が満足するためだけに生きてるんだよ。あの時はさ、私なんだか人助けしたい気分だったからお前の両親を助けてあげたんよ。苦しそうだったからね」


「そのふざけた口を2度と開くなァ!


「お前の肩をやった時はさ、王様としてメイドのためになんかしたら楽しいかな〜って思ってやったしさ、私って自分の満足のために生きてるのに結構他の人のために動いてない?私って良いやつだな〜」


へらへらした表情をすっと無に戻す。


「その気になりゃ一瞬で殺せる奴らに興味なんて湧くわけねぇだろ?お前は羽虫と自分を同列に扱うのか?」


そして次はこれまで以上の笑顔になった。


「自分だけが至高にして崇高な存在。他はただ私の人生を彩る添え物に過ぎないんだ。見栄えの悪い飾りは処分するに限るだろ?」


「貴様だけは死んでも絶対に殺してやるぞ……!」


「ははっ、無理だよ無理。他の魔王なら私と同等以上の力を持つだろうし、ちょっとは尊重してやってもいいけどさ、お前は無理だよ。弱すぎるって」


怒りの力でスピードは上がっているが、その分動きが単調になり易々と攻撃を捌かれる。


「そろそろ飽きてきたなぁ、もう帰ってもいいか?」


「ふざけるな!貴様だけは……貴様だけは死んでも私が……」


その言葉を聞いた時、灯里の眉が動いた。


「さっきから"死んでも私が殺す"ってどういう意味だよ?」


「は?命を賭けて貴様をぶち殺してやるという意味決まっているだろ」


「あはは!言ったろ?お前の命には何の価値も無いんだって!価値の無いものを賭けたって何も変わらないさ」


いたずらを思いついた子供のような笑みを向けてくる。


「でも……お前が本当に命を賭ける覚悟があるのか気になってきたなぁ」


「な……なんだ!そんなもの、あるに決まってるだろ!」


「お前さ、呪いの王冠が覚醒したら能力が発現するのは知ってる?」


翼を無視して話を進める。


「そんなもの知らん!」


「発現するタイミングは産まれた時なのか完全に王冠が覚醒した時なのかはそいつによるんだけどな?呪いの王冠はただ莫大な魔力を齎すだけじゃなく特別な能力があるんだよ。普通の魔法なんか比べ物にならないようなな」


