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4-1.カリーヌ

※”リタ”は”マルグリット”の愛称です。


「わしは今まで幸せを感じたことが無いのじゃ。お主らが居ると、腰がヨレる」


「今までどんな生活送ってきたんですか!」


お嬢様が魔女様に渾身の突っ込みを入れている。

「お、お嬢様……」


確かに、元からマルグリットお嬢様 (リタ)は芯からのお嬢様とはちょっと違っていた。

ところが、僅か2~3日会わない間に出来の悪い主人に仕える使用人みたいなポジションに収まっていた。

それからずっとこの調子だ。

これはカリーヌには受け入れがたい状況だった。


「カリーヌ、あなたも思うでしょ?

 私は魔女様にもっとかわいらしい服を着ていただきたいの」


カリーヌは、魔女様がマルグリットお嬢様 (リタ)とカリーヌ自身の命を救ってくれたことには感謝していた。

それでも、自身の忠誠の対象はマルグリットお嬢様 (リタ)だった。


「私は()()()()きれいなドレスで着飾っていただきたいです」


----


リタは魔女様にかわいい服を着て欲しいという話をしたつもりだったが、

なぜかカリーヌはリタにドレスを着て欲しいと言う。


今の暮らしにドレスがあっても着ていくイベントが無い。

なので、貴族復帰して欲しいという意味なのだと解釈する。


だが、リタ(マルグリット)は貴族令嬢に執着は無かった。


「え? ああ、ごめんなさい。

 私、たぶん元から貴族令嬢とか向いていないのだと思う。

 今安全が確保できてお屋敷に戻れたとしても、たぶん退屈してしまうと思う」


「ですが、領民はお嬢様の統治を望んでいるでしょう」


母は領民からの人気は高かった。

おそらく、領民にとっては領主交代で環境は悪化したと感じる可能性が高い。


----


「ええ。それはそうなのかもしれない」


”それはそうなのかもしれない”

お嬢様には自覚はあるのだ。

まだ貴族になってもらえるチャンスはあるかもしれない。


……………………

……………………


カリーヌはようやく手に入った裁縫道具で、魔女様の服の修繕を行う。


「おお、裁縫にはそんなに細い針と糸を使って居ったのか。

 カリーヌ。おぬしはなんでもできるんじゃのう。凄いのう」


「はい。私はそんなに裕福な嫁ぎ先が望めず、子供の頃からこうしたことはやってきましたので……」


それを聞いてリタはなんだか責められているような気持になる。

リタは裁縫もろくにできない。


凝った刺繡はやったことがあるが、裁縫というのはやったことがない。

貴族令嬢には不要なことだった。

基本貴族令嬢に必要なことは、貴族令嬢以外には不要なことが殆どだ。


が、カリーヌも貴族令嬢ではある。でも、カリーヌにできてリタにはできない。

なんだか悲しい気持ちになる。


カリーヌはもちろん、気付いた。

「お嬢様。お嬢様には私が付いております」


でも、リタ(マルグリット)はもう少し役に立ちたい。


※カリーヌさんは頼って欲しいので、お嬢様が役立たずでも問題ありません!!

