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2-3.魔女様、はじめて町に来る(3) カリーヌ救出

絵は昔書いたものの再利用です

挿絵(By みてみん)

大変な目に遭った。

おかげで予定より時間がかかってしまった。

これは、当初の予定を変更する必要がありそうだ。

リタはそう思う。


最低限の買い物は、即日で持ち帰ることのできる着替えの服と、持ち帰り用の焼き菓子。

あとは、魔女様に町の様子を見せることができれば目標達成。


つまり、あとは焼き菓子を買って帰れば目標達成。


「だいぶ日が傾いてきてしまいました。

 ごめんなさい。案内する順番と時間配分を間違ってしまったようです。

 今日は諦めて、お菓子を買って帰りましょう」


「そうじゃな。わしは人が多すぎて疲れた」


多少なりとも日持ちする焼き菓子はこの町では手に入りやすい。

そこらの店で売っている。

だが、焼き菓子を扱う店が多く集まる一角がある。

日持ちする品より、日持ちしないものの焼き立ての方が美味しいのだ。

リタはそれを魔女様に食べて欲しかった。

(どうせ魔女様は、何日も我慢せずに食べてしまう)


「魔女様。良い店がありますので、そこまで移動します」

「お主が持ってきたものより美味しいのかの?」


リタが持ち込んだ書き菓子は本当に普通のもので、特別美味しいものを選んだわけではない。

下手に凝った物よりも喜んでもらえると思ったことと、入手が楽だったから選んだだけの品だ。


「ええ。好みによって変わるとは思いますが、

 ほとんどの人はこれから買いに行くものの方が美味しいと感じると思います」


「おお、そんなものがあるとは、町とは思ったよりも恐ろしいところなのじゃな」


”恐ろしくは無いと思うのだけれど”とリタは思う。


そこまで足を運ぶ。と言っても、そう遠いところでも無い。

ところが、町の中央の広場を通りかかったとき、気になる人影があった。


あそこに倒れているのは?


「魔女様、あそこに倒れているのは、私の知り合いかもしれません。

 いつでも森に飛べるよう準備をお願いします」

「うむ」


”飛ぶ”