「それがどうしたんだよ。私はそんなもん無いぞ」


この能力っていうのが、どんなに魔力を高めても非魔王が魔王に絶対に勝てない理由なんだけどな?と付け加えてから話す。


「私の王冠の能力はな……王冠の無効化なんだよ。自分と相手の王冠を無効にしてただの一般人に戻しちゃうってわけだ」


「……その能力は何の意味があるんだ?お互いに適応されたら結局は差し引き0だ」


「寧ろさ、お前以外の魔王に使ったらただの人間の私対魔族になるわけだからね。基本的にはハズレ能力さ」


翼は、見るからに貧弱そうなこいつと鍛えられた人間である私が王冠抜きで戦ったら勝てるよな。それ使ってくれないかな……と考えていた。


「でさ、今回はこの能力を使って試してみたいんだよね。お前の覚悟ってやつ?」


灯里が合図をすると、いつぞやのメイド悪魔が飛んできた。


「はっ、メイナだったか?貴様生きていたんだな」


「あの節はどうも」


戦力にならない事はわかっているはずなのに、なぜメイド悪魔を呼ぶのかを考えていると、灯里は翼が反応できない速度で近づき肩に触れた。そして、謎の呪文を唱えた。


「呪いの王冠"虚無なる(ムガニ・コーレ・)世界の静止(ウラマ・カナテ)"」


間合いに入られ、聞いたことのない魔法の詠唱をされた翼は、またファティマ戦のような事になるのでは無いかと警戒していた。


「警戒しなくていいよ。これが例の王冠無効化能力の詠唱だから。攻撃したわけじゃない」


「確かに……私も貴様も力が消えたな……はっ!それでメイド悪魔に私を殺させようという……」


「いや、お前を殺したいだけなら自分でやりゃいいだけの話さ。これはな、お前が私を殺すチャンスを与えてやってるのさ」


「……なに?」


「今の私ならお前のブレードでサクッと殺せるだろ?だから好きに殺せばいい。……ただし、私を殺せば当然メイナがお前を殺す」


灯里が何をやらせたいのか理解した翼は、額に汗が滲んでいた。


「お前の命を賭けたって何も変わらないって言ったけどさ、今からお前の命と引き換えに私を殺すことができる。死んでも私を殺すってのが本当だって証明して見せてくれよ」


こいつを殺せるならば死んでもいい……確かにそう思っていた。だが、実際にその状況を突きつけられると何もできないでいた。


当然、ここで死ねば他の魔王を打倒することが出来ないという思いもあったが、そんなのはただの言い訳に過ぎないだろう。


死にたくない。命知らずな戦いを挑んでいながら……自らが挑んだ本来勝ち目のない戦いで、相手を倒す事が出来るという破格の条件を提示されながらも、翼は決断しかねていた。


「なーんだ、やっぱり"死んでも"なんてのは嘘だったんだな。結局そうだよな、自分が死ねば全部終わり。自分が生きてる間のことだけが大事で、死んだ後の事なんてどうでもいいんだよな」


なんの感情もなく淡々と告げる灯里の態度に、半ば背中を押されるように翼は攻撃する事を決意した。


だが、その決意の一瞬前に呪いの王冠の無効化は解除された。


「時間切れだ。お前が決意するかどうかのカウントダウンと……お前の寿命のな」


灯里の身体からこれまで感じたことのないような魔力が放出される。


「これが魔王の全力か……致命的に判断を間違えた私への罰ってか……?簡単に殺されるのは癪だな。せめて一撃だけでも喰らわせてやる……!」


つい先程までなら奴を殺せたというのに自分は本当に愚かな奴だ。……そう思考してした時だった。


「魔王同士の戦いにしては互いに雑魚じゃねーかと思いましたが……まさか人間同士で乳繰り合っているだけとはね……」


「あっ、貴方様は……」


役割を失い、ただポツンと立っていたメイナが呟いた。


その台詞に続く言葉は言われなくてもわかる。こいつは魔王だ。獣人の魔王だ。


「困ったなぁ。なぜ人間如きが王冠を?私は強者達で構築された魔王というコミュニティを気に入っていたのに人間が2匹も入り込んでくるなんて……!心の安寧に土足で踏み入られた気分ですねぇ!」


翼より一回り小柄な少女ではあったが、可愛らしいのは見た目だけだ。その少女からは全力を解放した灯里が霞むほどの魔力を感じる。単純な魔力量だけならファティマよりも遥かに上といった所だろう。


「き、貴様!何者だ!」


「何者って……見てわからないですか?私は獣人……厳密に言えば人狼の魔王、マハト・ゼナ・ルーク」


マハトは眼鏡をかけ直しながら話す。


「人間如きが気軽に話しかけないでくれます?私は人間が嫌いなんですよ。別に種族で差別してるわけではないですよ?私は弱い奴が嫌いなんです。そして、これまで見てきた人間は総じて弱い」