 むしろ役立たずの方がカリーヌさんの野望に……


……………………


「お嬢様とは身分が違います。

 私は身分の低い貴族の3女として生まれました。

 身分の高い家であれば、政略結婚で嫁ぐことが多いのでしょうが、

 私の家で3女ともなると良い嫁ぎ先がありません。

 良い縁が望めないのであればと、上級貴族に仕えたいと思い、

 マルグリットお嬢様 (リタ)の侍従(じじゅう)としてご奉仕することになりました」


侍従(じじゅう)とはなんじゃ?」


「専属で身の回りのお世話をさせていただいております」


「おお、それは良いのう。

 わしには身分が無いから侍従(じじゅう)は持てぬか」


「平民より格の高い家の者をというのは、現時点では難しいかと思いますが、

 メイドを雇うことは十分できると思います。

 魔女の森に入る勇気がある者に限られますが、ご所望とあらば探してきましょう。

 必ず連れてくるとはお約束できませんが」


以前はともかく現在は、魔女様が悪い魔女ではないという噂も急速に広まりつつある。

それに恐らく平民から見たら破格と言える給金を出せるだろう。

おそらくここで働きたいと思う者も居るはずだと思う。


魔女様には恩はあるが、カリーヌの気持ちとしては、マルグリットお嬢様 (リタ)を侍女のように使うのはやめさせたい。


「今はお主が居るから良いわ。どうせ出て行く気は無いのであろう?」


「はい。お嬢様が居る限りは」


魔女様はメイドが欲しいと言う割に、探して雇う気は無いように見える。

カリーヌにはそのあたりがよくわからない。


カリーヌがやるのは構わない。でも、お嬢様を侍女のように扱うのはやめて欲しい。


……………………

……………………


この国の成り立ちの都合、貴族の格は基本領地の格で決まっている。


格の低い貴族でも、領地の格が上がれば、領主の格が上がる。

貴族としての格が上がる。

災害等で領地の格が下がれば、貴族としての格が落ちる。


カリーヌの家は俗に村貴族(領地が町未満)と呼ばれる下級の貴族の家である。

村というのは、自立した生活を維持することはできるが規模が大きくなく、野生動物等の影響を十分排除できていない自治体を指す。

対処はできるが、何かあるとすぐに村総動員。

町では総動員など、余程のことが無い限り発生しない。


カリーヌは村貴族とは言え、貴族なので村民と比べれば裕福だった。


本を買い与えられたこともあり、カリーヌは子供の頃からお姫様のような暮らしに憧れていた。


少し大きくなってからは、もっと大きなイベントで、お下がりではないもっときれいなドレスを着たいと思った。

だが、それが難しいことは明白であった。

せいぜい良くて似たようなレベルの家に嫁ぐか、上流階級の侍女になるかが現実的な選択だった。


カリーヌは、例え侍女の立場であっても上流階級に接してみたかった。


カリーヌの地位は侍女になるには十分であり、町貴族の侍女見習いになることができた。

※侍女にはそれなりの身分が必要です。


そこで見た上流貴族の生活は想像とはちょっと違っていた。

表面的には想像通りだったが、表面は優雅でも日々戦場のような環境でもあった。


カリーヌの家にも侍女は居た。

村貴族の侍女は、主従関係であるとともに、もう少しだけ友人にも近い部分があった。

暇があれば主人と雑談したりする。


町貴族の侍女はもっと道具に近かった。

そもそも会話はほとんどない。


そんな中一人の少女に出会った。

侍女にも気軽に話しかけてくる、少し変わった貴族令嬢であった。

※ぼっちなので侍女と話すことが多かったのです。


その少女は、カリーヌが”自分がこうであったらよかったのに”と思うような外見を持っており、カリーヌの理想に非常に近かった。

近くに居れば話しかけてもらえるし、専属侍女の話が出たときも一番に名乗りを上げた。

これで誰よりも近くでお世話することができる。


カリーヌは、お嬢様を自分以外の者に触れさせるのを嫌っていた。

だから、入浴や髪の手入れは特に率先してやっていた。


残念ながら、髪やドレスのセットはカリーヌよりも上手い者が居るため、大事な場面ではカリーヌがやることはできなかったが、日常の多くの場面でカリーヌが世話をしていた。


当初、カリーヌは、お嬢様にカリーヌの夢を代わりに叶えてもらっていると思っていた。


