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5-6.開拓団(5) 井戸の試し掘り

次は、井戸を掘って水質を確認する。

町に報告に行き、井戸の試し掘りの準備をしてもらわなければならない。


”森に戻る転移の印”は使ったが、”町に行くための転移の印”は、リタ(マルグリット)は使ったことが無い。

片方が使えれば、もう片方も使えるだろうと見当を付けていた。

印に手をついて、印を使う。

「転移!」


驚くほどあっさりと、町の近くまで来られた。

母と兄が暗殺されたとき、これの使い方を知っていれば、あんなに死にかけることも無かったのにと思うと心が萎える。

まあ、どっちにしろ、母と兄を守ることはできず、カリーヌを助けるために町に戻らなければならないことを考えると、結果はあまり変わらない気もする。

カリーヌが囮になってくれなければ、町を出ることができなかった。

なので、印のあるここまで辿り着くこともできなかったのだ。


森で追い詰められて、危うく死にかけたというあたりは回避できたがリタ(マルグリット)は生き残ったし、追われていたから魔女様が助けてくれたような気もするので、必要なことだったのかもしれない。


……………………


普通に門を通って、事務所に行く。


「ようこそいらっしゃいました。マルグリットお嬢様」


「時間通りに来たつもりだけれど、どうかしら?

 森までは鐘の音が聞こえないから、遅かったらごめんなさいね」


鐘の音が聞こえない都合、時間が正確にはわからない。

大きくズレることは無いが、ある程度誤差が大きい。

町に住んでいる限り鐘の音は聞こえるので、リタ(マルグリット)には時間がわからないという経験はあまり無かった。

鐘が鳴る少し前を狙ったつもりが、聞こえなかったので、遅れて来たことになる。


「いえ、まだ来ていない者も居ります」


そんなに大きくは遅れていないのだろう……とリタ(マルグリット)は考えた。


「近頃は、鐘の方がズレてるって話もあります。

 アレクサンドラ様の時には、カステルヌの鐘は世界一正確と言われていたのに」


ラスカリス領時代のカステルヌの鐘が正確だったのは確かだが、

世界一だとまでは、そんなに言われたことが無い。

お爺様のところと、どちらが正確かはわからない。


鐘がズレていることを人々が体感できるとなると、かなりズレが大きいことになる。


カステルヌの町は商業が盛んなので、鐘が正確である必要がある。

そのための設備に力を入れていた。


それはそうと、リタ(マルグリット)はもうお嬢様ではない。

「それと、お嬢様はやめてください。

 ラスカリス家は領地を持っていませんから、私はもう貴族ではありません」


「我々にとっては、お嬢様は、お嬢様なので」


貴族でも無い者が貴族扱いされると、危険なので辞めて欲しいのだが、

平民には通じない。


同じ規模の町を持つ貴族であっても、カステルヌ領は田舎扱いで田舎領主とバカにされるくらいなので、領地無しが貴族扱いは非常にまずいと思っている。


まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いざとなれば、森に籠って人前に出ないようにしようと思う。

※もちろんフラグです!