「確かに……弱い者いじめしてて勘違いしそうになったけど、やっぱり私は他の魔王に比べると並以下だなぁ」


「あ、弱い者いじめは好きですよ?今の私は機嫌が悪いのでねぇ、弱者を嬲って憂さ晴らしと行きますかね」


その邪悪に歪む瞳には翼と灯里が映っていた。


「……言っておくが貴様と共闘なんてしないからな?さっきまであんな事をしておいて、そんな都合の良い事言うなよ」


「言われなくてもお前が味方だろうが敵だろうが、お前の事を戦力に数えてねーよ。どっちかといえばお前が私に泣いて協力を申し出る立場じゃないの?」


「だれが貴様なんかと組むか!私は魔族を絶滅させる者、渡守翼だぞ!」


マハトに斬りかかったが、その攻撃は当たらず、翼は背後を取られた。


攻撃が来るかと思い回避しようとしたが、マハトは翼の身体をスンスンと鼻を動かしながら嗅いでいた。


「き、貴様!な、なにやってんだ!?」


「……キモい臭いだな」


「し、失礼な!戦ってる最中なんだから汗くらいかくのは仕方ないだろ!」


「そういう事言ってんじゃねえよ。そっちのガキの王冠は悪魔の王由来ってすぐにわかったが、テメェの王冠はなんなんだ?気色の悪りぃ臭いしやがって……」


マハトはハッとしたように態度を改める。


「おっと失礼、私は王だから上品に振る舞わないと。では改めまして……貴方、気持ちの悪い臭いですねぇ!」


「なんのフォローにもなってないわ!」


やはり攻撃は当たらない。他の魔王にも攻撃はまともに当たらなかったが、マハトはとにかく異常なまでのスピードで、捉えられる気が全くしていなかった。


「正直、あちらの人間と違い、私に挑んでくるその気概は評価に値しますし、王冠が覚醒すればどうなるのか気になる気持ちもありますが……まあ死んでもらうのが無難ですかね」


マハトの鋭利な爪が、翼の首を切り裂こうとした瞬間、マハトの動きが止まった。


翼は首から出血したが、致命傷には至っていない。


「な、なんだよ……殺さないのか?」


「つい昂ってしまい忘れるところでしたが、私これから食事の予定がありましてね」


「は?」


「食事の前に腹を満たしていくというのは実に品性に欠ける行為だとは思いませんか?」


「知るかそんな事!獣人風情が品なんて気にしやがって!どうせその食事の席でも犬食いするんだろ?なにせ貴様は犬だからな!」


「見逃してやるって言ってるのにそんな悪態をついてくるテメェよりは私の方が上品だよ。少なくともな」


上品を自称するマハトは、苛つきを隠しもせずに言い捨て、翼を蹴り飛ばして去っていった。


「おーい、生きてるか?」


「いてて……あ、貴様!ちょっとは戦え!」


「私なんかとは組まないんだろ?まあ見逃してくれて良かったじゃん。……それにしてもお前は命知らずだね。また会おうと言いたい所だが、それまでに死んでるだろうな」


「くそ……身体が動かん!あいつだけは私が……!」


その後、雅と奏に助けられてキマイラに帰還した。


「おっと、遅れてしまいましたか?申し訳ない、エレーヌさん」


「いや、まだ待ち合わせ時間にはなっていないよ。私が早く来すぎただけさ。では行こうか、マハトさん」


エレーヌと呼ばれた女性はにこやかに答える。彼女は人間に近い見た目ではあるが、耳が尖ってる。マハトが待ち合わせてしていた相手はエルフの魔王なのだ。


「人間の国に来て色々な店に入ったんだけどね、ここが一番私の舌にあったんだ。君も気に入ってくれると嬉しい」


2人は魔法で人間に擬態し、店に入った。


「やはり魔王同士で戦うとなると各種族の国の位置関係的に人間の国に集まることになるよね。魔王大戦の時と一緒さ」


「大体の魔王はもう人間の国に集まってきているようですね」


「まあ正直、ほとんどの魔王は天使に何か叶えて欲しいというより、他の魔王と戦う理由が出来たのが嬉しいんじゃないかな?君はそうだろ?」


「そうですね、私はただ自分の力を試したいだけです」


恐るべき力を持つ魔王達は、レストランの個室でにこやかに近況を話し合った。


だが、マハトの機嫌は次第に曇っていく。


「どうしたんだい?やはり人間の食事は口に合わなかったかな?」


「……バレましたか。やはり私は、こんな小洒落た調理が施されているよりも、生の肉をそのまま喰らうのが好きですね。特に若い人間の女は肉質がいいんですよ……例えば彼女のような」


マハトは食事を運んできた女性の首を引き裂き、その死体を喰らった。


「はは、やっぱり君は食事を美味しそうに食べるから好きだなぁ」


「どうせこうなるなら、さっきのガキ共を喰っとけば良かったなぁ」


その後、女性従業員の戻ってこない事を心配した他の従業員が様子を見に来たが、即座にエレーヌによって始末された。


高級レストランの従業員と客が無惨な状態で事件は大々的に報じられることになる。


監視カメラの映像から女性2人組の客が犯人である事は判明したが、その2人は当然まだ捕まってはいない。

「はいはい、貴方のイージス・ゲヘナ・ファルミウムはここに。翼さんは次も新たな魔王と出会うようですが、即交戦!……というわけではなく、なんだか妙な状況になるようですね」

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