でも、他の者がお嬢様の入浴の手伝いをしているのを見ると、心穏やかではなくなることに疑問を抱いた。

お嬢様が他の侍女と楽しそうにしているのを見ると心がざわつくことに疑問を持つようになった。


そして、自分の夢だった上級貴族の近くで、自分がやりたかったことを実現してくれるのを眺めていたいわけではないことに気付く。


誰よりもお嬢様の近くに居て、お嬢様を専有したいというのがカリーヌの願いになっていた。


主人を専有するなんて、仕えるものとして褒められない感情だと思う。

ある程度皆持っている感情ではあると思う。ただ、それを実行してはいけない。


カリーヌは昔から結婚には憧れが無かった。

上級貴族に嫁いで貴族夫人になる夢はあったが、欲しかったのは上級貴族の夫人という地位であり、素敵な男性に対する憧れはあまり無かった。


どんな男性が好みか聞かれたときにも、あまり具体的には答えられなかった。

あまり極端に太っているのは好みではない。あまり極端に年上ではない方が良い。

そんな具合で、好みと言うより最低限の条件みたいなものしか無かった。


一方で、どんな女性が好みかであれば、答えることができた。

背は高過ぎない方が良く、優しさと素朴さを兼ね備えたような顔立ちが良い。

鋭く洗練された美しさではなく、柔らかさと茶目っ気が有る方が良い。

性格は優しくて、人懐こい感じが良い。


上位の完璧な貴族令嬢に仕えたい、上位の完璧な貴族令嬢になりたいはずなのに、求めているものがちぐはぐであるという自覚はあった。


でも、居たのだ。そんな理想の貴族令嬢が。

まあ、ちょっと貴族令嬢っぽくないところはあったが。


そんなお嬢様にお仕えしているうちに、元は、地位や暮らしに憧れていたつもりが、本人に惹かれていることに気付いた。一度気付けば明確に自覚できるようになる。

上流貴族にお仕えして上流貴族社会に触れたいという気持ちから、お嬢様のお傍に居たいという気持ちに変わっていた。


ある日、領主様(お嬢様のお母様)に呼び出され、そのあたりの事情を多少聞かれた。

ストレートに答えることはできず、言葉を濁したが、おそらくバレたと思った。


むしろ、それ以前にバレていたから呼び出されたのだと思った。


てっきり、専属メイドの座を剥奪されると思ったが、侍従の話を提案された。

侍従は常時お嬢様に仕える仕事であり、必ずしも身の回りの世話をするとも限らないが、

作業のためにお嬢様の傍を離れることはない。ずっとそばに居ることができる。


この侍従の役割にはボディーガードも含まれる。

戦力として期待されているわけでは無い。

いざというとき、自身の命を懸けてお守りする。

最初の一撃、数秒を稼ぐか、囮になってお嬢様を逃がすのか。


後から思えば、この時すでに、最悪の事態が訪れ、命からがら逃亡することになる可能性が高いことを考慮していたのではないかと思う。


だから、仕事としてではなく、自らの意思でお嬢様をお守りしようとする者としてカリーヌが選ばれたのだと思う。

おそらく、少し前に呼び出されたのは、どれだけお嬢様を守ることを優先するかを見極めることが目的だったのではないかと思った。


自身の命を懸けてでもお守りするというその一点にかけては、カリーヌは自信があった。

それ以外のところでは必ずしも、仕えるものとして相応しいとは自身でも思っていなかった。


だから、身の危険が迫っていることを前提とした人選だと思っている。


……………………


カリーヌはいつの頃からか自覚していた。

自分の好みにぴったりの女性が存在していて、その方に恋をしていることを。

いつでも傍に居たいと願うようになっていることを。


その願いは一時的に壊れそうになったが、今はまた傍に居ることができている。


今は以前のような貴族令嬢としての生活はできていないが、カリーヌはお嬢様には、自分がなりたかったような貴族夫人になって欲しいと思っている。

だから、チャンスがあれば貴族になる道を進んで欲しいし、少なくとも侍女や下女のようなことはしてほしくない。


カリーヌはそう思っていた。


ところが当のお嬢様は、魔女様の世話をしたがる。


カリーヌは、お嬢様には、お嬢様のままでいて欲しかった。

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