5-4.開拓団(3) 移民の人数と商人の取り分
一方で、ファブリスは、住民が増えてからが本当の商売だと考えていた。
職を失った商人が細々と生活するのであれば20人、30人程度が相手でも再起の足掛かりにはなるかもしれない。
だがファブリスには、現状既に再起に十分な財産があり、そういう人数を相手に商売をする価値を感じない。
この話に乗ろうとしているのは、将来的に人口が大きく増える可能性があるからだ。
当然ファブリスの想定では住民は50人以下ではない。
「では50人を超えた場合は?」
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”50人を超えた場合”
リタは、50人は超えないと思うし、超えるにしても当分は先の話になる。
リタは避難先を用意して、自力で生活できるようになるまでの場所と機会を提供する。
その先は、勝手にやれば良い。
50人を超えないうちはと言ったが、おそらく超えない。
もし超えたら、通常の領地運営と同じで良い。
「相場から離れていなければある程度の比率で購入します」
「ある程度の比率とは?」
”ある程度の比率とは?”
これはたぶん聞かれるとは思ったが、実際のところリタにはよくわからない。
カステルヌの町のような規模であればわかるが、小規模の自治体はよくわからない。
リタはカステルヌの町を継ぐか、カステルヌと2倍も差が無いような町に嫁ぐ可能性が高かった。
なので、その規模を前提とした勉強しかしていない。
カステリヌの3倍の規模の町でもある程度対応できるとは思うが、新たな村の立ち上げなんて全くの守備範囲外だ。
村にしたいならすれば良い。
リタは村貴族として、その村の領主になる気は無い。
リタが関わる範囲だけ見えていれば良い。
リタが自身の責務だと考える範囲は、あくまでも、カステリヌの領主交代で難民となった人々が新たなスタートをするまでの繋ぎでしかない。
領主が変わったところで、町民全員が大損害を受けることは無く、運悪く大打撃を受けた人たちの手助けができれば良い。
そんなに大人数であるわけもなく、せいぜい50人分を保証しておけば十分だろう。
そう考えていた。
「開拓地として発注する物資のうち、全人口に対して50人に相当する量を発注します。
上限は設定していませんから、実際にはもっと多く発注するかもしれません」
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これではファブリス側の旨味が少ない。
将来人口が増えた場合に賭けようというのに、人口が増えても利権は相対的に弱まっていく。
上限は無いのかもしれないが、人口が増えると商売としての旨味が出るので、他の商人が割り込んでくる。
それを今の段階である程度有利に商売できる状況にしておきたいのだ。
だが、マルグリットお嬢様 (リタ)は悪気があって言っているわけでは無いように思う。
おそらく、意図がうまく伝わっていないのだ。
この歳のお嬢様に商売人の常識が通じないのはわかる。
だが、頭は悪くないように見える。単に商売の常識を知らないだけ。
規模が大きくなったときに安定して商売できる環境が欲しい。
それを伝えれば理解してくれるだろうか?
ファブリスは”人口が増えたときに儲けたい”これを伝える。
人口に比例して売り上げが増える仕組みを提示する。
「それでは全人口が50人までは全量、
全人口が100人を超えたら1/2でいかがでしょうか?」
「どういうことですか?」
「人口が1000人になっても50人分固定では、
町が大きくなるほど私の商会の占有率が下がってしまいます」
理屈的にはそうかもしれないが、開拓地は一時的な居留地であって、そんなに大きくする予定は無い。
人口1000人ではカステルヌの町よりも大きな町になってしまう。
100人も来るだろうか? 来たらリタも困る。そんなレベルだ。
「はい。占有率が下がると競合に対して仕入れが割高になるのでしたか。
ですが、難民の居留地ですよ?」
「はい。1/2であれば100人を超えると50人分より多くなります」
リタは、この1/2という数字に引っかかる。
町を運営するには占有率の問題がある。
確か、1つの仕入れ先から1/2を保証するという契約は避ける必要があったはずだ。
1/2だと相手は、残り枠を100%確保しても同等にしかならない。
これでは競争が成立せず、確実に勝てる状況を相手に保証してしまうことになる。
不当に高い価格で買わされることになる。
”相場であれば”という条件は付けているものの、正確な相場はわからない。
競争が発生しない状況を作るのは不味い。
結果としての占有率は大きな偏りが出るのが普通だが、保証する数字は1/2ではダメだ。
「全人口が50人までは全量、全人口が150人を超えたら1/3ではいかがでしょうか?