……………………


事務所はもうすっかり、開拓団の詰め所みたいになっている。

ここにはガティネ家の監視者も居る。


リタ(マルグリット)は基本この町では集会禁止だが、ガティネ家の監視者が居れば問題無い。

敵対行動をとらないことさえわかれば問題無い。

難民に関しては、活動許可を取っている。

難民の移住は敵対行動ではない。

偶然ではあるが利害が一致しているためだ。


カステルヌは人口不足では無いので少々減っても構わない。

商業都市としての色合いが濃いので、住民の数を増やすより商業区域を充実したい。

そのあたりは、ラスカリス領であった頃と事情は変わらない。


結局、暴動や犯罪は、満足な環境を得られない者が起こすものなので、

難民は存在自体がリスクとなる。

難民は町にとって潜在的な危険物なので、いなくなってくれた方がガティネ家としても有難い。


とは言え、最近発生した難民は、ラスカリス家に忠義を感じるものが多い。

その者たちにガティネ家が金を出して助けるのも癪に障る。

リタ(マルグリット)が自分で金を出して難民を連れ出してくれるのならガティネ家にとってはメリットになる。

そのため、むしろ協力的であった(ので、開拓団詰め所の存在が許された)。


……………………


用地の準備ができたことと、大まかな場所の説明をして、1回目は下見。

職人さんに、どこに井戸を掘るか決めてもらう。


いきなり大人数で行って、井戸掘るには向かないという結論になってしまうと困る。

獣が出るかもしれないので魔女様に同行してもらう必要がある。

道案内の意味でも魔女様がいてくれないと困る。


なので、今日は場所に準備ができたことを伝え、下見に出発する日を決めただけ。


「今日は魔女様は一緒じゃないのか?」

「はい。今日は一人で来ました」

「転移ってのは魔法なんだろ?」

「はい。魔法です」

「魔女様が居なくても使えるのか」


まあ、そう思うのも当然だと思う。

実際に、リタ(マルグリット)が自分で魔法を使ってきているのだ。

今のところは、それは隠しているので、

魔法を使っているのは魔女様ということにしてある。


「魔女様にお願いして回収してもらいます」


「ずいぶん便利なもんなんだな」


本当はリタ(マルグリット)が自力で転移しているのだが、

魔法がどんなものかは皆知らないので問題無いようだ。


……………………


下見に行く当日、転移で来ると既に近いところまで皆来ていた。

「本当に一瞬で現れるんだな」


「凄いですよね。これが無いと私一人では町まで辿り着けるかわかりません」

とは言っても、今日は魔女様と一緒だ。


ずいぶん人が多い。

井戸を掘る場所を決めるための下見に行くだけだというのに6人も居た。


リタ(マルグリット)と魔女様を含めた8人で下見に行く。


「転移する瞬間に、出る側に人が居たらどうなるのでしょうね?」

「強引に転移すれば、相手を押し出せる。

 待ち伏せされていても、すぐ帰ることもできるぞ」

「そういうものなのですか」

と言いつつもリタ(マルグリット)には今ひとつわからなかった。


例えば、弓を持って狙われているときに転移して、待ち伏せに気付いて帰ることができるかというと、無理な気がする。


道案内兼護衛で魔女様が同行しているのだが、少なくとも道案内は不要な様子で、どんどん進んでいく。

危険な獣に遭遇することも無く大きな問題は無かったが、リタ(マルグリット)にはこの歩きがきつかった。

頑張って歩くが、置いていかれないようにするのがやっとだった。

リタ(マルグリット)は居るだけで、道案内もできないし、獣を追い払うことは当然できない。

ただ、魔女様に丸投げというわけにもいかず、同行するのが仕事。

だが、リタ(マルグリット)は日頃そんなに長距離歩かない。

皆は歩き慣れていて、リタ(マルグリット)は歩くだけでも酷く疲労した。


さらには、特に案内せずとも新しい大火炎輪の跡に到着した。

魔女様の森の隣に作ったという話をしただけで大雑把な場所は特定できる。

「これが大火炎輪の円になります。この中心付近が開拓地です」

しばらく歩くと、見覚えのある場所に着く。ここが中心だ。


「このあたりを開拓地にしようと思うのですが」

リタ(マルグリット)がそう言うと、現地視察に来た人が言う。

「ここなら大雨で水没は無さそうだな」

周囲より若干高い場所にあるので、水没しにくそうではある。


「難民の方の役に立つでしょうか」


「そりゃ、どこで何をはじめようと思っても元手はかかる。

 だったら、ここで一からやった方がと思うやつも多い」


確かに開拓はするが、リタ(マルグリット)は、新しい開拓地を作りたいのではなく、

行き先が決まるまでの一時凌ぎの場所を用意しようとしているのだが。


どうも想定しているものが違うような気がしてならない。


----


「次は井戸の試し掘りだな」

つまり、地形的には住むに問題無さそうだということだ。

なので、次は実際に掘ってみようという段階に進む。


……ということは、試し掘りのための人を集めて再度来ることになる。