魔女様は森と町との間を一瞬で飛ぶ魔法を使うことができる。

リタ(マルグリット)が体験したのは、まだ片道だけだが、

森から町へは一瞬で来ることができた。

帰るときも同じように帰ると聞いた。

なんで、あんなところに居るのかはわからないが、連れ帰ることができるなら嬉しい。


近付くにつれて、確信に変わる。

魔女様の森に向かう際、追っ手をまくため二手に分かれたまま合流できなかった侍従のカリーヌだ。

ここに居る意味も分かる。

わざと目につく場所に放置されているのだ。


カリーヌに駆け寄る。

「カリーヌ? カリーヌ、しっかりして。わたしよ。わかる?」


「お嬢様……」


「良かった。無事逃げ切れたか心配していました。

 捕まって殺されなくて良かった」


「お嬢……! どうして来てしまったのですか。

 私がこんなに目立つ場所に居て、捕まっていない意味が

 分かないはずはないでしょう」


もちろん、リタはその意味には気付いていた。

こんなに目立つ場所にカリーヌが居る意味。

周囲に何人もの敵が居る。


カリーヌを囮にリタを捕まえるか殺そうとしているのだ。


だが、こちらには敵が知らない奥の手がある。

今ここには、魔女様が居るのだ。


「わかってる。カリーヌ、安心して」


「魔女様、この者は私の侍従(じじゅう)です。

 申し訳ありませんが、この者も一緒に連れ帰りたく思います。

 すでに敵に囲まれております。急ぎ森へ戻ってください」


「ふむ。事情はだいたいわかった。

 まあ、怪我の治療をしなければならんのじゃろうな」


魔女がそう答えた直後、3人が消えた。


----


包囲していた側から見ると、完全な予想外だった。

昼夜を問わず監視を続けて、ようやく網にかかった獲物。

まんまと罠にかかったマルグリット(リタ)を見て、成功を確信していたのに一瞬にして消えた。


「消えた? よそ見していたか?」

「いや、消えたように見えた」

「今、魔女様って言ってたよな」


マルグリット(リタ)は森の魔女のところに行ったと聞いていた。

だが、森の魔女は人と会わない。


だから、仮にマルグリット(リタ)が魔女の森に逃げ込んでも、魔女とは会えず町に戻る。

そう考えられていた。だから、こうして待っていたのだ。

ところが魔女と一緒だった。


「マルグリット(リタ)は森の魔女を味方につけたのか」

「あの小娘が森の魔女? 小娘に化けることもできるのか」


「それにしても、消える魔法があるなんて聞いたことが無いぞ」


逃げられたのは想定外ではあったが、情報は手に入った。

ただ、手に入った情報の方も想定外。

人間にかかわらないと言われる森の魔女が、敵に回った。


「マルグリット(リタ)は生きている。

 おびき寄せるためにわざと放置していた餌をかっさらって行った。

 実在していたのか、森の魔女は……そして、敵に回ったということか」


あの侍女を囮にして待っていたのは保険で、もし森に行ったマルグリット(リタ)が、

生きて町に戻ってきた場合の罠だった。


「絶対叱られる。マルグリット(リタ)を逃したのみならず、あの侍女まで逃すとは」

「あの魔女さえ居なければ」


こうして森の魔女の実在が確認された。


……………………


リタたちはというと、瞬時に魔女の森に戻っていた。

「お嬢様……ここは?」

当然状況はわからないと思う。

カリーヌに説明する。

「ここは魔女様の森です。そして、こちらの方が森の魔女様です」

「この方が?」

その魔女様は、カリーヌの想像とまるで違っていた。

だが、命の恩人だ。


「このような姿でご非礼をお許しください。

 この度は、お嬢様並びに私のようなものまで助けていただきありがとうございます。

 お嬢様のお世話をさせていただいておりますカリーヌと申します」


「およ? 非礼?」

(およ?)

リタが説明を加える。

「いえ、魔女様が気にされないなら問題ありません。

 それにしても、いきなり一瞬で戻れるのですね。

 もっと、呪文みたいなものが必要なのかと思っていました」


「呪文を使うものは、わしには使えんかったのじゃ」


リタには”本当は呪文を使うのが普通だが使えなかった”と言っているように聞こえる。

「はい。ですが、呪文無しで使えるなら問題無さそうですね」

「うむ。わしは特に困っておらぬ」


「…………」


呪文の意味はあるのだろうか?

だが、気にしたら負け。リタは魔法のことは知らない。


とにかく魔法を使う呪文が存在し、この魔女様は、呪文以外の方法で魔法を使っているようだ。


「魔女様、ありがとうございます」


「なに、わしも今日は良いことがたくさんあった。

 あの白いクリームというのを食べることができたことが幸せじゃった」


リタは、かなり微妙な気持ちになった。

「……あ、ええ、気に入っていただけたようで光栄です」


いや、わかっている。多分悪気は無い。

この方にとっては甘いものなど生涯で何度かしか食べる機会が無かった貴重なものだということは。

だから、町を気に入ってもらうためにリタが差し上げた。

だから狙い通りでもある。


それでも、カリーヌの命と甘いものを並べられると微妙な気持ちになるのは、人間の感情として間違っていないように思う。


「カリーヌ大丈夫? 助けるのが遅くなってごめんなさい」

「お嬢様……わたし、もう生きてお会いすることはできないと思っておりました」


「ごめんなさい。あんなところに居るとは思わなくて、偶然助けられて本当に良かった」


カリーヌが逃走中である可能性や、捕獲された可能性はもちろん考えた。

だが、あのパターンは考えていなかった。

結果的に救えたから良かったものの、本当にただの偶然だった。


母の死を知ったときには、2人共死を覚悟して屋敷を出た。

運が良ければ2人で魔女様の森に到着できる可能性もあったが、

追われて途中で二手に分かれることになった。


カリーヌが全力で逃げて追手を振り切ると、お嬢様の方に敵が向いてしまうので引き付ける必要があった。

そのせいでカリーヌが逃げ切るのは困難になってしまった。

あとは運が良ければマルグリット(リタ)が魔女様の家に辿り着ける。

カリーヌはお嬢様が逃げる時間を稼げれば十分使命を全うできる。

カリーヌは逃げられないと悟ったとき、広場に逃げた。

広場に向けて追い立てられていることには気付いていた。


広場に放置されたときも囮にされていることは知っていた。

あの場でああしていることがお嬢様の命を救うことに繋がる。

そう思っていた。

目立つ場所でああしていれば、その意味に気付いたお嬢様は近付かないと思ったから。

だから近付いてきたときには失敗したと思った。

あの状況からこうして2人とも生きて逃げることができるとは思っていなかった。


2人は、お互いに生きていることを喜び合った。


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