ご不満であれば、井戸掘りの費用を半分負担いたします」
「…………なかなか絶妙なところを突かれました。
しばし考えさせてください」
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ファブリスは1/2という数字になんらかの制限をかけてくるとは思ったが、50人に拘るとは思っていなかった。
マルグリットお嬢様 (リタ)は50人という人数を見込んでいる可能性が高そうだ。
ファブリスの予測は違うのだが。
現時点で移住を望む者だけを数えても50人ではない。開拓が成功すれば50人は確実に超える。
開拓に時間をかけると、50人さえも移住してこないという結果に終わるが。
実際のところ、井戸を何本か掘った程度でファブリスの財産が底をついたりはしない。
ただ、商売相手が10人、20人では商売は成り立たない。
条件の良い仕事が見つかるまで細々と稼ぐにも弱い。
50人という数字が絶妙で、商売が成り立たないという数字ではない。
ただし、ファブリスは人口100人くらいにはなるのではないかと思っていた。
カステルヌも手狭になっている。
獣の心配のない新しい土地があれば、そのくらいの人数は集まるはずだ。
その予測が当たれば、しばらくの間、50人分の小規模な商売をすることになる。
51人から150人までの間は、受注量が増える保証がない。
100人しか居ないところで、保証無しに他の商会と張り合うのは旨味が少ない。
だが50人分保証されるのであれば、維持費を稼ぐくらいはできそうだ。
人口が150人を超えると、絶対値では売り上げは増えていく。
1/3でも、人口が300人になれば100人分が保証される。
将来大きな町になれば1/3は破格だ。
博打にはなるが、勝率が低いとは言えない。
気になるのは、マルグリットお嬢様 がラスカリス家の再興に興味が無さそうなところだった。
移住地を大きく育ててくれないとファブリスの儲けにならない。
とはいえ、マルグリットお嬢様 がこんな弱気な姿勢を見せているからこそ、他の商人が群がってきていないというのもある。
今のうちに、食い込んでおく方が良い。
そして、細かく具体的な条件を詰めようと別の機会を設けると、必ず人が増える。
ライバルが参入していない今のタイミングで即決しておいた方が良い。
井戸掘りの費用の半分負担も条件に入れておく。
資金の節約の意味よりも、マルグリットお嬢様 (リタ)に、より強く当事者意識を持ってもらうための意味合いが大きい。
ファブリスは長く考え込んだ後答える。
「全人口が50人までは全量、全人口が150人を超えたら1/3。
井戸掘りの費用を半分ずつ。この条件でお受けしたく思います」
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ずいぶん長く考え込んでいたところを見ると、本当に妥協ラインに近い条件だったのかと思う。
ただ、リタはそんなに人口を増やす気は無いし、居場所のない人がひっそり暮らせる環境を用意したに過ぎない。
ファブリスは人口が増えると思っているように見える。
リタは、最低限、日常生活を再スタートさせるための準備をすることができる場所を用意するのが目的であり、そのくらいしておけば十分責務を果たしたと言い切れると考えていた。
もし、村になって代表が必要なときはファブリスが自分でやれば良い。
50人が安定して定住できる場所と環境を作り出せれば村としての申請が可能になる。
100人を超えると村として申請しなければならなくなる。そして、税が発生する。
税がかからない人口50人程度の開拓地は世界には大量にあると聞いている。
リタが作ろうとしているのもそれだ。
税が発生しない規模の開拓地。
※この国は”領地の価値≒領主の価値”が基本です。
まあ、実際には新参者の立場は弱かったりとかありますが、
建前上は”領地の価値≒領主の価値”で、正式な書面では実際にそのように扱われます。
書類だけでは、人の価値は決まらないものなのです。
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■解説
ファブリスさんは基本善人(比較的誠実な人物)ですが、商人なので利益にならないことはあまりやりません。
今回ファブリスさんが過剰な要求をしていないのは、”善人だから”という理由ではなく、リタさんにはある程度の経済的余裕があることを知っていることと、あまり極端な契約をすると、簡単に見直しが入ることを知っているからです。
金を持っていない相手になら、金を出す代わりに……という感じの交渉がしやすいのですが、リタさんにはそれが通用しそうもありません。
さらに初期投資の回収が難しい開拓事業を最初期から支援した商会の占有率保証が1/3くらいであれば、そんなにおかしな数字ではない。
実際には、おそらく成功する可能性が高い事業で1/3なら十分利益になるという予想をしているからです。
ただし、実際のところ、善人であり、ラスカリス領時代の住人が困っているのが全く気にならないわけではないことに加え、ラスカリス家に対して恩義を感じているのは確かです。
(ただ、今回の騒動程度で難民になるような人材は、あまり能力が高くないとは思っています(簡単に言えば見下しています))
都合よくこういう人物が現れたので、リタ(マルグリット)さんはそのまま任せていますが、実はリタ(マルグリット)さん家事はできませんが、人物を見抜く能力はそこそこ高いです(なので、性格悪い人を避けます)。
その特性は、本人も自覚している通り令嬢にはあまり向いていないようで、だいたい仲間外れにされて、いつもぼっちですが、割と恵まれた才能でもあります。
本人があまりそれを重要視していないので、積極的に活用する気は無さそうですが。
まあ、本人の希望と現実の間には壁があっても普通です。
※現実世界でも同傾向ですね!