また帰りも歩き、更には、再度歩いてこなければならない。

片道で十分すぎるほど苦しんだリタ(マルグリット)は、町まで歩くのはもう無理だと思ったが、泣く泣くついていく。

リタ(マルグリット)が歩きで苦戦しているのは誰の目から見ても明らかだった。

「すみません。お嬢様にこのようなことをさせてしまって」


「私がやるべきことだとは思っているのです。

 ただ、なにぶん、体力には自信が無く」


リタ(マルグリット)自身は居ても何の役にも立たない。

でも、少人数の移動で身の安全を確保するためには、魔女様の力が必要なのだ。


……………………


今日は、井戸の試し掘りのため、職人さんを連れて歩く。

憂鬱だ。またあの距離を歩かなければならない。

元貴族令嬢で、今は転移で行き来しているリタ(マルグリット)は歩きは得意ではない。


前回もかなり息も絶え絶えくらいの状態に追い込まれた。


再度泣く思いで歩くが、今度は、荷物を運ぶ者たちの足が遅く、前回ほどリタ(マルグリット)は苦しまずに済んだ。

歩くペースが少し違うだけでだいぶ楽だった。


試し掘りは、予想通りの深さで水が出た。

飲み水として問題無い可能性が高い。


大火炎輪の位置の確認と、水の確保ができる目途が付いたので、これから獣を追い払って、安全地帯を確保しようと思うが、移民はすぐにでも移ってきたいと言う。


「もう、ここに住んだ方が早いです」

「でも、まだ、獣を追い払っていません」


……………………


リタ(マルグリット)は危険なので帰るよう話をするが、どうも帰りたがらない。


そこで不意に魔女様から助け船が。

「心配であれば、火炎輪を出しておくか。獣は火を恐れる故」


「火炎輪を出しっぱなしにできるのですか?」

「1つや2つであれば特に問題無い」

まあ、魔女様は大火炎輪を数日間燃やし続けるのだから、あれと比べれば火炎輪の1つくらい、たいした問題では無いのだろう。


魔女様が言うには、獣は火炎輪には近づかないので、襲われたら火炎輪の近くに逃げれば追ってこないという。


「それでは魔女様、火炎輪の設置をお願いできますか?」

仕方が無いので魔女様に火炎輪を1つ設置してもらう。


「どこに設置するのが良いと思いますか?

 炎は真上に上がりますが、邪魔な木が有れば倒しておく必要があります」


とりあえず場所を確保して火炎輪を出してもらう。

何の前触れもなく、ここにと決めた場所から炎が上がる。

不思議なことに煙が出ない。透明の炎に見える。

「大火炎輪と同じ火だ」

大火炎輪も、昼間は透明に近く見えるが、夜暗くなると大きな炎に見えるようになると言われている。


「これが火炎輪? 魔法ってやつですか?」

「これはいつまで燃え続けるのですか?」


「いつまでもつかはようわからぬ。しばらくは毎日来る故、火が絶えることは無い」


獣を追い払うまでの間、獣除けの柵ができるまでの間くらい、獣除けになれば良い。

リタ(マルグリット)と魔女様はそう考えていた。


一方で、魔女様の魔法をはじめて見た者たちは、こう思う。

”魔女様が付いている限り、誰も手出しできない”


……………………

……………………


町の方でも動きがあった。水が出ることが確認された時点で、開拓地に移動する者が増え始めたのだ。

傭兵を雇って、護衛付きで移動しているので獣に襲われる可能性は低いと思う。


それにしても、現段階では、あそこに行っても、まともに生活できるかわからない。

確実に不便なのになぜ行きたがるのかがリタ(マルグリット)にはわからない。


しかも、やめてくれと言ったのに、新ラスカリス領と呼ばれている。

リタ(マルグリット)はガティネ家と対立したくない。

貴族としてのラスカリス家は、リタ(マルグリット)の母、アレクサンドラ・ラスカリスの代で終わった。

リタ(マルグリット)はもう貴族では無いし、再び貴族になる気も無い。


既に領主扱いされているリタ(マルグリット)を見て心配になったのか、魔女様がこんなことを言いだす。

「リタ(マルグリット)、おぬし、ここに町を作ってわしの森を出ていくのか?」


「私はそんなつもりありません」


「おぬしは、貴族しかやれぬと申しておったではないか」


確かに言ったことはあるが、貴族がやりたいわけでは無い。

やりたくないけど、他にできることも無いと思ったのだ。


「あれは意味が違います。私は家事も何もできないという意味で言ったのです。

 領主をやりたいと言ったわけではありません」


「そうであったか。わしは、リタ(マルグリット)にはずっと一緒に居て欲しいのじゃ」

「はい。私もそう思ってますよ」

「そうか、わしは、おぬしのような優しい者を他に知らぬ」


魔女様にそんな風に思ってもらえているのならと思ったが、

続きを聞いて、ちょっと微妙な気持ちになった。


「おぬしの胸がわしの安心なのじゃ」


おそらく嘘では無いし、性的な意味では無いと思うが、なんだか、感動した気持ちが1/10くらいに減った。

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